作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(117)」 | ロロモ文庫

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あわび尽し

東西新聞の文化欄はつまらないと小泉に言われたと山岡と栗田に話す谷村。「それで私を異動させ、もっと楽しくて今の若者文化をふんだんに取り入れようと言うお考えだ」「それじゃ、スポーツ新聞の芸能欄みたいになる」「で、問題は君たちが担当してもらっている究極のメニュー作りだが、これからは小泉局長が直接指揮を取ると言われている」

料亭に山岡と栗田を連れて行く小泉。「二人の反応はよくないな。谷村部長を変えるのが不満なのかね」「私たちだけじゃありません。文化部のみんなはガッカリすると思います」「会社は仲良しクラブじゃないんだ。いい新聞を作って売れ行きを伸ばす。そのために私情に捉われてはいかんのだ」「……」

「お待ち遠さま。水貝でございます」「私は、日本に帰ってからアワビの美味しさに目覚めてな。夏はアワビに限るよ。実に高貴なる味だな。鋭く清冽でしかも豊かだ」「局長、アワビはいつも生で」「え。アワビは生で食べるものだろう」「局長、この店を出ましょう」「料理はまだ出たばかりだぞ」「今日はアワビ尽しと行きたいんです」

寿司ともに小泉を連れて行く山岡。「まず酒の肴にこれから召し上がってください。山梨県の名産に煮貝と言うんです。アワビを醤油で塩辛く煮た物です」「海のない山梨県で保存食で始まった煮貝ですが、今は高級な珍味として珍重されてます」「噛めば噛むほど味が出る。なるほど、アワビはこうしても旨いモノなんだねえ」

蒸しアワビを握る夏子。「おう。生の時にはプリプリした歯ごたえだったのが、しんなりしてムチムチした歯ごたえに変わった。味も大変な変わりようだ。実に複雑でさまざまな旨味の要素を持って、奥行きの深い味になっている」「夏子さん、ありがとう。局長、次に行きます」「え」

岡星でアワビの天ぷらを食う小泉。「これはいい。生のアワビの海の香りも残っているし、それに火を通したことによる旨味も加わって、歯ごたえも味も香りも一緒に楽しめる」「岡星さん、ありがとう。局長、次に行きます」「え」

大王飯店で乾しアワビの煮込みを作る王。「へえ。乾しアワビ」「アワビはいったん乾すことによって、生の時とは比較にならないほど、複雑で濃厚な味になるんです。中国人が乾しアワビを好むのは、保存が効くからと言うより、味が遥かによくなるからです」「太陽の光がアワビの蛋白質を分解して、いろいろなアミノ酸を引き出すんですよ」

乾しアワビの煮込みを食べる小泉。「むう。今まで食べたアワビとは同じ物とは思えぬほど味が濃厚だ。中国人の美味追及の熱意はすさまじいものだな」「局長、今夜のアワビ尽しはこれで終わりです。明日、もう一か所付き合ってください」

三重県・志摩半島にあるホテルに小泉を連れて行き、アワビのステーキを食わせる山岡。「いやはや、まいった。こんな旨いものを食ったのは初めてだ」「局長、これでもアワビは水貝に限りますか」「とんでもない。アワビは知れば知るほど、その良さが出てくる。私はアワビの凄さのほんの一部しか知らなかったんだ」「アワビですらそうなんです。これが人間だったらどうでしょうか」「え」

「局長は日本に戻って間もない。谷村部長についてもアワビに対する知識くらいしかないんじゃありませんか」「ぬ」「谷村部長は水貝だけの人じゃありません。天ぷらにしたって、乾物にしたって、ステーキにしたって、味のある方です」「ぬ、ぬう」「ただし、材料の良し悪しの見極めのつかない料理人にかかったら、おしまいですがね」「私がそうだと言うのか」「そうでないと信じています」「その通りだ。谷村君の異動は取り消す。究極のメニューも今まで通り、彼に見てもらう」「ありがとうございます」