作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(215)」 | ロロモ文庫

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カレー勝負(4)

呆然とする山岡。「日本から遠く離れたここに、カツオブシがあるとは。しかしカツオブシと違う点も多い。まず表面が朽ちた木のようにボロボロで、燻製の香りもない」「モルジブ・フィッシュが日本のカツオブシの原型という説もあるんですよ」「これはどうやって使うんですか」「日本みたいにカツオブシ削り器でダシを取るのかしら」「使い方はあとで実際にご覧に入れます。モルジブ・フィッシュの他に、スリランカカレーの味の決め手になる物があります」

青物売り場に一同を連れて行く白城。「この三種の香草がスリランカカレーの味のもう一つの決め手なんです。それがカルピンチャとセーラとランパ。セーラは別名レモングラスとも言うんです。葉を揉んで、匂いを嗅いでみてください」「ほんと。レモンの爽やかな香りがする」「このカルピンチャと言うのは?」「複雑な香りを持ってますが、これが入るとカレーの味と香りに一本芯が入ります」「早く試してみたいなあ」「必要な材料を集めたら、私の友人の家に行きましょう。本場のスリランカカレーを作ってくれます」

スリランカカレーを作る白城の友人のクマラシンゲ。「私の家では好みのスパイスを調合して、それを粉にして使います。魚や野菜のカレーに使うのは、スパイスを生のまま粉にしますが、肉に使うのは、いったん焙ってから粉にします」「うーん。すごく香ばしいね」「一つ一つのスパイスの香りが立って、とても強烈」

「木臼にモルジブ・フィッシュを入れます」「え、砕いて粉にして使うんですか」「なるほど、日本のカツオブシとは違う使い方をするらしいな」「なるほどねえ。モルジブ・フィッシュはダシを使って捨てるんじゃなくて、そのまま食べてしまうんですね」

カルピンチャとセーラとランパの風味に驚く一同。「カルピンチャはないと焦点の甘い写真みたいな味になるんじゃないの」「確かに味と香りに背骨が入ったみたいだ。不思議な香草だなあ」「セーラが加わると、香りがスッキリというか清々しいと言うか」「カルピンチャとセーラに比べると、ランパは特に際立った香りの印象はないけれど、これを使うと、全体の味と香りが幅と厚みを増すんです」

クマラシンゲの作ったカレーを楽しむ一同。「おや、白城さん、手で食べるんですね。郷に入っては郷に従えですか」「ははは。最初は抵抗があったんですが、土地の人はみんな手で食べてますからね。やってみたら、なかなかいいもんですよ」「よし、俺もやってみよう」「俺も」「私も」

驚く一同。「スプーンで食べるのと手で食べるのと味が違う」「手で食べる方がずっと美味しい」「どうして」「考えてみれば簡単なことだ。スプーンでカレーをすくったんじゃ、カレーの質感や感触は口でしか感じることは出来ない。でも指は場合によっては、唇や舌より鋭敏な感覚を持っている。だから直に食物を触ると、食べ物の質感をもうそこで感じとることができる」

「私たちはお行儀なんてこだわって、折角鋭い感覚を指先に持っていながら、それで食べ物を楽しむ喜びを捨てているんだわ」「まったく、スプーンやフォークなんて、まるで電気工事の道具だよな。美味しい物を味わうにふさわしくないよ」「こうやって食べ物を指でいじってみると、味わい深さが身に染みるわ」「よし。今度から私の店ではお客様に手で食べるよう、お勧めしてみよう」

スリランカに来てよかったと話し合う一同。「今まで知らなかったカレーの味の決め手を知ったのは大収穫だったわ」「まず、モルジブ・フィッシュ」「カルピンチャ、セーラ、ランパ」「そしてこの指だ」「それにスリランカにはカレー粉があるんですね。しかも、そのカレー粉を炒めもする」「さあ、いよいよインドだ」