望郷子守唄 | ロロモ文庫

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昭和四年、筑豊地方の侠客、田川正一が何かの間違いで天皇陛下の身辺を警護する東京の近衛連隊に入隊する。正一にこんこんと言い聞かせる母のたね。「上の人の言いつけを守って、絶対に喧嘩はならんばい。弱きを助け強きをくじきこそ侠客たい。よかね」

訓示をうける新兵の正一たち。「軍隊では中隊が一軒の家だ。父親が中隊長殿で、母親が班長殿だ。この方はお前たちの母親になられる大木戸軍曹だ」大木戸は新兵たちに軍服に着替えろと命令する。正一の見事な刺青に驚く大木戸と中隊長の久保。

「田川二等兵は飯塚炭鉱の納屋頭をしていたようです」「やっぱりヤクザ者か」「本人は侠客と申しております」「父親はおらんのだな」「田川二等兵が幼いころ死別して、母親は炭鉱の炊事婦をして、彼を育ててきたそうです」「ほう。片親か。そんな不健全な家庭で育った男が、どうして高貴ある近衛に配属になったのか。いずれにせよ、刺青を背負った者が近衛連隊の入隊したことは前代未聞の不祥事である。いずれはどこかに転属させるが、大木戸軍曹、それまで田川を徹底的に鍛えぬけ」「は」

大木戸は徹底的に正一をいびりぬく。久保は病気ということで田川を除隊させてくれないかと、軍医の梅沢に相談する。「最初は転属も考えたのですが、除隊のほうが近衛の名に傷つかないと思いまして」「その田川という兵隊は何か問題があるのですか」「今のところは別に、ただなんせヤクザ者ですから」「黙りなさい。経歴を問わないのが軍隊のいいところではなかったのですか。貴官たちは二言目には近衛,近衛と言うが、どの師団であろうと軍隊であることは変わりないはずだ。そんなことで若い男の将来を曲げることはできん。断る」

心身とも疲れはてた正一は高熱を発し、梅沢のところに運ばれる。「お前は単なる睡眠不足だ。よく寝れば治る。さあこれを飲め」酒を正一に飲ませる梅沢。「お前にはなまじっかの薬よりそれが効くだろう」「はあ、いただきます」「お前は母ちゃん母ちゃんと寝言ばかり言ってたぞ。お母さんが好きか」「はい。好きであります」「お前のようなせがれを持って、お母さんも幸せだ。田川、辛抱しろよ。短気を起こしたらお前の負けだ」

しかし、大木戸の横暴な振る舞いに耐えかねた正一はとうとう短気を起こし、大木戸に銃剣をつきつける。気でも狂ったか、と驚く久保に反論する正一。「中隊長と班長は兵隊の親父とおふくろと違うんか。それが間違うとったら、その子供の兵隊はどげんになるとじゃ。あんたも一緒に来てもろうて、天皇さんに白黒つけてもらおうじゃないの」騒ぎを聞きつけて馬鹿なことをするな、と諭す梅沢を突き飛ばす正一。梅沢は階段から転落し、茫然とする正一は近衛兵に取り押さえられる。

営倉入りになった正一は梅沢が退役になったことを知る。「階段から落ちて足を複雑骨折されてな」「それじゃ、軍医は」「いや、ちょっと足を悪くした程度だ」久保は正一を特別除隊をさせるという。「この近衛連隊に傷がつくということは、天皇陛下にも傷がつくということだ。田川、陛下に傷がついてもいいというのか」「とんでもないであります」「よし。わかったら出て行ってくれ。除隊してくれ」「天皇陛下のためだったらしかたないばい」

たねに手紙を送る正一。「母ちゃん、お元気ですか。自分は大変成績がよかったので、ただ一人一等兵に進級しました」

正一は大木戸一家の若い者と喧嘩になり、怪我した若い者を梅沢病院に連れて行く。「田川」「先生。おなつかしゅうございます」「お前、まさか連隊を脱走してきたんであるまいな」「いえ、特別除隊であります」

