作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(105)」 | ロロモ文庫

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日本風カレー(前)

栗田の財布をすって逃げる男を豪快に投げ飛ばす老人。「ははは。年は取っても、この虎沢玄太郎、講道館9段の腕は錆び取らんわい」お礼にご馳走させてくださいと言う栗田にカレーを食べたいと言う虎沢。「店はわしに任せてくれんかね。実は今日、銀座に出てきたのも、その店のカレーを食べるのが目的じゃったんじゃ」「え」「これから案内するカレー屋はわしの孫娘を奪いおった男の店じゃ」

カレーショップ「マイダス王」を指さす虎沢。「ここじゃ」「あら、本日休業の札が出てるわ」「構わん。いいんだ」店に入る虎沢。「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」「おじいちゃん、いらっしゃい」「さあ、みんな遠慮はいらん。朝江。わしのお連れしたお客さんたちだ。一緒にカレーを食べてもらう。さあ、栃川、カレーを食わせてみろ」「は、はい」

わしはカレーが大好物だと言う虎沢。「それも日本風のカレーが大好きなんじゃ」「日本風と言いますと?」「ルウを作るのに小麦粉を使うのだ。それも小麦粉を徹底的に炒めて、香ばしい香りを出したものが好きなんじゃ」「へえ」

自己主張する虎沢。「最近は、ちょっと洒落た店へ行くと、本場のインドとジャワとかの作り方でカレーを出す。そういうカレーは汁がサラサラしている。飯にかけると、汁はすぐに飯粒に吸われてしまって、飯粒はぶよぶよになり。舌触りが悪くなる。やはりカレーは十分にとろみがあって、飯粒は覆い包む形になった方が、わしは旨いと思うのだ」「そう言われると、カレーが汁っぽすぎるとご飯とうまく調和しませんわ」

それは米の性質が違うからだと言う山岡。「東南アジアの米は日本の米より粒が長くてパサパサしている。その上、米を炊く時は、途中で一度煮汁を捨てて、新たに水を入れて炊く。だから炊きあがった飯は一層パサパサしている。そういう飯には汁気の多いカレーでなければいけないんだ。ところが日本の米はモチモチしている。だからとろみのあるカレーの方がうまく合うんだろうね」

「でも、どの料理本にも小麦粉を使ってルウを作るのは、本格的なカレーじゃないと書いてあるわ」「それは頭の固い権威主義的な考え方だよ。カレー料理は国により地方により、様々な種類がある。どれがカレーの本家かなんて言えないよ」

カレーの材料として豚、牛、羊、鶏の肉が日本風カレーに使われると語る虎沢。「ところがわしはそれでは飽き足らない。それでわしはこの栃川に宿題を出した。豚、牛、羊、鶏の肉以外の材料を使って、今までにない味のカレーを作れと。さあ、どんなカレーを作ったか、食べさせてもらおうか」「はい」

いきなり香ばしさが足りんと文句を言う虎沢。「おじいちゃん。栃川さんは丁寧にこんがりと小麦粉を炒ったのよ」「いくら丁寧に炒っても香ばしさが足りんものは足りん」「虎沢さんの言われるとおりだ。どうせ日本風のカレーを作るなら、もっと徹底した方がいい」「え。どういうこと」「ま、栃川さんにはわかっているさ」「おっしゃることはわかりません。でも」「さて、味の方だか、これは何を使ったのか」

季節外れのタラを使ったと言う栃川に、失格だと言う虎沢。「こんな物、まずくて食えん」その通りだと言う山岡。「このタラの身は季節外れのせいか、脂が乗ってなく、とろみのあるカレーに対抗する力がない。これなら豚肉や牛肉を使ったカレーの方が美味しい。それでは新しい材料を使った意味がない」

このカレーはダメだと怒鳴る虎沢。「さあ、朝江、来なさい」「あっ」「先生」「うるさい、栃川。美味しいカレーが出来なかったら、朝江は返すと約束したじゃろうが。武士に二言はないぞ」「ああ。栃川さん」「朝江」

事情を話す栃川。「私は虎沢先生の弟子でした。オリンピックの柔道の代表に選ばれるところまで行きました。だが、天狗になった私は飲酒運転をして人に怪我をさせ、オリンピック代表を取り消されたのです。私はすっかりやけになり、柔道の世界から逃げ出し、何度か警察のお世話になりました」

「そんな私を救ってくれたのが朝江なんです。堕落していた私を立ち直らせるために、先生に背いてまで、私と。私は再出発の第一歩として、このカレーショップを開いたのですが、先生は私が朝江をたぶらかして連れ去ったとお怒りになって、私に迫ったのです」「それが今の宿題か」「宿題ができなかったら、朝江さんを返すと約束したのね」