作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(69)」 | ロロモ文庫

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ハンバーガーの要素(前)

ふうんと呟く山岡。「美食倶楽部を辞めたいと言うの」そうなんですと答える中川。「この宇田は美食倶楽部の料理人の中でもずば抜けた腕を持ってまして、海原雄山先生も特に目をかけておいでなんです」「どうして辞める気になったんですか」「美食倶楽部の料理は最高ですが、その料理を楽しめるのはほんの一握りの人間だけです。会員制で普通の庶民には近寄れません。私はそんなやり方に耐えられなくなったんです」「なるほど」

「私は料理人です。美味しい物を作って、大勢の人に喜んでもらいたいんです」「なるほど」「それで宇田は自分の店を出したいと言うのですが、その店が問題なんです」「へえ、どんな店なの」「はい。ハンバーガーショップをやろうと」「え」「誰だって驚きますよ。日本料理最高峰と言われる美食倶楽部の料理人がハンバーガーなんて」

「確かに和食とは無縁かもしれませんが、私はこだわりません。ハンバーガーはこれから先、もっと大勢の人に好まれるようになると思います。美味しいハンバーガーを作れば多くの人を喜ばせます」「しかし、もったいない。宇田ほどの腕を持ちながら」「いや、中川。宇田さんの考えはしっかりしてるよ。和食の世界からハンバーガーなんて信念がなければ思いきれるもんじゃない。独立して和食の店をと言う方が、安易で心配だ」

私は感動したと言う栗田。「一部の特権階級のためでなく、大勢の人のためにと言う考えに。素晴らしいことだわ」「本当だ。料理人の職業病に俗物根性症候群と言うのがある。有名人、権力者などをお客に迎えるのを喜ぶ病気だ。宇田さんはそれと無縁だ」やれやれと溜息をつく中川。「士郎さんに相談したら、宇田のことを止めてくださるかと思ったのに」

チェーン店のキングバーガーに行く山岡と栗田と宇田。「肉がパサパサです」「ハンバーグは作り置きして、冷凍保存してあるんだ」「匂いもよくないわ」「これは脂臭いですね」「脂臭いと言うより、スジ肉の部分の匂いだね」「ひき肉にしてしまうとわからないから、程度の低い肉を使ってるのね」「ハンバーガーの命は、やはり牛肉ですね。私は思い切りいい肉を使うぞ」

開店間近になり、張り切る宇田。「うちは、その日の分のハンバーグをその日に作ることにします。冷凍保存は手間が省けますが、味が落ちるので絶対にしません」「炭火で焼くのね。いい香りだわ」「玉ねぎとトマトも無農薬栽培の農家と契約しました」「贅沢なハンバーガーだね。原価がかさんでたまらないな」「薄利多売で頑張りますよ」

そこに中川とともに現れる海原。「ぬ。中川、貴様」「はっ、私にはハンバーガーのことなどわかりませんので、士郎様にご相談を」「余計なことをしおって。こんな与太者とかかわりあいになるなと言っておるだろ」「……」「ま、しかし、ハンバーガーみたいな下司な食べ物は士郎とよい取り合わせだわ」「なに」

「宇田。そろそろ開店だと聞いて、中川に聞いて味を見に来てやった。食わせてみろ。私に背いてまで選んだハンバーガーとやらを」「は、はい」ハンバーガーを口にする海原。「ハンバーガーみたいなものを旨いまずいと言っても始まらん。だが一つだけ言っておこう。こんな物、売り物にならん」「先生」「お前を見損なったぞ、宇田。こんな子供だましの食い物一つまともに作れんとは。ふっ、教える人間が士郎ではこんなものか。帰るぞ、中川。時間の無駄だった」

歯ぎしりする宇田。「いくら、私が憎いからと言って、私にこんな嫌がらせをしに来るなんて」「今のをただの嫌がらせだと思うのか」「だって、そうでしょう。肉だって野菜だって最高の材料を使っています。こんな贅沢なハンバーグはありませんよ」「そうか」「山岡さん、私のハンバーガーに何か問題が?」