手塚治虫「海のトリトン(5)」 | ロロモ文庫

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イポリロ

仮面を被った女が沖のところにやってくる。「これはヘプタポーダ様。ご機嫌麗しゅう」「ターリン。どう、トリトンの様子は」洋子はトリトンに気味の悪い女が来たと知らせる。「なんてやつだい」「ヘプタポーダよ」「ヘプタポーダ。この間のヤツは、ドデカポーダって言ってた。さては。そんなヤツか見たいね。僕が探している敵の一味かもしれない」

庭から様子を伺うトリトンと洋子。「ときどき来ては、パパと大きな取引をするのよ。何か大きな建築の材料を買っていくの。何か海の中に大きな建物を作ってるらしいの」ヘプタポーダは、沖に真珠入りの酒を飲ませる。自分が魚になったと思い込む沖。「あなたはもう私たちの言いなりになるしかないわ。こちら望み通り、鉄と資材を船に積み込むこと。あなたはもうポセイドンの奴隷なのよ」

トリトンはヘプタポーダをあっさり倒す。重傷を負ったヘプタポーダは死にたくないと訴える。トリトンはルカーに相談する。「ポセイドンの娘を捕まえたんだ。傷を治してやりたいんだけど、薬を知らない」「とんでもない。殺しなさい、トリトン。情けは無用です。海の世界ではそんな心の弱味は禁物です。帰ってひとおもいに殺しなさい。その女は、きっとあなたの命取りになります」

しょげかえるトリトンを見て、ルカーは呼び止める。「あなたの気持ちはわかります。あなたは人間の世界で、そういう優しさを身につけたのかも」輝く玉を渡すルカー。「その中には特殊な液体が入っています。海の中の栄養をぎっしり詰めた水です。それを飲ませれば、たいてい生き返ります」元気を取り戻したヘプタポーダは借りを作った、と呟く。「貸し借りなんてないよ。治ったら、また闘うだけだ」「私たちの合言葉はトリトン族を殺せ。治ったら、殺すわよ」「勝手なもんだ。いいとも。闘うなら堂々と海でやろう」

フィンはトリトン族の一人が見つかった、とルカーに報告する。「どこだ」「アラスカの近くですって。ポセイドンの一人にいじめられているんですって」トリトンの前に巨大なタコが現れる。「この北の海を支配しているオクトポーダというポセイドンの13番目の子供なんです。あれがあなたの仲間をいじめているんです」

オクトポーダを倒したトリトンは氷山の上で泣いている赤ん坊の人魚も見つけて、自分のアジトである無人島に連れて行く。赤ん坊はピピと口笛を吹いて、海ツバメを呼ぶ。「そうか、この子。氷の上で海ツバメとばかり暮らしていたからだ。君の名はピピ子に決まった」

トリトンに対しヘプタポーダは複雑な感情を持つようになり、和也の母に打ち明ける。「私、トリトンを憎めないのよ。トリトンだって私を憎んでいないことはわかっているの。私たち、こんなことを永久に続けなければならないの」

トリトンはポセイドンと取引をすることを思いつき、イルを使者にして、ポセイドンに手紙を渡す。「ポセイドンよ。こちらにはヘプタポーダが捕虜になっている。返して欲しければ条件を聞け。そちらにトリトン族の生き残りがいたなら、交換するんだ」

ポセイドンは返事を書くが、ポセイドン族語なのでトリトンは読むことはできない。「そうだ。彼女に見せよう」返事を読むヘプタポーダ。「娘よ。この手紙はトリトンは読めない。きっとお前に読ませるだろう。だから、お前だけにこっそり知らせる。人質の交換だといって、例の船にトリトンを乗せろ。お前も一緒だ。外海でわが一族が待ち伏せて、トリトンを殺す。うまくやるのだぞ」

ヘプタポーダは武骨丸にトリトンを案内する。「この船で外海に出る。そこにポセイドンの使いが交換の捕虜を連れて待っている。ポセイドン一族は君と引き替えに、確かに僕の一族の生き残りを引き渡してくれるんだろうね」「ええ。多分」そこに船長がやってくる。トリトンは船長がヘプタポーダそっくりなのに驚く。武骨丸が外海に行き、大きな板の上に真っ黒な男が現れる。「ポセイドン一族のイポリロだ。妹はいるか」「兄さん」「ポセイドン一族の娘のくせに、恥さらしなことをしてくれたな。あとでタップリお仕置きをしてやる」

イポリロは棺にはいっているヒゲ面の男が人質だという。「誰だかわかるかね。お前の義理の兄の和也だ。懐かしいだろう」「まさか。そんなヒゲ面の男が兄さんだなんて」「お前が兄と別れたのは何年前になる。10年前だろう。その間にお前も育ち、こいつも青年になったんだ。こいつは10年前から我々の海底のとりでで奴隷として働いていた。お前の兄と知っていたからこそ助けてやったんだぞ」「和也兄さん」「だが、あらかじめ、断っておくぞ。こいつはもう元の体じゃない。目も見えないし、口もきけない。そうでもしなければ、こいつは何度でも砦を逃げようとした」「よくも、兄さんを」

トリトンは人質交換しようとするが、イポリロは「待て」といい、のろしを上げる。すると大きな板は激しく回転し始める。勝ち誇るイポリロ。「新しい取引をするぞ。貴様、人魚の子を隠しているな。その場所を言え」「誰がそんなこと」「貴様も我々に降伏して永久に奴隷になるか。もし、こちらの申し出を聞けぬときは、貴様はその兄とここで死なねばならぬ」「そんな一方的な取引なんか聞く気にもならないよ」「見くびるな、トリトン。俺の力を見せてやる」

イポリロは髪をフカに変身させて、トリトンを噛み砕こうとするが、一瞬早くトリトンの短剣がフカの急所に突き刺さる。がっくりと倒れるイポリロ。「兄弟よ。みんな出ろ。出て俺のカタキを」息絶えるイポリロ。兄弟たちに「待って」と叫ぶヘプタポーダ。「この人は殺さないで。この人は悪い人じゃないわ。そっちが向かっていくと闘うけど、本当は優しい心の人なのよ。この人を騙しうちにするなんて、ポセイドンの恥じゃない」

「いう事はそれだけか。ヘプタポーダ。お前はトリトンを弁護するのか」兄弟たちはヘプタポーダに武器を渡す。「その武器でトリトンを仕留めるがいい。そうしたら今度のミスは許してやる」トリトンに銃をつきつけるヘプタポーダ。「やっぱり、こうなるのね。結局。あなたとは敵同士だけど、あなたは好きよ。できればあなたの家にいたかったわ。さようなら」ヘプタポーダは銃を自分の頭に向かって発砲する。ヘプタポーダは消え、残された銃で、トリトンは当たり構わず乱射して、気を失う。