作:工藤かずや 画:浦沢直樹「パイナップルARMY(18)」 | ロロモ文庫

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1979年の栄光

よく来たなと豪士に言うフェルドマン。「久しぶりだな。私のような落ち目の人間での依頼では来てくれんかと思っていた。なにせ今のお前は世界でも三本の指にはいる戦闘インストラクターだそうだからな」「……」「隊員50名、訓練期間は2週間。君の腕を持ってすれば、造作もないことだろう。今度の作戦ではどうしても爆発物を使用しなくてはならん。手榴弾、あらゆる種類の地雷、時限爆弾、最新のグレネードランチャー。どうだ、豪士。承知してくれるかな」「わかりました。外ならぬあなたの頼みだ」

爆発物についてレクチャーする豪士は質問を受ける。「なぜ教官は作戦に参加なさらないのですか。かつてはフェルドマン大佐の指揮下で、危険な戦闘に参加していたそうですが」「……」「インストラクターだと、万に一つも命を落とす心配がないからですか?それとも、フェルドマン大佐は落ち目と言う評判だから、今さらついていく気はないってことですか?」「……」

「傭兵として世界一とまで言われた大佐も、1979年のリビアでの作戦失敗以来、すっかり評判が落ちてしまった。そのうえ、最近では汚名挽回のために無理な作戦を引き受けては、自分で墓穴を掘っていると噂されてます。それもこれもあの7年前の失敗以来だと聞きました」「……」

1979年、北ウェールズ・グレンオグウェン。『回り込め』『右側から援護射撃』(三日後のリビア侵攻作戦も控え、我々の訓練は完璧に行われていた)『豪士少尉、この丘いただき』『OK。キースよくやった。実戦もこの調子で行こうぜ』(キース。お前は腕のいい傭兵で、五年来の俺の片腕だった。お前の明るさに俺たちの部隊はどれだけ救われただろう)

マルタ島バレッタ港。(イギリス空軍の輸送機でマルタへ運ばれた我々は、チャーターした漁船でバレッタ港からリビアのナブールへ潜入を計画していた)

『ナブールから目的地のアルマグランまで14キロ。3時間あれば到着できる。豪士少尉、君にだけは今回の作戦の詳細を話しておこう。オマー・ジンガリを知ってるか』『ええ、かつてガタフィの政敵と恐れられ、現在行方不明と伝えられる元リビア空軍の将校ですね』『彼はアルマグランの軍刑務所にいる。今回の我々の任務は、ジンガリを救出し、エジプトへ逃がすことだ。依頼主はイギリスのMI6』『これだけの兵力で、警戒厳重なあの軍刑務所を襲うんですか』『これだけだからできるんだ。大兵力だとこっちの動きを知られた時点でジンガリは消される。ロンメルの機動部隊と同じだ。どこまで迅速に動ける。それで勝負が決まる』

(しかし我々はアルマグラン北西5キロの地点で攻撃を受け、キースは重傷を負った)『彼はもう助からん。俺が楽にしてやる』『大佐。やめてください。キースはどんなことがあっても、イギリスへ連れて帰る』『この重傷では連れて帰れん。リビア軍は捕虜を取らん。嬲り殺しにするだけだ』『し、しかし』

呻くキース。『ご、豪士少尉。殺ってください。ひと思いに殺ってください。俺をここに独りぼっちで置いていくなんてこと、なしにしてくださいよ』呟く豪士。『キースは俺の部下だ。そして親友だ』キースを射殺する豪士。

(なぜ我々のリビア潜入をカダフィが知っていたのか。この疑問はマルタのイギリス軍基地に帰ってわかった。オマー・ジンガリはカダフィにとって、絶対に野に放してはならない危険人物なのだ。ジンガリを今もって軍刑務所で生かしておいたのは、空軍内部の高級将校として、彼のかつての部下たちが依然、根強い力を持っているからだ)

(ジンガリをエジプトにもし連れ出されたら、リビア国内のこの反カダフィ勢力に革命の機会を与えてしまう。そしてカダフィ体制を支援する国は、意外にもフランスとイタリアなのだ。この二国はリビアに大量の武器を輸出している。しかも今回のMI6の作戦を知る立場にあった政府は、アメリカを除いてはこの二国に他ならなかった。つまり、カダフィはフランスとイタリアのリークした情報で、我々を待ち伏せていたのだ)

(それを察知したMI6はすぐさまフェルドマンに連絡を取ろうとした。だがすでにリビアに上陸していた我々にそれを知らせる方法はなかったと言う。いや、連絡を取ろうと思えば取れた。ただ、そのためだけに、リビアの潜入工作員を危険にさらしたくなかったのだ。キースと30数人にのぼるフェルドマンの部下たちは、イギリス、フランス、イタリア。大国のエゴにより犬死にしたのだ)

(状況が変われば傭兵の命など虫けらほどにした考えない大国のエゴに俺を憎悪した。1979年、リビアにおけるジンガリ救出作戦が、俺にとって傭兵としての最後の戦闘になった)

「豪士、おかげで今度の作戦はうまくいきそうだよ」「フェルドマン大佐。これほど大規模な訓練をしなくてはならない戦場としては、もしかして」「そう、リビアだよ」「……」「君にとって、あそこに絶対に忘れることのできない場所だろう。実は私にとってもそうなのだ。この七年間、南アフリカでもニカラグアでもベイルートでも、俺はこの依頼が来ることばかりを待ち望んで戦ってきた。そしてついに来たのだ」「……」「豪士少尉。今度は一緒に戦えなくて残念だよ」「フェルドマン大佐」

(俺はあえてフェルドマン大佐に作戦を聞かなかった。傭兵であるフェルドマンにそれを話す権利はないし、傭兵でない俺にそれを聞く資格もない。俺は独力でフェルドマンの任務を知ろうと動き回った。しかし思った通り、それは無駄だった。少なくとも一国の政府が出した任務を、個人が突き止めることなど不可能なのだ。傭兵時代の経験で、俺はいやと言うほどそれを知っていた)

(ところが情報は意外なところから入って来た。フェルドマンたちをマルタへ運んだ輸送機の副操縦士を裏町のパブで見つけたのだ)「俺はフォークランドへも行ったが、あんなすげえヤツらは見たことがない。たったの50人でリビアへカダフィを殺りに行くってんだからな」

(やはりそうだったのだ。フェルドマンは彼の生涯で唯一犯した1979年の失敗を栄光に変えるべく、再度リビアへ潜入したのだ。以来、フェルドマンの消息は俺の耳へ入ってこなかった。多分、永久に入ってくることはないだろう。傭兵の最期はいつもそうしたものなのだ)