作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(207)」 | ロロモ文庫

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ばあちゃんの賭け

東西新聞にイカの生干しを売りに来た行商のばあさんが交通事故に遭って、入院してしまう。医者から一か月安静と言われ、寝ていられないと焦るばあさん。「あと300キロ売らなきゃならないんだ」「300キロ?どうしてそんなにたくさん売らなきゃならないの」「そんなこと余計なお世話だ。私は金が欲しいんだ」

ばあさんを東京まで運んだトラックの運転手に事情を聞く山岡と栗田。「ばあちゃんは金を欲しいのは孫娘のためだ。15年前に息子と嫁さんは漁に出たまま遭難し、ばあちゃんは女手一つで孫娘の初子さんを育て上げた。その初子さんは結婚することになったが、ばあちゃんの稼ぎでは貯金なんかない。でも孫娘に道具の一つも持たせてやりたいで、ばあちゃんはバクチを打った。50万借り集めて、生のイカを300キロ買って、全部生干しにした。それを直接売りに歩けば、問屋に卸すより、ずっと儲かるからね」「お孫さんが結婚するのは?」「一か月先だよ」「よし、わかった」

山岡は総務部長の飯倉に社内販売にイカの生干しを乗せてくれるように頼むが、飯倉はイカが大嫌いだと断る。「あの形。脚が10本もあって、その脚はイボだらけだ」「いや刺身にしてしまえば」「バカ者。イカの刺身など食えるか。歯にニチャニチャくっついて気持ち悪いだけだ。それにあの匂いは何だ。臭くて鼻が曲がる」「飯倉さんは変なイカしか食べたことがないから偏見を持ってるだけです」「なんだと」「美味しいイカを食べさせてあげます。それがまずかったら、辞表を書きます」「ようし」

千葉県・房総沖で釣り船に乗る山岡と栗田と飯倉。「これがイカ釣りの仕掛けなの?エサは?」「エサはつけないよ。イカがこのツナに自分からつかまって、鉤にかかってしまうんだ。1.5メートル間隔でツノのついた糸を50メートル以上出す。あとは手繰るだけ。本職は自動イカ釣り機で釣るんだよ。道糸を何百メートルも巻けて、ツノの沢山つけられるから、効率的にイカが釣れる」「大きな電球が沢山」「イカは夜釣りすることが多いんだよ。あの電灯の光で、イカを集めるんだ。お、来たぞ」

イカを釣り上げる山岡。「わあ、キレイ」「おお。体の中まで透けて見える」「そう、釣ったばかりのイカは半透明なんだ。死ぬと透明でなくなり、ヒフに色がついてくる。飯倉さんは、こんな半透明のイカは見たことないんじゃないですか」「むうう」

手際よくイカソーメンを作る山岡。「部長、どうぞ」「む。少しも臭くない。それにピンと張りがあって。おお、この舌ざわり。滑らかで、いやらしく舌にまとわりつくことがない。ううむ、風味もすっきり、あと味も気持ちより。新鮮なイカは匂いにも味にも全然癖がないんだな」

二日前に生きたまま醤油に放り込んだイカをさばく山岡。「飯の上にたっぷり乗せて、食べてください」「おお。イカソーメンのさっぱりした味とは打って変わって、豊かな味だぞ」「そうか。これは内臓も一緒で、肝も入っているからなのね」「イヤな臭いもくどい味もしない。これがイカの本当の味だったのか。おう」

説明する山岡。「釣って生きたままのイカをすぐに醤油につけるから、これだけの味が出るんだよ。生きているうちに醤油に入れると、内臓にまで醤油が回る。イカの臭みが出ずに、旨味だけが固定される。イカの沖漬けと言うんだ」「海の沖で獲れたイカを、その場で漬けるから、沖漬けと言うのね」

イカの旨さを知った飯倉は、イカの生干し300キロ全部引き取り、全社員に強制購入させる。見舞いに来た初子に勝ち誇るばあさん。「わははは。私はバクチに勝ったのよ」