手塚治虫「ブラック・ジャック(169)」 | ロロモ文庫

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二人目がいた

姥本琢三の家を訪ねるブラックジャック。応対に出る娘。「父はいますが、病気で臥せっております」「何だって」寝ている姥本を複雑な表情で見つめるブラックジャック。「この人が、姥本さんなのですか」「あのお、どちら様でしょうか」「私が誰だろうと関係ない。悪液質だ。どこのガンです」「はい。肺とか食道とか。あちこちに」「手術はしたんですか」「ええ。でもお医者様に見離されましたの」「ふん」

「あのお。あなたもお医者様なのですか」「そうです。でも関係ないことです」(なってこった。やっとめぐりあえた本人がこのザマか)落胆したブラックジャックは出ようとする。「あなたは父とはどういう関係なんですか」「あなたには無関係です。お大事に」「待ってください。あなたはお医者様なのでしょう。レントゲン写真くらい見てくださいな」「すさまじい転移だ。これじゃいくら手術をしても無理だ。私がやれば別だが。やる気がない」

「父をお探しになった理由をお話になって」「あなたには無関係です」「先生。先生は本当に父を治せるんですか。さっき『私がやれば別だ』と言いましたが」「失敬なことを言うな。私には治せる。だが私には治すいわれがないんだ」「なぜ?父に恨みでもあるの」立ち去るブラックジャックであったが、悩みに悩んで姥本の家に電話をする。「心からお父さんを治したいのかい」「ええ」

「私の家にお父さんを連れてくれば、ただの外来として扱って手術をしてあげよう。ただし、手術代は高い。とてもお前さんには払えないだろう。他のもので埋め合わせてもらおう」「他のものって」「お前さんの体だ。お前さんの体を私の思いのままにさせるなら、手術をしてやろう」怒り狂って電話を切る娘だが、しばらくして父を連れてブラックジャックのところに行く。「父を連れてきました。手術をお願いします。先生のおっしゃった条件はお受けします」

「よしわかった。手術をしよう。お前さん。服を脱ぎな」「えっ」「お前さんの体を私にくれるんだろう」「はい」「お父さんの隣に寝るんだ。さっさと。お前さんの腎臓のかたっぽやそのほか移殖に必要なものをもらう。よそから手に入れると高くつくからな。手術代を安くするのは、お前さんの体を使うしかないんだ」安心する娘。ブラックジャックは完璧な手術をする。

それから一年たって、娘は再びブラックジャックのところにやってくる。「おとうさんの具合はどうだい」「本当に長らくお世話になりました。手術代を支払いに来ました」「ん。そんなものはいつだっていいんだ。こんな大金をどうやって」「うちの地所を売ったんです」「なぜ。お父さんが寝てるだろう」「父は死にました」「なに」「ガンとは関係ありませんわ。ちょっと私が留守の間に心臓発作を起こしたんです」ぶるぶる怒りに震えるブラックジャック。「父は安らかな死に顔でした。私は先生に本当に感謝しています」「私の今の気持ちがわかってたまるか」

呪われた過去を話し始めるブラックジャック。「20年前、ある場所で爆発事故があった。不発弾処理が杜撰で爆発したんだ。その処理の責任者は5人。その中に姥本琢三の名前があった。そしてその爆発事故で一人の女性が死んだ。その女性の息子は母親を死においやった5人の男たちを捜し出して謝罪させると誓った」「……」

「息子は長い間5人の男を探し回った。やっと一人を見つけ出し、ある小島で恐ろしい目にあわせた。そして二人目が姥本だったのだ。そしてやっと姥本を探し当てた時、姥本は死人同然だった」「なぜ、そんな父を助けてくださいましたの」「個人的なことと仕事は別だ。姥本琢三を治して元気な体にして、ゆっくり復讐するつもりだったんだ」「いいえ。先生はそんなおつもりじゃなかった。決してそんなことはなさらないわ。先生。あたしに出来ることがあれば何でもいたします」「もう、お前さんとは会いたくない。これきり赤の他人だ。さようなら」「先生。残りの三人にも復讐を?」「出て行きたまえ」