作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(42)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

江戸っ子雑煮

板山に招かれてニューギンザデパートを取材する山岡と栗田。「見たまえ、全国から郷土色豊かなお雑煮を集めたよ」「地方によって、お雑煮にもいろんな種類があるのねえ」「その土地の自然の産物と人間の気風の違いが出て面白い」「博多の雑煮じゃ」「豪勢ねえ。いろんな物が入ってる。このお魚は?」

「アラと言って、ハタの仲間で2メートル以上になる大きな魚だ」「美味しい。コクがあるのに生臭くなくて」「博多の人たちはアラを大変に珍重するんだよ。フグチリよりアラの鍋の方が旨いと言う人もいるくらいだ」「このダシはちょっと癖があるね」「アゴと言って、トビウオを乾して焼いたものでダシを取るんです。博多の人間はアゴでダシを取らないと満足しないんだ」

「これが京都の白味噌の雑煮じゃよ」「わあ、甘いのね」「実に独特の味だね。この甘い味噌の味は関東の人間にはなじみにくい」「ダシはカツオブシで上品に取ってあるわ。おモチも丸くて可愛いし、とても上品な感じね」「モチは焼かずに湯で柔らかくしてあるから、白味噌の香りも損なわないしね」

「青森県は南部の鮭が有名だが、雑煮の中にも鮭のハラ子が入るんじゃ」「これも贅沢ねえ。ハラ子だけじゃなく、いろんなものが入っている。キノコも鳥肉も野菜もカマボコも」

「これが江戸の雑煮じゃ」「中に入ってるのは小松菜と合鴨だけね」「おせち料理はあれこれ食べるが、そのあとの雑煮までゴッテリしたものを食うのはイヤだと言う江戸っ子の粋を尊ぶ気風の現れだろうな。これは合鴨が入ってるけど、家によってはカマボコを入れたりするね。勿論、ほんの一切れか二切れ。江戸風の雑煮か。頭は元気かなあ」

浅草に住む川上を訪ねる山岡と栗田。「そうかそうか、江戸風の雑煮のことをあっしに聞きてえと」「はい。江戸火消し花川戸組頭のお家のお雑煮はどんなものか知りたくて」「江戸の雑煮はカツオブシで取ったいいダシの中に焼いたモチを二つ。あとは小松菜とカマボコ2切れ。それだけで粋に行こうってワケだ」「じゃ、おたくはカマボコを入れるんですね」「口で言ってちゃまだるっこしいや。今から雑煮を作って見せましょう」

人形町の「かま天」に行き、そこでカマボコを買うと言う川上。「グチとかオキギスだの上品な白身の魚しか使わないんだから、ちょっと他所のカマボコと味が違うよ」しかし山岡からかま天は閉店したと聞いて落胆する川上。「まがい物を売る店が栄えて、本物を売る店が潰れる世の中なのかい。カマボコがなくっちゃうちの雑煮は作れねえな」「カマボコじゃなくても、ほかの物を入れればいいじゃない。合鴨でもかしわでも」「正月の雑煮は縁起もんだよ。花川戸の家の雑煮はカマボコと江戸時代から決まってるんだ。今度の正月は雑煮なしだな」

有名店のカマボコをチェックする山岡と栗田。「歯ごたえが固いわ。それにこれが化学調味料の味だわ」「舌ざわりが荒い。これも化学調味料の味だ。それに不自然に白すぎる。だいぶポリリン酸塩を使っている」「どうすればいいの」「本物のカマボコを作るしかないな、自分たちで」「え」

神奈川県の三浦三崎でオキギスとムツとカワハギをゲットする山岡。「こんな魚でカマボコを作れるの?」「ああ。白身の魚であまり油がなくって身の締まったやつがいいんだ。カワハギも身に粘着力があるから、十分使える」

魚を三枚におろす山岡。「その良いところだけを使うんだ」「白身の魚に良いところだけを使うなんて贅沢なのね」「そうさ。ところが大きなカマボコ屋になると、白身の魚でも質の落ちるものを使うから色が悪い。仕方ないから色ぬきするんだ」「誤魔化しなのね」

白身をすりつぶす栗田。「塩、酒、ミリンで味を調えて」「あら、粘り気が出てきたわ」「塩を加えて練ってやることで、魚の蛋白質は強い粘り気が自然に出てくるものなんだ。ところが大部分のカマボコメーカーは、本来カマボコに向かない腰の柔らかい質の悪い魚を使うので、粘りが出ないから、粘着力を出すために品質改良剤を入れたり、でんぷんを混ぜたりしてるんだ」「それじゃ味が落ちるのが当然だから、化学調味料を入れるのね」「まったく、変なカマボコは添加剤の固まりだよ」「そうね」

「ホントに昔はこうやって念入りに練ってたんだ。だからカマボコなんかのことを練り物って言うくらいなんだ。練り終わったら、金物の方に流し込む。すり身の上に松葉を刺して、蒸してやる。松葉の色が茶色に変わったら、蒸し上がりだ。出来たら冷たい水をかけてやると、身が締まる」

山岡の作ったカマボコに喜ぶ川上。「見てくれは悪いが、本物のカマボコじゃねえか。この滑らかな舌ざわり、気持ちの良い歯ごたえ、甘い自然な旨さ、そしてこの香り。これこそ本物だぜ、これならうちの雑煮に使えるぜ」哀しい世の中ねと山岡に言う栗田。「おせち料理の主役のカマボコにニセモノばかりなんて」「ま、少しずつ良くなるようにしていくしかないさ」