作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(275)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

能あるホヤ

山岡の先輩の妹の大学生の真子は同級生で冴えない風貌の野中を運転手代わりに使う嫌みな女であった。なごりの夏を楽しみたいと山岡に言う真子。「今年の夏はアルバイトに精を出し過ぎてどこにも受けなかったのよ」僕の故郷の宮城県唐桑半島に行くといいと言う野中。「景色も素晴らしいし、魚が最高に旨い。気仙沼港がすぐそばです」「ううむ。聞き捨てならんな」「僕、運転手兼案内役をしますよ」

気仙沼港で旬の魚を見てエキサイトする野中を見て、こんな溌剌とした野中を見たのは初めてと呟く真子。「野中君、せっかく三陸まで来たんだ。この季節ならではの物を食べさせてくれよ」「そうだ。ホヤはどうですか」「なあに、ホヤって」「これがホヤだよ。正しくはマボヤ」「やだあ、気持ち悪い。これ、食べられるの?」

「人によって好き嫌いはあるけど、食べ慣れると病みつきになると言う」「どうやって食べるの」「僕が料理するよ」「え、野中君が」「うちの両親の方針で、男も料理できなきゃいけないと言うんで、子供の頃から包丁を握らされたんだ」「へえ、野中君って凄いんだ」「じゃあ行きましょう」「え、ここで買わないの」

鮮魚店に山岡と真子を連れて行く野中。「ほら、これ」「あ、このホヤ、生きている。てっぺんの突起から水が出てくるのがわかるわ」「てっぺんにある二つの突起の一つから水を吸い込み、もう一つの突起から水を排出する。こうして水の中のプランクトンや有機物を栄養分として吸収するんです」「詳しいのね。野中君って学者みたい」「いや、そんな」

新鮮なホヤを料理する野中。「まず、てっぺんの突起を切り取って、中の水を流し出して、丼に取ります。切り取った穴から指を突っこんで、くるりと回してカラから身を剥します。カラを切り取って、中身を取り出します」「あら、身の色は薄い橙色ね」「その身に縦に包丁を入れると、真ん中に黒い内臓があるので、それを取り除きます。内臓を取り除いた身を、さっき丼で取っておいた水で洗います。ここがポイントです」

「なるほど。ホヤの中から出た水で、ホヤの身を洗うのね」「身をぶつ切りにしたら、今度はキュウリを薄切りにします。キュウリなしにホヤを食べるな、と言われるくらい、ホヤはキュウリと合うんですよ。キュウリの薄切りとホヤの身を三杯酢で合わせれば、出来上がりです」

その旨さに驚く真子。「磯の香りが強烈。でも少しもイヤな香りじゃない。潮の香りを濃縮したように鮮烈だけど、後口が涼やかで」「いかにも夏向きの味だよね」「ホヤだけは新しくなくてはダメなんです。死んで数時間も経つと、体の中に異臭を放つ部分が出来てしまうんです」

「だから、野中君、わざわざ生きているホヤを買いに行ったのね。今まで味わったことのない不思議な味だけど、歯ごたえもあって美味しいわ」「嬉しいなあ。真子さんに気に入ってもらって」「ホヤって、見栄えは悪いけれど、その中にこんなに美味しいものを隠しているのね。それもとても個性的な」「ホヤと野中君はそっくりじゃないか」「そうね。あそこまで見栄えは悪くないけど」