作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(160)」 | ロロモ文庫

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ドライビールの秘密(前)

伯父の沢野に怒鳴られる栗田の兄の誠。「私は貧乏学者で粗末な物しか食ってないが、ビールの味くらいわかるぞ」「どうしたんですか」「古くて味の抜けたビールなんか持ってきよって」「古いだなんてとんでもない。ラベルの日付を見てよ。三週間前の製品ですよ」「え」「伯父さんの舌がどうかしたんじゃないですか」「バカ言え。こんな味が薄くて酸っぱいような味のビールがあるか」

「でも、これドライビールだから」「ドライ?ドライとは何だ」「しょうがないなあ。学者って世間のことを知らないんだから。去年あたりからドライビールが凄い人気なんですよ」「学者が世間知らずで悪かったな。じゃ、その学者にちゃんと説明してみろ」「ドライビールって何だ」「えっ。そんなこと言われても、僕は酒の専門家じゃないし」ホントだわと呟く栗田。「生ビールとか黒ビールとか言うのはちゃんと説明できるけど、ドライビールってどういうことなのかしら」

最近はどこに行ってもドライビールねと栗田に言う花村。「飲みやすいって言う人が多いわね」「でも私、ドライってどういう意味なのか深く考えてなかったのよ」ドライビールを研究したいと言う栗田に、俺は興味はないと言い放つ山岡。しかし小泉がドライビールが好きと言ったために、山岡も栗田と付き合うハメとなる。

私もドライ党だと言う板山。銀座の有名な天ぷら屋ではビールはドライしか置いてないと言う京極。「まったく大変な人気じゃな。ところで外国にはドライビールはあるんやろか」イギリスによく似た味のペールエールと言うビールがあると言う山岡。「白ワインとかシェリー酒などは外国でもドライと言います。その場合はドライと言ったら、辛口のことを意味しますね」

「ではドライビールってのは辛口ビールのことなんだな」「いえ、ワインやシェリー酒の場合、ドライに対する甘口があります。糖分が残っていて、文字通り甘い。日本酒にも甘口があります。ではビールに甘口のビールがありますか?」「うむ。苦みの強い弱いの差はあるけど、他の酒のような甘口ゆうのはないなあ」「とにかく飲んでみましょう。ドライビールの前に、まず麦芽とホップだけで作った本格的なビールから」

「ふむ。コクがあるな」「いい香りや」「ズキンと効くわね」「次にドライだ」「はて」「味が薄い」「私はドライ党なんだよ。この味は気に入ってうたはずなのに」「ドライちゅうんは味がないいうことなんか」

今の京極さんの言葉に尽きると呟く山岡。「甘口に対する辛口の意味でのドライと言う高尚な意味ではありませんね」「私の伯父も味の抜けたビールと言ってたわ」「本物のビールには麦の旨味が残っています。ところがドライビールにはその旨みがない。実に平坦で味気ない。膨らみも深味も手ごたえもない。素晴らしい酒を飲むと、その後に舌の上に黄金のピラミッドが立つように感じる。ドライビールの場合、電信柱も立たないね」

「おかしいなあ。私はドライを美味しいと思って飲んでたんだが」「それはドライと言う言葉で。スッキリさわやかで現在的である、そんなイメージに駆り立てられて、そのイメージで味わってしまっているからです。現実にこうして本格的なビールを飲み比べると、真の姿を露呈するのです」「やれわれ。私は宣伝に乗せられて、旨いと思っていたのか」「イメージ先行か。まさに虚像やな」「ですから、こんなものは研究する価値もないと言うことです」

この記事は何だと山岡と栗田に怒鳴る小泉。「ドライビールは虚像とは何だ。私はドライ党だと言っただろう」「ですから局長も虚心になって、飲み比べていただければ」「無礼者。私はイメージに振り回される人間と言うのか、私の周りにもドライ党は大勢いる。今はドライはビールの主流だぞ」「ですから、ドライがビールの主流になるのがおかしいと」

「黙れ。こんな記事を載せられるか。ビール会社各社は、うちの大事なスポンサーだ。こんな記事を読んだら、ビール会社がどう思うか考えたことがあるのか」「ほう。東西新聞は言論機関だと思ってたけど、ビール業界の広告係だったんですね」「なんだと」「失礼します」

今の局長の言葉で俺はドライビールに本気で取り組む気になったと言う山岡。「ドライがビールの主流になるなんて、俺には耐えられない。ドライビールの正体は何なのか、徹底的に究明してやる。早速ビール会社各社にあたって、ドライビールの製法を聞くんだ」