手塚治虫「海のトリトン(6)」 | ロロモ文庫

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ドリッペ

トリトンが気づくと、回りには黒いものが沢山浮かんでいた。ルカーにあれは何だと聞くトリトン。「ポセイドン一族の死骸です」「こんなにたくさん集まっていたのか」「ええ。あなたを待ち構えて、2、30人は集まっていたらしいです」「こんなに沢山僕は殺さないぞ。僕がやっつけたのは、あの黒いやつだけだ。それからヘプタポーダが自殺して、あとは僕があの銃で撃ちまくっただけだ」

「それが、ただの銃ではなかったのです。あの銃には「憎しみ」が詰めてあったんです。あれに当たったら、あなたの体が消し飛んでしまうほど強いものです」トリトンは和也の頬を叩く。目を開く和也。「兄さん。わかったんですね。さあ、今すぐイルカに乗って帰ろう」

和也はトリトンに自分の思いを字で書く。<トリトン。俺は日本に帰るとお尋ね者だ。母さんには会いたいけど、かえって迷惑をかけるから、このままどこかの港でお前と別れたいんだ。お前は立派に育ったが、ポセイドンと戦うには覚悟がいるぞ>

和也は近くの島に上陸する。もう一度和也を説得するトリトン。「兄さん。もう一度だけ思いなおしてくれ。日本へ帰って母さんを喜ばせてくれよ。僕が海の世界へ帰ったら、母さんは一人ぼっちになってしまう」しかし和也はメモを残して走り去る。<きっと、いつかうちへ帰る。それまでは影でお前を助ける。俺のことは心配するな>

落ち込むトリトンのところに変な少女が話しかける。「トリトン。トリトン」「どうして、僕の名を。君はピピ子。どうして急にそんなに大きく。そうか。僕もそうだった。トリトン族は急に大きくなるんだ。どうして、こんなところに出てきた」「ピピ子ね。トリトンの恋人だもん。トリトンが心配で出てきたん」「恋人だあ」「うん。大きくなったら結婚するの。トリトンのあと追いかけて泳いできたのよ」

ピピ子をおんぶして坂道を歩くトリトン。「兄さんはこの道をまっすぐ歩いていったんだなあ。兄さんは陸の人間。僕は海の人間。どうせ、いつかは別れる運命かもしれない」「でも、トリトンにはピピ子がついているもんね」

トリトンがヘプタポーダのことを考えていることを知ったピピ子は嫉妬する。そこに沖洋子が小舟に乗ってやってくる。「いったいどうしたんだい」「パパがいよいよ変になったのよ。ポセイドンのために命をかけて協力するって。どんどん工場から資材を送り出しているわ」「ふん。海底の要塞の建設のためだよ」「あたしもう二度とうちに帰らないつもりよ」「しかし、ここがよくわかったね」「あたし、水族館のイルカにあなたの写真を見せたの。そしたら一頭だけが知っていて、あたしを案内してくれたわ」

ターリンは洋子がトリトンのところに行ったことを突き止める。海燕の巣の小島がトリトンのアジトであることを突き止めたターリンは、トリトンと対峙する。「最後のトリトン族をあの世へ送る時が来たんだ。この剣は何千匹のトリトン族の血を吸ってきた。これで倒されれば、お前も本望だろう。これをただの剣と思うか。フフフ。これは生きているんだぞ。実を言えば、これは魚だ。ポセイドン様がある毒魚を剣の形に変えているんだ」

しかしトリトンはうまく剣を海の外におびき出し、剣魚を退治する。「さあ、殺し屋。お次はどんな武器でくる」「よし、こうなったら最後の手段だ。このアブクの匂いでもかいでみろ。この貝は自分の身を守るために危険が迫ると泡を出す。この泡は特別なガスでできていてな、貝が自分の体で作るものだ。これをふっかけられた魚は、あっという間に体がマヒして動けなくなる」

ターリンはぶっ倒れたトリトンを殺そうとするが、トリトンの反撃に会い、体にナイフをくらう。「トリトン。貴様はのびたふりが堂に入っているぜ。だが、俺はまだまだ死なんぞ。エビやカニが脱皮して生き延びるように、俺は体の一部をやられたって、皮を脱いで何度でも生まれ変われるんだ」ターリンは皮を脱いで逃げていく。洋子はターリンの皮を見て、ぶっ倒れる。「洋子さん。どうした。急に倒れて」

気がつく洋子。「君は僕に何か隠しているな」「ターリンはね、あたしに好意を持っているの」「あの化け物の殺し屋が君を好きなんだって」「あたしだって気持悪かったわ。でもある日、あたしが心臓の発作で死にそうになったとき、丸薬をくれたの。飲んだらけろっとなおったの。そのおかげであたしは今まで無事でこられたのよ」「薬なんか頼らずに、お医者に治してもらえよ」「今の医学じゃダメだわ」「フーム。あいつを倒せば、君の命も危ないか。わかった。ターリンは殺さない。なんとか生かして、君に奉仕させる」

海底のポセイドンの基地にどんどん資材が運ばれる。「長官。日本から資材が届きました。送り主が代金を要求していますが」「よし払ってやれ。いつもの通り、純金でだ」長官はポセイドンに会う。「いよいよ、コンピュータが届きました。さようでございます。これで大要塞もほとんど完成で。トリトンの行方ですか。万全の捜査をしておりますのでご安心を」

要塞は完成する。長官に聞く部下。「わずか生き残りのトリトン一族にこんな要塞を使うんですか」「馬鹿な。相手は人間だぞ」「陸の人間に使う。これを」「王の本当の腹はそうなのだ。トリトンと闘うそぶりをして、この要塞を造り、人間に協力させ、ある日突然陸を襲う」「しかし、我々海の住人は陸の世界の人間に手を出してはいけないんでしょう」「その規則を作ったのは王だからな。それは計略さ。陸のやつらに安心させて油断させるためさ」

穴の中にはいって新しい皮ができるまで待っているターリンのところに、ポセイドンの三番目の息子のドリッペがやってくる。「誰かと戦ったのか」「はい。トリトンと」「どこで出会った」「はい。ある場所で巡りあい、不覚をとりました」「トリトンとどこで会った。教えろ。教えないと、ひねりつぶしてやるぞ」「黒潮あらう房総沖です。イルカと海ツバメの小島に隠れております」

ドリッペはトリトンを倒そうとするが、間抜けなドリッペはあっさりトリトンの返り討ちにあう。「どうせ助からないんだから、しゃべってしまえ」「何を」「お前の父親のポセイドンは南の海で何を作っているんだい」「要塞」「ポセイドンが海底要塞を作っていることは知っているよ。何のための要塞なのかが問題だ」「そんなこと知らん。息子は親父のやることに口を出さないもんだ」

俺は死ぬ、というドリッペ。「お前は俺より強いし賢い。だがひとつ忠告するが、お前にゃいい相棒がいないな。一匹狼だろう。俺がいい友達を紹介してやろう。この貝殻を名刺がわりに持っていけ。ガノモスというやつだ」「お前の兄弟か」「いいや、関係ない。だは真面目なヤツだ。俺尊敬していた。オキナワという島の方角だ」死ぬドリッペ。