作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(111)」 | ロロモ文庫

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激闘鯨合戦(3)

ジェフに説明する山岡。「確かにザトウクジラやシロナガスクジラの数が激減した。だから1960年代前半に捕獲禁止にしている。ナガスクジラやイワシクジラも1970年代後半から捕獲禁止になった。禁止になって、どの鯨の数も増えている。だけど俺はシロナガスやザトウクジラを捕ろうと言ってるんじゃない。今、母船式の捕鯨で捕獲されているのは、南氷洋のミンククジラだけだが、そのミンククジラは増えているんだ」

「信じられないね。何の根拠があってそう言えるの」「国際捕鯨委員会(IWC)は、毎年鯨の資源調査を行っている。それによると1979年に11万頭だったのが、1986年には29万頭になっていた」「えっ。IWCの調査でそんなことが」「信じられないのも無理はない。ジェフ、君は所属している団体の幹部が鯨が絶滅しかかっていると言うのを本気で信じ込んでいただろう」「え、ええ」

「しかし、なんで反捕鯨運動家は見え透いたウソをついとるんや」「反捕鯨運動家は二つに分けられます。一つは熱狂的な鯨愛好家、もう一つは職業扇動家。どちらもなりふり構わないんです。彼等はたとえ鯨が沢山増えて、アメリカから日本までの海を埋め尽くしたとしても、鯨は絶滅しかかってると言うでしょ」「むう」

東京に帰ると言うジェフ。「東京に僕たち環境保護団体「鯨十字軍」のワット副会長が来ています。副会長に会って、どういうことなのか訊ねてみます」

栗田に語る山岡。「1982年のIWC総会で、1986年以後、捕鯨を中断する決議が採択された。この結果、日本は1987年4月以降、南氷洋での母船式捕鯨ができなくなり、日本でも沿岸捕鯨も1988年4月以降できなくなる。しかし、捕鯨は形式的に中断するだけで、1990年までに鯨の数がどの程度増減しているかを調査した上で、商業捕鯨をどうするか検討することになっている」「じゃ、捕鯨再開できるかもしれないのね」「日本の捕鯨関係者はそこに一縷の望みを託している」

「ジェフは捕鯨を大事な文化として守りたいと思う、私達の気持ちをわかってくれたかしら」「難しいね。でも、ここまで日本が反捕鯨派に追いつめられた原因の一つは、自分たちのことを外国に理解してもらう努力を怠ってきたことにあるんだ。日本人という訳のわからない人種が、貿易黒字はため込む、外国の自動車産業や電子工業を打ち負かす、なんてことをしていれば、外国から反感を買うのも無理はない」「本当ね。外国にもっと日本のことを知ってもらわないと、捕鯨だけじゃなく、全ての摩擦は解決しないわね」

ワットたちと会ってきたと山岡と栗田に言うジェフ。「どうしたんだ、ジェフ。泣いたりして」「僕の話を聞いてください。僕はワット氏ら鯨十字軍の幹部と会いました。彼等の泊まっているのは一流ホテルで、しかもその最上階のスイートルームでした」

『鯨の頭数?そんなもの増えようが減ろうが、大した意味はないさ』『なんですって。だって、鯨が絶滅に瀕しているから、捕鯨はやめろと』『だから、捕鯨をやめろ、鯨を殺すなと、叫ぶことが大事だと言ってるんだ。鯨が実際に増えているかなんて別問題だ』『それはどういう意味なんですか』『ハハハ。仕方のない男だ。世間知らずなんだな』『え』

『いいかい、ジェフ。我々は環境保護団体だ。世界規模で環境保護にためにいろいろと活動している。活動するためには資金が必要だ。しかし原子力発電所建設反対を唱えても、寄付金は集まらん。支配階級に好まれないからな。だが鯨を看板にすると、誰もが喜んで金を出す。大富豪の未亡人、学校の生徒たち、大企業。皆、気持ちよく金を出す。鯨は金を集めるための看板なのさ』『か、看板』

『だから鯨の数は問題ない。鯨を守ろうと言うと、人々の感情に大きく訴えかけることができる』『……』『それにもう一つ。今、世界で捕鯨国と言えば、日本のことだ。従って、反捕鯨を唱えることは、同時に日本を叩くことになる』『日本を叩くですって?』『そうさ。捕鯨を絡めて、日本人は野蛮で残酷で汚い、と煽ると、アメリカでもヨーロッパでも非常に受ける。ますます沢山の援助が集まると言う訳なのさ』

『そ、それは、日本人に対する人種差別と偏見を煽り立てると言うことではありませんか』『何か悪いかい?黄色い猿どもの手から鯨を守ってやるんだ』『貿易なんかでも、ジャップは汚いことばかりして、黒字をため込みやがってさ』『あの黄色い猿どもを思い上がらないように、少し痛めつけてやるだけさ』

呻くジェフ。「あの連中は鯨のことなんかどうでもいいんです。寄付金を集めるために、鯨を利用してるだけなんです。僕はあんな連中の仲間に入っていたかと思うと、自分が恥ずかしい」「反捕鯨運動が日本人に対する人種偏見と結びついていることは、俺も知っていたよ。向こうの反捕鯨運動のデモでは、日本の国旗を焼いたりもするからね」「そうだ。僕はもう一つ重要なことを聞いたんだ」

『あなたたちは何しに日本にやってきたんですか』『日本は今年、商業捕鯨が終わったあとも、調査捕鯨を続けると言っている』『でも、1990年までに鯨の数を調べて、数が十分なら捕鯨を再開することになってるんでしょう。そのためには調査のための捕鯨は続けていかないと』

『ふん、1990年だろうと、何年だろうと捕鯨は再開させない。だから、調査の必要もない』『今度来日したのは、調査捕鯨をやめないと、アメリカ政府が日本に経済的制裁を加えるかもしれないと日本政府に警告を発するためだ』『我々環境保護団体はアメリカで大きな力を持ってるからね』『議員たちも喜んで我々の言うことを聞くよ。今、日本叩きで名を売れば、次の選挙は楽々当選だし』『日本叩きはいいビジネスになるんだよ』『1990年以降に捕鯨を再開できるかもしれないと日本人どもが抱いている薄汚い期待を叩き潰したとなると、我々の株は大いに上がるからな』

「1990年以後も捕鯨を再開させないために、圧力をかけに来ただと?」「汚いやり方だわ」「くそ。日本人をなめるなよ」「山岡さん、僕、手伝わせてよ」「なんとかしてやらないと」