いきさつを聞いて大笑いする梅沢。「お前は帝国陸軍始まって以来の大物だ」「本当にすいませんでした」「気にするな。あれは事故だ。これからどうする。九州に帰るか」とんでもない、と言う正一。「必ず錦飾る言うたおふくろに会わせる顔がありませんけん。死んでも国に帰れません。軍医殿。軍医殿のところで働かせてもらえないでしょうか。お願いします」

正一は梅沢の家の居候になり、梅沢の助手になる。正一の世話する梅沢の娘の文子。たねに手紙を送る正一。「母ちゃん、お元気ですか。このたび医務室の勤務を命じられました。成績の悪い者はこの勤務につけないのであります。看護婦さんは文子さんという名前で親切で優しい人であります。この次便りを書くときは多分上等兵になっているでしょう」

大木戸組の若者頭の杉町が正一のところに現れる。「この前はうちの若い者が世話になったそうだな。親分が話があるそうだ、来てくれ」大木戸組の大木戸親分と会う正一。「あんたの腕っぷしを見込んで頼みがあるんだ。お国のためになる仕事だ。この先の工場に巣食っているアカの連中を叩き潰してほしいんだ。うちの若い者にやらせてもいいが、何しろ同じ土地の連中だからな。しこりを残したくないいんだ」工場でストライキをしている労働者たちを丸太棒を振り回してぼこぼこにする正一。

その働きぶりを感謝した大木戸は正一を料亭に招く。そこに美人芸者の小半が現われ、大木戸はセクハラ行為をするが、小半は水際立った応対をする。そんな小半に一目ぼれする正一。梅沢病院に正一にボコボコにされた工場の労働者が治療に行く。正一がボコボコにしたことを知った梅沢は正一に出ていけ、と命令する。弱きを助け強きをくじきこそ侠客たい、という母の言葉が胸にしみる正一。

正一は寿司屋の源吉の家に居候になり、源吉の手伝いをすることになる。たねに手紙を送る正一。「母ちゃん、お元気ですか。このたび炊事場勤務に配属が変わりました。中隊で一番の成績で上等兵に進級しました。このぶんなら伍長になるのももうすぐでしょう」

文子は梅沢と仲直りしてくれと正一に頼む。「お父さんがそげん言われとるですか」「お父さんが自分からそんなこと言うわけないじゃない。でも正一さんがいないのが、内心寂しいのよ」

小半に惚れた正一は小半に花をプレゼントする。春吉という男が大木戸の命を狙って襲う。身代わりになって春吉に刺される杉町。通りがかった正一は春吉の邪魔をして、大木戸のピンチを救う。杉町に杉町の女房の富子のことは面倒みると約束する大木戸。それを聞いて安心して死ぬ杉町。

文子から家に来てくれと言われ駆けつける正一。梅沢の家は大木戸組の若い者が取り囲んでいた。「春吉を出せばいいんだ。あいつはうちの若者頭を殺したんですせ」「春吉はここにはおらん」「じゃあどこにいるんだ。春吉はてめえのせがれだ。知らないわけないだろう」

若い者を追い払って、梅沢と話す正一。「大将。春吉って人は本当に大将の息子ですか」「人を殺したって言ってたな。五年ぶりにおのれの生まれ故郷に帰ってきて、人殺しか」「大将の若旦那はどげんして」「ヤクザになったというのか。父親は母親の代わりはできんもんだ。まして、あのころのわしは近衛の軍務に忙殺されて、あいつをかまうことできなかった。わしはあいつと話す時間がなかった。最後はわしに勘当されよった。本当に馬鹿な奴だ」

