作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(237)」 | ロロモ文庫

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猿蟹合戦

山岡に電話する板山。「荒川カメラマンに頼みたいことがあるんだ」荒川に友人の美術収集家の佐高を紹介する板山。「実はこの写真だが」「ああ、これは私が撮ったものです。宋代白磁の壺の中でも名品中の名品」「いや。問題は壺でない。後ろの棚の上の猿の像だ」「え」

あれは聞かザルだと言う佐高。「私は見ザル、言わザルを持っている。これは江戸時代の初めに中国から伝来した貴重なものだ。是非揃えたい」「しかしこの聞かザルの持ち主は」「松森豊一氏だ。松森氏は美術収集家の中でも癖が強いので有名だ」「ええ。私も必死でお願してこの壺の写真を撮らせてもらったんです」「その君を見込んでお願いする。この聞かザルを売ってくれるよう松森氏を口説いてくれ」

事情を松橋に話す荒川。「ぬう。佐高氏ともあろう収集家がそれほど欲しい物なら、自分で正々堂々と言ってくればいい。それを荒川君を使うとは卑怯千万。とは言え、残りの二つの猿も気にかかる。三つの猿が揃えば見事だろう。うむ、荒川君、佐高氏に私を食事を招くように言い給え。そこでどんなもてなしをするか見れば、相手の人格もわかるものだ。その結果、佐高氏が立派な人格であることがわかれば、聞かザルも譲りもしよう。しかし、それに値する人物でないとわかったら、聞かザルを少しずつ削って、茶を点てる時に炉にくべる」

事情を山岡と板山に佐高に話す荒川。「ぬう。そんな乱暴な」「あとは佐高さんのもてなし次第です」「しかしそんな癖のある松森氏を満足させるのは」「山岡君、何かうまい考えは」「どうやら、いい猿知恵が浮かんだみたいです」

料亭に招かれる松森。「ほう。臼を花活けに使うとは。変わった趣向だな」今日の食事は私が作ると言う佐高。「ふうん。素人の手料理ねえ」「ま、お茶をとりあえず。柿の葉茶です」「柿の葉茶にお茶うけは柿のタネか」

いきなり、にぎりめしを作る佐高。「松森さんは食道楽で大変有名。そんな方に気に入ってもらえる料理屋は見つからない。それなら、いっそのこと私の味を見て頂こうと思いましてな」「なに、佐高さんの味を」「はい、飯を私の手で握る。私がどんな人間かわかって頂くかこれが一番だと思います」「む。ううむ、なるほど」

あなたは悪党だと佐高に言う松森。「料理の専門家や料理自慢の素人の料理なら、いくらでもケチをつけられる。しかし、にぎりめしとあっては、あまりに単純。しかも佐高さんが不器用な手つきで一生懸命握るのを見て、ケチをつけたりできると思いますか。私の意地悪な注文に対し、あなたは誠心誠意立ち向かってきた。その佐高さんの心の奥行きが読み取れなかったら、私の恥は末代まで残ります」「松森さん」

「で、あれでしょ。食後のお菓子には栗を使った物が出るんでしょう」「わかりましたか」「入り口に臼、柿の葉茶に柿のタネ、にぎりめし、そして栗。これじゃ猿蟹合戦だ」「どうも」「サルは座敷から出て行こうとすると、あの臼がドカンと乗っかって来る。私の負けだ。聞かザルを佐高さんにお譲りします」「ありがとうございます」