作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(244)」 | ロロモ文庫

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メゴチの局長

投げ釣りを始めることにした小泉は、釣り道具屋に行き、そこで帝都新聞の秀沢に声をかけられる。「へえ、投げ釣りをするんですか」「そうです。仕掛けを150メートル飛ばした時は胸がすっとします」「ほう。150メートル飛ばせるんですか」「200メートルだって軽い」「それは大したもんです。それなら釣果の方も随分」「この間なんて、海辺にコンロと天ぷら鍋を持って行って、釣ったはしから天ぷらにして、周りにいた人を全部腹一杯にさせてやりましたよ。わはは」「ほう」

帝都テレビ編成局長の中原を伴って、小泉を訪ねる秀沢。「秀沢さんから伺ったところでは、小泉さんの釣りの腕はかなりのものだそうで」「中原さんは釣り天狗同盟の会長として、熱心に活動しているんです」「小泉さんほどの方に、今まで我々の会に入っていただけなかったのは実に残念です」「はあ、いや」

「今度の例会は投げ釣り大会にしました。会員の中にも投げ釣りに熱心なのが大勢いますので、小泉さんの秘技をご披露いただきたいのです」「えっ」「ついでに天ぷらの方もお願いしますよ。皆、楽しみにしてるんです」「いや、あの」「では明日の土曜日」「天気予報もよさそうです。楽しみですな。ははは」

山岡と栗田に事情を話す小泉。「どうして、そんなホラを」「まさか、こんなことになるとは思わなかったんだ」「それで、どうする気です」「今日から投げ釣りの特訓をする。君たち二人はそれに付き合い、投げ釣り大会は私の助手として一緒に参加すること」

小泉を笑顔で迎える中原と秀沢。「やあ、小泉さん、ようこそ。会員たちは小泉さんの200メートルの秘密を知りたいとえらく張り切ってますよ」「はあ、どうも」「それから、天ぷらの支度はしてあります。今日は会員の家族も来ていますので、家族の皆さんの分を含めて、どんどん天ぷらを揚げましょう」「は、はい」

「ええと、真後ろから振り始めた竿は真上にくるあたりで、右手の指で押さえていた糸を離すんだったな」「昨日、グラウンドで練習した通りですよ。全然ダメでしたけど」「うるさい。私は本番に強いんだ。見てろ。てああああ」

1メートルも飛ばすこともできない小泉を白い目で見る会員たち。怒りを隠せぬ中原と秀沢。「大変、見事な腕前ですな。おかげで今日の会はメチャクチャです」「東西と帝都は商売上は競争相手だが、会社を離れたら、私的によい友人になれると思っていた。しかし、それは私の錯覚だったようです」「いや、確かに大ボラ吹いた私が悪いけど、私は悪意があったわけでは」「言い訳は聞きたくないですな」「ぬう」

「局長、帰りますか」「このままスゴスゴ帰れないよ。いかにも負け犬みたいでさ。頑張って、何匹かっでも釣り上げてみたいよ」「そうですか」何回もやっていくうちに段々と様になっていく小泉。「30メートルは飛ばせるようになったんじゃないかしら」「めげない人だね。感心するよ」「わ。釣れた、釣れた」「局長、そんなに乱暴にリールを巻かないで」「そんなこと言われても」

「むう、なんだ、この魚。ヌルヌルネバネバしてるよ。気持ち悪い」「メゴチですよ」「はははは、やっと釣ったと思ったら、外道じゃないですか」「外道?」「釣ろうと狙った魚じゃないのに、釣れてしまった魚を外道と言うんです。今日の狙いはシロギスだ。それ以外の魚は釣れても全部捨てるんです。釣りの名人だなんて大ボラ吹いて、釣り上げたのは外道のメゴチ。ま、おたくにはその汚らしいメゴチがぴったりと言うことでしょう」「ぬ、ぬう」「栗田さん、皆からメゴチを貰おう」「え」

シロギスの天ぷらを食べる中原と秀沢にこっちの天ぷらもいかがですかと言う山岡。「え。でも材料は」「沢山あります。うちの小泉がどんどん揚げてますから、どうぞ」「ん。こりゃ旨い」「旨味がたっぷりなのに、あっさりして」「これは、ひょっとすると」「そうです。メゴチです」「同じ上品さでも、キスはひ弱な上品さだ。それに比べてメゴチは成熟した貴婦人の持つ力強い上品さだ」「むう。メゴチは外道と最初からバカにしていたが、メゴチの方が一枚上手だ」

「しかし、メゴチはさばくのが大変だろう」「いえ、簡単です。雑巾で掴めば、釣れたメゴチを外すのは簡単。タワシを使って、流水で体表のぬめりを取ります。頭を落として、背骨に沿って、左右に包丁を言える。尻尾のつけ根で、背骨を切り離すと、松葉形になります。お腹のあたりを掃除してやれば出来上がり」「へえ。これなら私にもできる」

すっかり機嫌を直す中原。「今まで、シロギス釣りコンテストの時、メゴチは外道として点数に数えませんでしたが、これからはメゴチも外道扱いにしないと言うことにしたいと思います」「賛成」「本日、小泉さんに投げ釣りの秘技を教わることはできませんでしたが、メゴチの素晴らしさを教わりました。会全体として小泉さんにお礼を申し上げたいと思います」「こりゃよいお客様を招待した」「うちの会員になってもらおうじゃないか」

感激する小泉。「あ、ありがとうございます。釣技向上のため、ヌルヌルベタベタ、メゴチのような粘着力で努力をする覚悟です」「局長のメゴチのような粘り強さがあれば」「200メートルも夢じゃないわね」