手塚治虫「ブラック・ジャック(64)」 | ロロモ文庫

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ハローCQ

アマチュア無線に興じる車椅子の少年ジュン。「トム。元気かい」「しばらく、ジュン。そっちの様子は。こっちは冬になったところだ」「日本では夏だぜ」「今何をしてるんだい」「いつもの通り野球さ。また2本ホームランを打ったぜ。君にみせてやりたかった」「ここぁらは山しか見えない。山には雪がどんどん増えていくよ」「約束の僕の顔写真送ったからね」「有難う。そのうち僕のも送るよ」

ジュンの母親はジュンをとがめる。「どうして野球やってるなんて言うの」「どうせ、わからないじゃないか」「ダメよ。嘘ばかり言って」「わかりっこないさ。相手はニュージーランドなんだ。せめて空想中は足の悪いことを忘れたいよ」相談するジュンの両親。「ジュンの足はどうにかして治せないのかしら」「筋ジストロフィーという病気は気長にマッサージとか温泉でしか治すほかないそうだ。ただ一人ブラックジャックという医者にかかれば治るかもしれないが、大金がかかるんだとさ」

ジュンはまた嘘の無線をする。「トム。今日もかっとばしたよ。三塁打だ。気持ちよかったよ。僕の足は学年一の速さなんだ」「僕はもしかしたら日本に行けるかもしれないんだ」「ええっ」「クリスマスが終わったら、日本見学に行く予定があるんだ。そしたら君に会えるね。一番に会いにいくよ」「ほ、ほんとかい」

困ったジュンは母親に相談する。「僕が今まで嘘をついていたことがバレちゃうよ」「今からでも本当のことを打ち明けなさいよ」「いやだ。死んでもいやだ。僕がこんな体ってことをトムに知られたくないんだ」

ブラックジャックがジュンの診察にやってくる。「いつごろからです」「小さい時からです」「こいつは厄介な難病です。私はこの種の麻痺に自律神経切断という方法を試して治したことがあります。ただ4000万円かかりますが」4000万円と聞いて溜息をつくジュンの母親。

トムと喧嘩をすれば会わなくてすむ、と考えるジュン。「ハロー。ジュンかい。こっちは大雪だぜ。見渡す限りの銀世界だ。僕は三日後にそっちに出発だ。いよいよ君に会えるね」「トム。君との付き合いはこれっきりにしたいんだ」「なんだって」「君と絶交したいんだ。二度とつきあいたくないんだ」「どうして。訳を言ってくれ」「訳は言えない」

無線を切るジュン。ブラックジャックが病院に来いと電話してくる。「その足を手術してみるって」「うちにお金はないだろ」「百円にまけるからって」「おそろしいインチキ医者だな」「どうでもいいから、すぐ来なさいって」

語りかけるブラックジャック。「ある金持ちの社長に話したらそんな難病を治す方法が試されるんだったら、その費用をいっさい持ちたいと申し出たんだ。その社長がどんな人か教えてあげよう。その社長はまだ若いが父親の会社を受け継いだ。その社長は小さい時目に怪我をして目が見えなくなってしまった。神経をやられてね。人一倍苦労して育ったわけだ。私の名前を聞いてここへ目を治しにここに来たんだ」「……」

「私は君の話をしてみた。足が悪いのを隠すために友情まで失ったこともね」「なぜ、あなたがそんなことを知っているんですか」「そしたらその社長はひどく心を打たれてね。君のその失った友情のかけがえに手術の費用を持とうと言ったのだ」「どうして?なぜその人、そんなことを」そこへ社長がやってくる。「ニュージーランド羊毛会社のトーマス・モリソン社長だよ」

「ジュン君。僕がどんなに悲しんだか、わかるかい。僕だよ。トムだ。夕べ日本についたのだ」「トム」「この通り、目が見えるなんて嘘をついてきたんだ。先生に目を治してもらってから君に会いにいこうと思っていたんだ。許してくれ。僕はずーっとひとりぼっちだったんだ。ことに社長になってから。僕は寂しさをまぎらすためにハムの資格をとった。そして初めて友達を見つけた。それが君だったんだ」「ごめんよ。トム」

「さてと。どっちが先に手術室にはいるかね」