作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(284)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

お見舞いの決め手

栗田は週末に団と山口に旅行に行くことになるが、交通事故で入院するハメになる。すぐに病院に表れる団。「栗田さん、大丈夫ですか」「ちょっと腰を打っただけなんですが、念のため2,3日入院して検査した方がいいと言うことで」「栗田さん、打撲以外はたいしたことないとなると、食事は何を食べてもいいんでしょう。今夜の食事は僕に任せてください」

(もう日も暮れた。山岡さん、顔くらい見せてくれてもいいのに)「お待ち遠さま。レストラン団の営業開始です。私はここでお相伴させていただきます」「団さん、これはいったい」「東京一のフランスレストラン「レ・ドゥワ・ドオール」のシェフをはじめ、店のスタッフに出張してもらいました。病院の玄関前に、調理室のついた特製の車を停め、その中でシェフが調理した料理を、大急ぎでここまで運んできます」「まあ。そんな大変な」「今日のためのメニューです」

「私のためにメニューまで印刷して。こんな贅沢な。しかも、こんなに沢山」「心配いりません。一つ一つの量は少なくしてあります。いろんな味を楽しんでいただこうと思って。シャンペンはクリュグです」「凄い」「では、軽傷で済んだ幸運を祝して、乾杯」「ありがとうどうざいます」

「今度の週末は無理ですから、山口行きは来週にしましょうか」「ええ、結構です。フグが美味しいうちに行かないと」「まかせてください。日本で一番美味しいフグを用意しますから」「わあ、凄い。病院の中でこんな贅沢をするなんて」「これは僕の心のほんの一端をお見せしたに過ぎません。僕の思いを表わすには、世界中の最高の美味を集めても足りません」「私みたいな者にそこまで。ありがとうございます」

そこに現れる山岡。「災難だったなあ。でも大したことなかったそうじゃない」「ええ、どうやら」「そいつはよかった。ほら、これ取ってきてやったぜ」「あら、これは。ノビルね」「覚えていたな。これは体に精が付くぜ。今の季節、体に力をつけようと思ったら、これさ」「これはどこで」「去年、教えてやったろ、秘密の場所を」「え、葉山の山奥まで行ってきたの」「もっと早く来るつもりだったが、今年はあまりなくて、あちこと探し回ったんで、遅くなった。待ってろ、そこの配膳室借りて、調理してくるから」「山岡さん、今日一日かけて、ノビルを取りに行ってくれたのね」

『ノビルの根はざっと軽くゆがいてやる。酢味噌をつけて、齧ってごらん』『わ。エシャレットみたいだけど、それより鮮烈な味だわ。舌の中心から頭の奥の方まで切り込んでくる香気と刺激がたまらない。疲れが吹っ飛ぶわ』『まさに大地の恵みだよ。あのノビルの場所、誰にも教えるなよ。秘密だ』『うん、私たちだけの秘密ね』

「さあ、一丁あがりだ。食べて」「わあ、この味、生き返るわあ」「な、早春の息吹だよ。熱を通しすぎるとクニャクニャして風味も落ちるからね。ま、生でもいいけど、ちょっと湯を通した方が甘味が出るんだ」「ああ、美味しい。山岡さん、ありがとう。体中、泥だらけで。疲れたでしょう」「なあに、ノビル齧って、酒を一杯ひっかけりゃ、疲れなんて。団社長もお一ついかがですか」

「栗田さん、山口行きは無期延期にしましょう」「え」「今回は僕の負けです。僕は金と力のまかせて、レストラン一軒をシェフごと運んで来たが、汗と泥にまみれたノビル一本の方が遥かに価値があった。僕にはまだ栗田さんを山口まで誘う資格はない。出直します」「団社長、どうしたんです。ノビルが嫌いなんですか。この香り、ちょっときついかなあ」「山岡さん、いいのよ。今のこの気持ち、最高よ」