作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(115)」 | ロロモ文庫

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柔らかい酢

領子の作った鯖ずしを食べて、入院してしまう唐山。「わしは最初から鯖なんかやめろと言ったんっだ。昔から鯖の生ぐされと言ってな、当たりやすい魚なんじゃ。特にこんな夏場では余計恐ろしい」「ごめんなさい」「ごめんですむか。わしみたいな天才陶芸家が鯖に当たって死んだら、いい恥さらしじゃわい。領子はちゃんと料理の仕方を勉強しないから、わしがこんな目に遭うんじゃ。わしに対する愛情が足りないんじゃ」「そんな」

落ち込む領子にいいことがあると言う山岡。「唐山陶人に領子さんの有難みをちゃんとわからせた上に、領子さんの料理の腕もあげるのさ」「それは願ってもないことだわ。どうするんですか」「まず、鹿児島に行きましょう。これは究極のメニューを作る際に必要な材料探しでもあるんだ」

鹿児島に行き、黒酢作り60年と言う竹下を栗田と領子に紹介する山岡。「竹下さん、黒酢って普通のお酢とどう違うんですか」「では、作る工程を見ていただきましょう」

説明する竹下。「米に麹菌をつけて、この麹室で寝かせます。こうして時々かき混ぜて、麹の出来具合を見ます」「この黄色い粉みたいなのが、麹菌糸なのね」「酒を作る麹とはだいぶ違う。酒の麹はここまで菌糸を繁茂させない。だから色は黄色くならない」

沢山の甕が並んでいる庭に三人を連れて行く竹下。「この甕に蒸した米と麹と水を入れて仕込むのです」「この甕は屋外に出しっぱなしなんですか」「そう、鹿児島の温暖な気候に、甕を丸ごと委ねてしまうんですよ」「へえ。時々かきまわすんですか」「毎日です。毎日出来具合を見るんです。出来が悪いのは手を加えて直します」「そこまで手をかけるんですか。子供を育てるのと同じね」「そうですとも。この甕はみんな私の子供と同じです」

仕込んで一年たった黒酢を見せる竹下。「本当に黒いわ」「さあ、味を見て」「柔らかな味」「少しもツンツンこない」「悪い酢だとむせてしまう」「自然の力と人間の知恵が調和して出来上がった素晴らしいお酢だわ」「ホントに自然が育ててくれたお酢なんですよ」「これで鯖ずしを作ろうってわけね、山岡さん」

そうだと言う山岡。「この黒酢は酢の中では独特の作り方のもので、勿論日本には別の方法で純正な酢を作っている所はいくつもある。ただ、はるばるここに連れてきたのは、酢の原点を言うべき物を見てもらいたかったからなんだ」「とても感動したわ」「これこそウソ偽りのなしの本物の本物なのね」

東京に戻り、領子に鯖ずし作りを指導する山岡。「3、4時間、塩をした鯖の成分を酢で洗い落としてから、酢につける。3、40分もつければ出来上がりだ」「私も同じやり方をしたのに、どうして私の作った鯖ずしは当たったのかしら」「それは酢のせいだね。酢が鯖に十分に染み込むと、殺菌効果を発揮するが、これが純粋の醸造酢でなく、合成酢だと、材料の中に染み込む力が弱くなるんだ」「でも、私はちゃんとした酢を使ったはずだけど」

説明する山岡。「日本では科学的に合成した酢を、食用酢として売ることが許されているんだ。合成酢には勿論合成の表示があるが、非良心的なメーカーの中には、醸造酢と言いながら、合成酢を混ぜたりする所もある。残念ながら、今の分析技術では合成酢をちゃんと検出するのは難しいんだ」「じゃ、私はそんな酢を」「でも、この黒酢なら大丈夫。美味しい鯖ずしが出来る」

すっかり元気になって退院する唐山。「あれから、すっかり領子は鯖ずしの名人になってな。領子の鯖ずしは最高じゃよ。ほっほっほ」「はあ。本当によい酢はよく効くよ。陶人先生、骨まですっかり柔らかくなって、領子さんにデレデレじゃないか」