女賭博師 壺くらべ | ロロモ文庫

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陸中振りの最後の名人である大滝倉吉は寺尾組に頼まれて東伊豆の縄張りを賭けて、前川組の壺振りで関東振りの名人である吹き寄せの清次と勝負するが、倉吉はイカサマ賽を振ったと前川に指摘される。たちまち前川組と寺尾組の死闘となり、倉吉は斬られて命を失い、傷を負った倉吉の娘の銀子は倉吉とともに海に捨てられるが、漁師に救われて九死に一生を得、銀子は一人前の壺振りになることを誓い、武者修行の旅に出る。

それから二年。バー・由木に現れた清次にうちの人の命日を覚えてくれてたのねと言うママのゆき。「今日、お墓参りに行ったら花が飾ってあったわ。ありがとう」「五郎はいい奴だったな。あれからもう二年か。五郎がいなくなって前川のところにもいい奴がすっかりいなくなった」「清さんが前川さんに義理があるのはわかるわ。でもそろそろ手を切らないと」「旅にでも出てみるか」

前川に旅に出ると告げる清次。「また行くのかい。俺のそばにいれば大きな顔をしてられるものを、何もドサマワリみたいなことをしなくても」「ここにいて楽な盆ばかり振ってると腕も度胸も鈍ってくる気がするもんで」「お前は壺振りになるために生まれてきた男だ。まあ、いいだろう。好きなだけ盆の空気を吸ってきな。ただ、お前の腕はこの俺が預かっているってことは忘れずにな」

旅に出た清次は行く先々で銀子と出くわす。俺と勝負しないかと銀子に言う清次。「あんたの目は壺振りの目だ。私の手を読んでいる。だがそれなら堂々とサシで勝負したらいいだろう」「……」「それもゼニなんか賭けたんじゃ面白くねえ。私が負けたら指一本詰めようじゃねえか。お前さんが負けたらその髪を剃り落してもらいたいんだが」「わかりました」

銀子と清次は壺振り勝負をするが、そこに現れた女壺振り師の竜神のお松は勝負を預からせてくれと申し出る。「傷つけるには惜しい腕のお二人さん。お互いの力さえわかれば十分なはず。私の顔を立てちゃもらえませんかね」了解する銀子と清次。女マッサージ師から銀子の肩に刀傷があると聞かされる清次。(あの陸中振り。それに刀傷)

旅から戻った清次は寺尾組の生き残りの辰三に命を狙われるが、銀子に救われる。まさか銀子が生きているとはと驚く辰三。「しかし、なぜ止めた」「清次を殺したって、親分さんたちの無念は晴れないでしょう」「それは前川の今の仕打ちを知らないからだ。昔、寺尾の身内だったからと言うだけで、俺たちは殴る蹴るの半殺しの目にあっている」「でも、賭場の仇は賭場で晴らすのが渡世のやり方」「だけど、どうやって」「まず、あの晩の勝負のからくりを突き止めて。どうやらまともな勝負ではないようです。だからからくりの中身がわかったら、あの晩とすっかり同じ状況にし、立ち会いの親分衆の前でからくりを暴くんです」

たいした怪我でなくてよかったと清次に言うゆき。「清さんを狙うなんてお門違いだよ」「仕方がないよ」「利用されるのもいい加減にしなさいよ。十分前川に尽くしてきたじゃない」「奴から離れるわけにいかない。俺と奴は幼馴染だ。子供の時に一緒に釣りをして、俺の釣り針が奴の目に入り、奴は片目を失明した」「また自分を責めてるのね」「倉吉の娘が俺をつけ狙っている」「え」「死んだはずのあの娘が」「それがまたどうして清さんに」「親の仇と思ってるんだろう。なのに、何故俺を助けてくれた。わからねえ」

一緒に私の田舎に行く気はないかと清次に聞くゆき。「確か信州上田で旅館をやってるんだったな」「五郎に惚れて熱海まで来たものの、渡世人なんて因果な商売ね。夫婦喧嘩一つしないうちにあの人は死んでしまった。うちから早く帰ってこいと言ってくるけど、なんとなく離れがたくて、ずるずると二年もいてしまったんだよ」「俺は壺しか能がない男だぜ」「足を洗うのよ。手遅れにならないうちに」

西伊豆の縄張りを賭けて松木組と勝負することになったと清次に言う前川。「また、頼むぜ」「社長。今度の勝負は私の腕だけに任してくれるんですか」「清次。壺には腕もあれば運もある。縄張りは命だ。命と引き換えにしても惜しくないものを運で決められてはたまらねえ」「それじゃ今度も」「当たりはついたよ」「じゃあ、私が振ることもないでしょう」「清さん、俺とお前の仲じゃねえか」「……」「多くは言わねえ。頼むよ」

店は繁盛しているかとゆきに聞く前川。「おかげさまで大分なれました。お得意さんもぼつぼつ」「そりゃよかった。俺にとってもあの時、五郎を死なせちかったことは気になっていた。何しろうちの身内のたった一人の犠牲者なんだから」「……」

