女王シグマ(3)
シグマと一緒に寝台から飛び降りる昭吾。大爆発する寝台。ハハハと笑う昭吾。「俺はバカだよ。たった一つのチャンスをダメにしてしまった。さあ、女王、どうともしてくれよ。どうせ、調べればあの爆発の原因は俺だってことは」「わかってるわ。私がお前をわざと寝室へ入れたのは、多分何か細工をするのだろうと感じてなのよ。私を殺すために。お前は人間密動組織の刺客なのね」「あんた、意外とカンが鋭いんだな。さあ、もう覚悟している。どうせ死刑だろ」侍従官に命じるシグマ。「この子は私を救いました。この子に部屋をあてがって、奴隷の身分から昇格させて、秘書のポストをお与え」
考え込む昭吾。(俺は敗北者だ。なぜ、あの時、俺だけ飛び降りなかったのだろう。思わず女王を助けたのは、女王が渡ひろみに似ていたからだろうか)「貴様か。女王陛下を助けて奴隷から秘書に格上げされたと言う人間は?」「あんたは誰だい」「首相のビビンバだ。人間は低劣で不潔で悪臭ふんぷんたる生き物だ。陛下は許されても、この私が許さん」昭吾を狙撃するビビンバ。「こいつを陛下に内密で王室アカデミーへ運び、こいつの合成人を作るのだ。そして生まれた合成人の彼を秘書に据えろ」
王室アカデミーに運ばれて、クローン処理を受ける昭吾。そこに現れるシグマ。「長官。なぜ私に無断であの子の肉体をここに運んだんです」「それは、首相の命令で」「私の秘書について首相が越権行為をしたことはわかっています。命令です。あの子を蘇生させなさい。生き返らせないと、お前たち学者はみんな処刑します」
意識を取り戻す昭吾。「ここは前に寝かされた病院だな。そうだ。俺は首相に撃たれて」「死んだのよ。でも、脳さえあれば合成肉でいくらでも生き返らせられるわ。いいものを見せてあげるわ」「うわあ。あそこにもう一人俺が寝ている」「あれは合成人のお前です。お前の片腕を切り取って、お前の分身を作ったのよ。そっくりお前と同じだけど、あれは合成人です。首相はお前を殺し、お前の身代わりを私の秘書に置こうとしたの」「あなたに助けられたわけか」「昭吾。宮殿は危険よ。私の山荘においで。あそこなら首相たちの目も届かないわ」「俺をなぜかばう?俺はあんたを狙ってる男なのに」「……」
箱根の奥にある山荘に昭吾を連れて行くシグマ。「なぜ、私をここまで連れてきたかわかる?私はお前に愛の作法を受けた時、不思議な気分になったわ。それは体をくすぐられるような浮き立つ気持ちよ。私はもっと知りたいのです」「女王、はっきり言うけど。俺はあなたを愛せないんだ」
泥地獄の中にシグマを落とす昭吾。(合成人の女王をついに殺したぞ。爆弾ではしくじったが、今度は大丈夫だ。あの泥地獄の中じゃ10秒で体が溶けてしまう。ああ急に疲れがでた。あんまり気分がいいもんじゃない。俺、気が咎めているんだろうか。たとえ、合成人でも、生きているものを殺したんだ)
そこに現れるシグマ。「女王だ。確かに死んだはずなのに」「驚くことはないのよ」「あの泥地獄からどうやって出てきた」「いいえ。今着いたところ」「着いた?別人なのか」「別人と言うならそうかもしれないわ。前の体が死んだから、私が出てきたのよ。前の体はここに来る前に、指を一本切って王室アカデミーに置いてあったのです。その指が培養されて、私になったのです」「じゃあ、つまり生まれ変わったのですか」
「そうよ。だから私の体も考えも前とそっくり同じ。昭吾、愛の作法を」「もう沢山だ」「私を愛しなさい」「ダメだ。あなたは愛せない」「何故なの」「あなたには性器がないもの」「性器がなくたって愛することはできるはずよ」「違う。性器がないってことは、男でも女でもないと言うことだ。人形と同じだ。誰は人形を相手にできるか」「私のこの胸のふくらみは何のために」「それはただ人間に似ているだけだ。あなたは人を愛せない」「……」
「合成人は人間を下等で醜悪な生き物だと言っています。しかし、愛だけは人間のものだ。それだけはどんなに作り物が真似をしてもダメですよ」「いいえ。それはウソよ。私は手に入れかけているの。証拠を言いましょうか。私、あなたが好き」「冗談言うな」「ホント。私、お前が好き」「それは錯覚だ。合成人に恋なんてわかりっこない」
「人間の古い時代の作家がこう言ったわ。「自然はただ恋のためにのみ、我々をこの世に生んでくれたのだ」って」「また、真似事か。もうやめてください」「お前が女王の私に命令する権利はないわ」「くそう、マネキンめ」