水木しげる「水木しげる伝(10)」 | ロロモ文庫

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ウナマカピアウロ

 マラリアの熱が下がったしげるは、空腹を満たすため現地人の森に行く。しげるは子供のころから天国が好きだったから、天国が待ち受けているような気持で丘の上に上がった。虫は歌い、たくさんの鳥が舞っていた。なごやかな「森の人」の生活を垣根越しに見ていると、なんだか故郷に帰ったような気分になる。しばし戦争を忘れてぽかんとしていた。ちょうど昼の食事どきだった。

しげるは森の人の食事を全部平らげてしまう。「ううわ」「きゃあ」少年たちは食べ物を全部食べられたので騒ぎ出した。「ウナマカピアウロ」少年は美しい娘に何か言われて黙った。ということでしげるは森の人と友達になる。少年はトペトロという名前で、美しい娘はエプペという人妻だった。しげるは目覚めると足は自然に森の人のところに向く。やがて、彼は森の人の一族みたいになってしまう。しげるはエプペの家が好きだった。建物もロマンチックだし、本もあった。ちょうどバイブルがあったので読んだ。それからしげるはパウロと呼ばれるようになった。

そしてしげるの体はだんだんよくなった。ある日、切った腕からかすかに赤ん坊の匂いがする。なんだか生命が底のほうからわきあがってくる匂いだった。「生命が守勢から攻勢に転じたのかな。ひょっとしたら、内地に生きて帰れるかもしれないな」しげるは森に自分の畑を作ることを思いつく。

(人の世話にならずに、たらふく食うんだ)「うわー。パウロだ」「モンキーバナナじゃねえか」「近日大きな踊りがある」「うわ。俺前からそれを見たかったんだ。そのときは是非誘ってくれ」「パウロ。お前の畑だ」「うわ」「おめえの好きなイモを植えておいたよ」「感激。いっそここで永久に暮らそうかな」「そうしろ。おいらと一緒にこの森で暮らすんだ。パウロ」

昭和20年8月6日8時15分。広島市に原子爆弾が投下された。8月9日。ソ連は日本に宣戦を布告する。ソ連は満州ばかりでなく南樺太、千島及び北朝鮮まで攻撃を加えてきた。鈴木貫太郎はただちに宮内で指導者会議を開いた。「ポツダム宣言を受託せざるを得ないと思う」「しかし、陸軍は負けたわけではない」最高戦争指導者会議はいたずらに議論に時を費やしているときに、長崎に原爆が投下された。

この段階になっても軍部は強がりを言っていた。大本営陸軍部は「長崎に落とされた特殊爆弾はおそるべきものではなく、我々はその対策を持っている」と布告。8月9日午後2時に全員参加して開かれた閣議は和平を求めるか、戦争を続けるかで最終討論にはいっていた。阿南陸相「民俗の名誉のために戦い抜けば、必ずチャンスがある」米内海相「負け惜しみや希望的観測によって、これ以上危険な賭けをすることはいけない。戦争を終わらせるために現実に即して交渉に入り、日本を全面的破壊から救うべきだ」

鈴木首相が天皇に劇的なお願いを献上すると、天皇は静かにポツダム受託を受け入れるべきだと賛成であると言う。「陸海軍の計画は間違いが多く、時期を逸している。本土決戦というが九十九里浜の防御作戦は予定より遅れており、新設の師団の装備も不十分だ。これでどうして侵略を撃退することができよう。空襲は激化しており、これ以上国民を塗炭の苦しみに落としいれ、文化を破壊し、世界人類の不幸を招くのは私の希望するところではない」

最後の御前会議は8月14日午前10時50分、皇居の地下壕で始まる。梅津・豊田・阿南は戦争を継続することを涙ながらに訴えた。「世界の現状と国内の事情を充分に検討した結果、これ以上戦争を続けることは無理だと思う。自分はいかようになろうとも、国民の生命を助けたい。これ以上戦争を続けることは、わが国はまったくの焦土となり、万民をこれ以上苦しめることは私としては忍び難い。一般国民には今まで何も知らせずにいたのだから、必要があれば自分が親しくとき諭しても構わない」

15日正午に天皇は全国民に玉音放送をする。「敗戦の一言もなかったが。日本は負けたんだ」「これで宗平もしげるも家に帰ってくるに違いない」阿南陸相は15日早朝、カ割腹自殺をとげた。神風特攻隊の生みの親の大西滝治郎中将や杉山元夫妻など軍人や右翼系の人々は自決した。日本の傀儡であった満州国皇帝溥儀は8月18日に退位。ここに満州国はここに消滅した。昭和20年9月2日、戦艦ミズーリ艦上に降伏調印が行なわれた。太平世戦争は開戦以来、3年8ヶ月あまりで終わり、疲れ果てた国民はほっとした。

これからの日本はアメリカ大統領の任命した連合国最高司令官マッカーサー元帥の支配するところになり、元帥は東京の日比谷にある第一生命ビルを本拠とした。そのころ、しげるは糞の係りだった。毎日大量にパパイアの根を食べるので、ドラム缶に埋めた便所がすぐいっぱいになるのであった。そこにやってくるトペトロ。「パウロ。踊りだ」「うわあ。待ってたんだ」「おい。糞はどうなるんだ」立派な椅子に座って踊りを堪能するしげる。「ひょっとすると、僕はここの王様になれるんじゃないのかな」

しげるたちに戦争が終わったことが告げられる。「日本が負けたらしい」「そういえば、今日はバカに飛行機が少ないな」「なんだ。戦争は終わったんか。うふふふふ」しかし戦争は終わっても米の配給が少し多くなっただけで、軍隊はそのまま畑仕事が続いた。船が来るという噂だけの毎日だった。「なんでも、我々は無事内地に帰してもらえないらしいぜ」「全部キンタマをとるそうな」「いわゆる根絶やしというやつだ」

日本に帰れるという噂が流れる。「すると森の人たちと別れなきゃならんな。こいつは大変だ。早く知らせてやらなきゃ」別れを告げるしげる。「パウロ。みんな悲しんでいる。いますぐ我々の村に来い」「そうか」村へ行くと臨終のような雰囲気。プチと称する宝物のようにしていた犬を料理して最後の晩餐がもよおされた。「パウロ。日本に戻るのをやめろ。脱走してここに残れ。家も建ててやる。畑も作ってやる。お前の好きな踊りも大々的に行われるようになる。パウロ、我々の仲間になれ」

「ちょっと待ってくれ。日本にパパもママもいる。一度帰ってこなきゃあならんのだ」「では、いつ帰ってくる」「そう。10年ではどうだ」「10年たったらみんな死んでいる。いいとこ3年だ」「じゃあ、7年でどうだ」「7年とは長いなあ」「じゃあ、7年たったら帰ってくる」あくる日、しげるがジャングルに立っていると、滝の中に女性がいた。「あ。エプペ」エプペは美人だった。エプペは裸で水浴びしているのだが、とても美しい。エプペは黙ってニヤニヤしている。これには大きな意味があった。

現地の人間はすべて「プスプス」はジャングルでする。エプペが笑っていたのは「プスプス」はOKということなのだろう。しかし10日ほど前、ローソク病の布告が出ていた。「みな聞け。原住民の女と性交渉すると、ローソク病になって、男性の大切な一物がローソクのように溶けてなくなる病気があるから、全員注意するように」「ぷは」しげるはエプペとのプスプスをあきらめる。結局何事も無く出発した。