浦沢直樹「MASTERキートン(22)」 | ロロモ文庫

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黒い森

西ドイツ・シュバルツヴァルトの森。「あれは、ハリルさんの帽子ですよ、キートンさん。ハリルさんはここから足を踏み外したのですかね」太一は弾痕があるのを見つけ、川底から8ミリバラヘラムの銃弾を発見する。「じゃあ、ハリルさんは」「極右の連中から脅迫状が届いていたでしょう」

「毎度のことです。あれは確か「血と鉄党」とかいったなあ。我々は要求する。お前たちトルコ人は、偉大なるドイツ魂、純正なるゲルマン魂を汚している。神聖なるこの地から即刻撤退せよ。さもなくば、血の鉄槌をくだす、とね。この西ドイツでは私たちトルコ人は嫌われ者だから。特にハリルさんのようにまれに成功した人はなおさらです」

極右の連中は太一たちを襲う。森の中でキャンプをはることにする太一たち。「頑張ってください。持久戦になるかもしれません」「ハリルさんもこうして撃たれたんですかね」「……」「ああいった連中はトルコ人なら誰でも憎い。失業も不景気も犯罪もみな、我々のせいだと思っています。もちろん、西ドイツは他の国より差別は少ないし、たいていはいい人だ。でも少数の心の中は、いまだにこの黒い森のようだ。底知れぬ暗黒が漂っている。40年前、ユダヤ人に向けた憎悪と同じ種類の」「……」

極右の連中もキャンプを張る。「まったく頭にくるぜ。トルコ人、トルコ人。どっちを向いても、やつらであふれてやがる」「失業中のドイツ人が200万人。トルコ人の労働者が同数の200万人ときたもんだ」「困ったやつらだよ。やつらが住み着いたおかげで、この国でどれだけ犯罪が増えたことか。特にあのハリルは狡猾な男だった。あくどく儲けた金で貿易会社を作り、さらにトルコ人をこの国に受け入れた。我々の処刑リストのトップにのるのは当然だよ」「バウアーさん。あんた、市警の警部だろ。だったら公務で皆殺しにしてしまえばいい」

太一は中央アフリカの投げナイフや、鹿の腸を弦に利用したビルマの民族武器である弾弓を使って、極右の連中を倒す。40年前に最年少のナチスのSS隊員だったエーベルトは久し振りに殺しがいのあるヤツが現れたと喜ぶ。おっかなくなって逃げ出そうとするチンピラのマックスをナイフで刺し殺すエーベルト。「任務を遂行せずして、逃亡する者は死だ」バウアーはトルコ人だけを捕まえて戻ってくる。

「もういい。やつを追うのはやめよう。このトルコ人から聞いたんだが、あの探偵はとんでもないやつだ」「なんだ。アイツは何者なんだ。答えろ」ナイフでマックスの頬を傷つけるエーベルト。「あ。元SAS、英国特殊空挺部隊の曹長だとか」「やはり軍人か」「ほうっておこう」「いや、だめだ」大声で叫ぶエーベルト。「お前の相棒はつかまえたぞ。もう鬼ごっこは終わりだ。5秒待ってやる。さもなくば、こいつを殺す」

それに答えるように弓の弦をブーンブーンと鳴らす太一。近づくエーベルトの前に鉄砲水が。ためいきをつく太一とトルコ人。「注意せよ。鉄砲水。弦で奏でたモールス信号が、そのまま共鳴武器になっていたんですね」「ええ。でも、こんな凄い威力だと思わなかった」

現在、西ドイツには200万人のトルコ人が定住し、劣悪な条件下のもとで労働している彼らはこの国の失業増加の主要因にされるなど、多くの偏見に苦しめられている。特にネオナチなどの過激な右翼団体は、彼らを標的にしているとまで言われる。20年前、アメリカで克服した人種差別問題は、今や形を変え、西ドイツをはじめ、日本など世界各国が乗り越えるべき共通の社会問題になっている。