銀子は由木でホステスとして働くことになる。よろしくと挨拶する銀子に、ゆきはあんたの素性を知ってるのかと聞く清次。「いいえ、知りません」「ここは前川の店だぜ」「女が食っていくには誰の店でもかまいません」「前川の動きを探ってるんじゃないのかい」「……」「まあいい。注いでくれ」

銀子に電話する辰三。「弥三郎兄貴と出くわした。でも兄貴は俺の顔を見て逃げた」「そんな」「弥三郎兄貴は生きている。しかもあっしたちに対して何か後ろ暗いことをしてるんだ」考え込む銀子。(代貸だった弥三郎が生きている。そうだ。今までは前川の方だけ考えていた。代貸の弥三郎だったら疑われずにどんなカラクリもできる)

辰三に会ってしまったと言う弥三郎にどうして熱海に戻ってきたと聞く前川。「五年は草鞋を履くって約束だったろ」「それがおふくろが倒れたと聞いて。社長、あの時、私があなたの言うことを聞いたのは、おふくろの病気を治すため。あっしに代わっておふくろの面倒を見てくれると言ってくれたじゃありませんか」「お前の話はよくわかった。俺の子分によく言っておく。お前は安心してうちに帰り、おふくろさんの看病をしてやんな」「へえ」

弥三郎はまったく弱気になってると子分に言う前川。「寺尾組の代貸だった威勢はどこにもない。人間気弱になると脅えて喋ることもある。今夜中に奴を片付けろ。それに辰三もな」あの世に送られる弥三郎と辰三。

由木に石巻を縄張りにする大門を連れていく前川。「清次。こちらが大門さんだ」「よろしく」石巻の賭場はさびれてしまったと言う大門。「それで仙台に出ようと思うが、そのこけら落としの賭場に清次さんに振ってもらおうと思って」そこに現れた銀子を見て久しぶりだなと言う大門。「前川さん。この女はいい腕の壺振りです。石巻の賭場をこの女に潰されました」「なに」

銀子にお前は何者だと聞く前川に、倉吉の娘だと言う清次。「なんだと」「この娘は私たちの動きを探るためにこの店で働いているんです」「それはいい度胸だ。さすがは名人と言われた倉吉の娘だ。ゆき、若い者を呼んでこい」

それはいけないと言う清次。「この娘は何も社長の命を狙おうとかしてるんじゃない。それどころか賭場の仇は賭場でと立派に生き抜いているんです」「わかった。お前の顔を立てて、この場を収めよう。ゆき、この女はたった今辞めさせるんだ。大門さん、河岸を変えて飲みましょう」

ありがとうございますと言う銀子にいいってことよと答える清次。「壺振りは壺振り同士。命のやりとりは盆に座った時だけで沢山だ。早く帰りな」「はい」「お銀さん。前川は西伊豆の縄張りを賭けて松木組と勝負するそうだ」「松木組?」「でもお前さんは出ないほうがいい」「なぜでしょうか」「この世界は腕だけでは勝てない勝負があるんだよ」「陸中振りの壺振りには腕だけで勝てない盆はありません」「これは野暮なことを言ったな。縁があったらまた会おうぜ」

清次に銀子に惚れたのねと聞くゆき。「壺振りが相手に惚れちゃ、命がいくつあっても足りねえぜ」「ううん。私にはちゃんとわかるの。ちょっと前からそんな気がしてた」「上田は今頃寒いだろうな」「え」「相手があの娘だろうと誰だろうと俺はかまわねえ。俺は今度の盆に命を賭けるつもりだ。きっぱりと足を洗う」「清さん。本当なの」「嘘は言わねえ」

銀子に話があると言うゆき。「すいません、ママさん。本当のことを言わなくて」「そんなことはいいの。お願いです。今度の勝負だけは降りてください」「……」「無理なお願いは承知です。でも清次は今度の勝負に命を賭けて戦う覚悟です」「壺振りは盆に向かう時、いつも命を賭けております」「私も命を賭けています。今度の勝負に勝ったら、あの人は私と上田に帰ると約束してくれたんです」「ゆきさん。許してください。私には戦うことしかできないんです」

銀子は松木に壺振りをさせてくれと頼むが断られてしまう。「第一、壺振りはもう決めてある」「どうしてもダメでしょうか」「松木組が縄張りを賭けての大勝負だ。いくら倉吉さんの娘でも人情だけでは壺は任せられねえ」「では、その壺振りさんと勝負させてもらって、もしも私が」そこに現れるお松。「この娘と勝負させてください。黙って聞いてりゃ言いたい放題。お松の面目が立ちません。親分さんにしても勝った方が代人に立つなら納得が行くはず」

銀子とお松は勝負をし、銀子が勝つ。屋台で飲むお松にわざと負けてくれたんですねと言う銀子。「どうしてです」「私が若い頃、イカサマに夢中になって、命を落としそうになった時、助けてくれた壺振りさんがいた。倉吉さんと言ったよ」「……」「私は恩返しをしただけさ」 

銀子は松木組の壺振りとして、前川組の壺振りの清次と勝負をし、前川が大門を使ってイカサマをするのを見抜く。たちまち前川組と松木組の死闘となり、前川と清次と大門は命を落とす。一人で上田に帰るゆきを無言で見送った銀子はあてもない旅に出るのであった。