手塚治虫「ブラック・ジャック(126)」 | ロロモ文庫

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昭和新山

「あれが昭和新山かね。まるで大地の吹き出物といった感じだな」「そうです。吹き出物です。それもできたてのホヤホヤです。この火山ができたのは昭和20年ですからね。まあ世界で一番若い火山のひとつでしょう」「例の男はどこにいる」「そら。あそこです。急なスロープのところ」「どうしてあんなところに登るのかね」「本人に聞いてみないとわかりませんな。高いところへ登っていくうちにあんなところに行ったんでしょう。乱気流が激しいです。先生。気をつけて」

医者は昭和新山に降りる。「アツツ。ここらの地面は燃え盛った石炭みたいだ」「先生。助けてくれ」「しっかりしろ。大丈夫か」山のふもとでは噂が飛び交っていた。「ヘリコプターから医者が降りたんだと」「助かるかな」「だけど、あの客、馬鹿なことをやったもんだ」「なんでも変った石を探していたとか」「まったく若い観光客ってのは山の石をどんどん持っていくからね。記念とか言って」医者は転落する。

そのころブラックジャックは老人の診察をする。「まあ手術することもないでしょう」「昭和新山でもゆっくり見物なされ」「ああいうのには興味がなくて」「でもな、わしらにとっちゃ一生の思い出じゃ。わしが丁度先生ぐらいの年じゃったよ。忘れもせん。6月の終わりじゃ。真っ黒な煙が噴出して空にたちこめた。それから灰の雨じゃ。畑もなにも真っ白。そしてあの山は生まれたんじゃ」「……」

「今思えば嘘みたいな話じゃ。今では観光客が押しかけよる。あの山は珍しいお菓子みたいなもんじゃ。珍しい珍しい言うとるとアリがワンサカ集まってきよる」「そういえばアリみたいに見えますね」「そしてどんどんお山を荒らしてきよる」ブラックジャックは山に遭難している男がいることを聞く。「ひとつ車代でも稼ぐか」ブラックジャックは転落した医者に聞く。「先生。手がはさまっているそうですが」「ああ。小さな穴につっこんだまま、どうしても抜けないんだ」

ブラックジャックはヘリコプターで現場に向う。「奇妙なのどかさだ。こんなに蒸気やガスが噴出している活火山の頂上にイワツバメがあんなに群がっている」イオウの臭気にむせるブラックジャック。「ガスマスクを用意すりゃよかった」ブラックジャックは手がはさまっている男に毒づく。「人騒がせめ。お前さんのおかげで、医者が一人大怪我をし、物凄い救出費用がかかっているんだぞ」

ブラックジャックは男の手を穴から抜くことができない。「お前は助かりたいか。死にたいか」「助けて」「だったら腕一本なくすぞ」「かまわねえ」「ここに署名するんだ。腕切断料300万円。大サービスだ」ブラックジャックは男の腕を切断する。すると切断した腕は穴から抜ける。そこから石が。「アハ。石が出た」「馬鹿野郎。石を穴ん中で握っていたから抜けなかったのか」

怒り狂うブラックジャック。「間抜けな猿をつかまえる話を知っているか。ひょうたんに米を入れて穴をあけておくと、猿がそこから手をつっこんで米を握るんで、抜けなくなるんだ。てめえは猿以下だ」「なんで手を切った。なんでもない手を。抜けたのに」「手の一本ぐらいなくしたほうがいいんだ。それともあと300万円出すかね。またつけなおしてやるぜ」