源吉に事情を聞く正一。「春吉さんは日本一の代貸しだったんだ。もともと五年前まではこの一帯は水神の長五郎親分の縄張りだった。それを亀戸あたりでゴロまいてた大木戸兄弟ってのがちょっかいだしやがって、その弟の忠治ってのがめっぽう強いんだよ。もっとも今は近衛にはいってるがね」「近衛?」「それからいろいろあって、水神の親分は倒れ、春吉さんは刑務所行きだ。それからはこの一帯は大木戸一家が仕切るようになったんだ」

春吉はかつての恋人の小半の家に隠れていた。大木戸を殺りにいく、という春吉に馬鹿なことはやめて、と訴える小半。「私はあんたと二人きりで静かに暮らしたい。それが夢なのよ」「おめえの気持ちは嬉しいよ。だが男の意地ってのもわかってくれよ」小半に惚れた正一は小半に寿司をプレゼントする。

たねが上京してきて、正一の頬を殴る。「嘘ばっかりついて、この馬鹿たれが」二人は寿司屋の二階で一緒に寝る。「母ちゃん、まだ怒っとるとね。もう堪忍しちゃいない。母ちゃん、泣くちょるとか。俺は本当に親不孝者やな」「正一よ。お前に騙されたことが口惜しくて泣いとるんじゃなか。梅沢先生に聞いたとじゃ。近衛連隊はお前が行くところではないとこらしか。お前さぞ苦労したろう。片親で貧乏というころでいじめられて。母ちゃんを許して」

「母ちゃんに何の罪もなかたい。ただ刺青を入れ取るだけでいじめて。近衛はバカの集まりたい」「正一。そんなことなか。梅沢先生という立派な人もいるたい。先生は母ちゃんにお金を送ってくれたとよ。よかせがれを持って羨ましいという手紙と一緒に。ひとこと礼ば言いに東京に出てきたとよ」「……」

大木戸は杉町が自分にしていた借金のカタに富子を女郎屋に売りとばしていた。それを聞いて激怒した正一は大木戸の喉元にドスを突きつける。「香典もらいに来たばい。あんたの代わりの死んだ杉町の香典たい。あんた杉町の女房に何をした」大木戸から借金の証文と香典を受け取る正一。「お前には前に助けてもらった借りがあったが、もうこれで無くなったぞ」そこに軍を除隊になった大木戸が現われる。「田川二等兵」「大木戸軍曹」「俺も軍を除隊になったぞ」大木戸兄弟を突き飛ばして逃げる正一。

小半は正一を料亭に呼び出し、私には好きな人がいると言って春吉を正一に会わせる。「梅沢春吉です」「田川です。この間は知らんことと言いながらどうも」「とんでもねえことです。田川さん、親父と文子は元気にやってますか。あなたに随分お世話になっているようで」「とんでもねえ。二人とも元気ですが、若旦那のことを心配しているようで。ねえ、若旦那。いっぺんだけ大将に会ってくれませんか」

「今さら親父の前に出られる体じゃねえんです。田川さん、親父をよろしく頼みます」「若旦那、あなた死ぬ気じゃないですかい」「……」「俺も大木戸がどがいな奴かようわかりましたたい。俺は若旦那を止めませんばい。それでお願いがあるとです。若旦那のほうから、俺が悪かった、今までの親不孝を許してくれ、と頭を下げてもらえんでしょうか。大将がその言葉をどれほど待っているか、俺にはようわかるんです」「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」

正一は梅沢を呼びに行く。入れ違いに正一を探しに現れる大木戸弟。「あれ、おめえは春吉じゃねえか。やっちまえ」ドスで刺される春吉と小半。春吉さん、とつぶやいて絶命する小半。春吉は梅沢の手術を受けるがあえなく命を落とす。大木戸一家に殴り込みをかける決意を固める正一に声をかけるたね。

「正一」「母ちゃん。こげな立派な体に育ててもらって、今まで何ひとつ親孝行もできんで」「馬鹿たれ。お前は立派な侠客じゃなかったかとね」大木戸一家に乗り込み、思い切り暴れ、大木戸兄弟を倒した正一は怪我がなかったかと心配する母を背負って警察に向かうのであった。