福本伸行「賭博破戒録カイジ・地下チンチロ編(5)」 | ロロモ文庫

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脆弱

カイジと大槻のチンチロ勝負から25日が過ぎる。カイジは敗戦により、この地下でも泥沼の救いのない借金生活に突入する。給料のたびにこの前借りを繰り返していけば、ずっと4万5000ペリカ。永遠に班長から給料を半分搾取される。もちろん2ヶ月我慢すれば、通常の給料はもらえる。「はい。冷えてるよ。ビール。5000ペリカ」しかし、今のカイジにそんな気力は残っていなかった。

ビールをぐいぐい飲むカイジ。(いいんだ。別に。ガッカリするようなことじゃない。もともと無理だったんだ。50万貯めるなんて。それに、仮に50万貯めたとしても、あの外出券には但し書きがある。組織側が適正と判断した場合に限る、と。多分、これが俺には無理。入って一年たっていない俺を組織側があっさり出すとは思えない)

黙々と働くカイジ。(そうだ。結局俺はここで働くしかないんだ。ここで15年。くそ)カイジと一緒に働いていた前田と中年男が倒れる。カイジは前田を病棟に連れて行くよう命令される。(病棟?)その病棟と称する一画は咳き込んでいる男たちが無数に横たわっていた。「今のが病棟ですか。なんか、まともな治療受けてないような」「薬は高いしな。金がなきゃ、薬はもらえない」「持ってるわけないでしょう。体を壊したら金なんて」

「だから、7、8割戻らない」「え」「一度体を壊したら、おしまいなんだよ、俺たちは。空気が悪いだろ。みんな粉塵でやられてしまうんだ。カイジ君も気をつけな」カイジはコンと嫌なセキをする。(確かに俺の肺から沸きあがった最初の咳音。それほど遠くない未来を暗示している、死神からのサイン)

 

楽天

このままでは死んでしまう、と考えを改めるカイジ。(ここで、生き延びるには吸わないことだ。空気を吸わないこと。なるべくハアハアいわず、同じペースで歩いて、同じペースで働いて、マスクは二重。すぐにうがい。そして、あとは耐える。欲望を断ち切る。貯めるんだ。8ヶ月で50万ペリカ。外出券に手が届く。外に行ける)しかし、そんなカイジの決意もビールヘの欲求で、どんどん怪しくなっていく。

(もう。なんでもいいから、ダイブしたい。欲望の海に)悩むカイジの背中を三好がたたく。「がんばりましょう」「え」「あらゆる欲望を振り払い、ここまでたどり着いたじゃないですか。ここで使っちゃダメだ。あと数時間でしょう。決戦まで」「は」「いいんですよ。隠さなくても。俺もカイジさんと同じ気持だから。わかるんです。カイジさんの今の気持が。カイジさんの悲願はズバリ一日外出券」「そりゃあ、そうだけど」

「でしょう。それを今夜のチンチロでゲットしようというんでしょう。わかります。その種銭確保のため、ここ一週間飲みたいものも飲まず、食べたいものを食べず」「……」この三好という男は、賭場が開かれるごとに参加し続け、気がつけば翌々月まで給料を前借りしてしまった大馬鹿者であった。弱虫のクセに博打好きでお調子者。100%人生を失敗するタイプ。はっきりいって、人格破綻者であった。

「頑張りましょう。カイジさん」「三好。俺は博打なんかしない。貯めるんだ。地道に50万」「ええ。何言ってるんですか、カイジさん。そんなありえないこと」「あ」「貯めるには8ヶ月ですよ。カイジさんは一週間でジタジタしていたじゃないですか」「う」「カイジさんは無理です。なぜなら意志が弱いから」「ぐ」「俺たちが外出券を手にするには、博打にしかないんです。でしょう」(こいつ、弱虫の人格破綻者のくせに、妙に説得力がありやがる)

「カイジさん。見てくださいよ。給料が4万5000ペリカに落ちた同じ45組のよしみで、いいこと教えてあげます。いや、ここまで、はっきりした傾向があるとは」「ちょっと待て。そのいいことって、お前のメモ。出目の話か」「そうですけど」「いらない。その話は聞き飽きた」この三好はグータラな男なのだが、変なところが凝り性で、自分が参加したチンチロの総ての出目、誰が何投目に何を出したか、というところまで克明にメモをしていた。そのメモを参考に勝負しているらしいが、その甲斐なくいつも大敗していた。

見るともなしにそのメモを見るカイジ。「このハというのは」「ハは班長の略です。いやあ、班長の目は強くて」「待て。ちょっと貸せ」

 

逆上

三好のメモを食い入るように見るカイジ。(偶然か。やつがいい目を出すときは、大抵一投目。そして、連中が隣同士で連なっているとき。そうだ。俺の時も、連中は石和・班長・沼川の三人が並んでいた。そして一投目だった。あのシゴロも5ゾロも。待てよ。ひょっとすると)考え込むカイジ。(サイコロってのは、こう立方体だから。ああ、まさか。そんな。でも、この偶然は。そう考えるしか)

立ち上がるカイジ。「汚ねえ。許せない」カイジは大槻と石和と沼川の三人が笑いながら話しているのを見かける。(許せない。許してたまるか。しかし、殴ってどうなる。発散してどうするんだ。俺たちが負け組みであることは変わらないんだ。仮に班長の仕掛けが俺の読み通りだとしても、俺はまだしっかりした証拠をつかんでいない。もし証拠をつかんだとしても、おそらくヤツは今初めてやったとか、なんとか言い出して相当ペコペコするだろうが、結局はその時の勝負を負けたものとして、せいぜい倍払い?)

ダメだ、と決意するカイジ。(そんなことで許されるか。許しちゃいけない。そんな世間ずれした、ぬらりとした手口を。なんとしても与えたい。もっと致命的。壊滅的な打撃を。でも、どうしたらいい)カイジは地下チンチロの特殊なルールを思い出す。親の総取りなし。親はスルーできる。親の継続は最長2回まで。(あ)

 

焦眉

これなら班長を倒せる、と確信するカイジ。(しかし、一人でやったらイマイチ。数だ。多勢が効果的)その夜、大槻を中心にチンチロ賭場が開かれ、三好ら45組は大敗し打ちひしがれる。そんな45組の5人に声をかけるカイジ。「なに」「いや、改めて言うのもなんだが、お前らって本当に負け組みだよな。よくも寄れたもんだぜ。ここまで人生の端っこに」「はあ?」

「たまには鏡を見ろ。揃いも揃ってダメ人間。生涯浮かび上がれねえ。一生こきつかわれて終わりって顔」「おい。何を言い出すんだ、おめえ」「俺もそうだ。俺も利用されて終わるクチ。気がつきゃ人生の端っこ。世間の片隅が指定席。学校でも社会でも落ち続けていく落下人生。結果、こんな地の底まで落ちて、ここでも負け組みか。帝愛グループの暴利搾取はもとより、本来仲間であるはずの班長からも、ふと気がつけば給料の半分もピンハネされてやがんの。間抜けもいいところだぜ」「しょうがねえだろ。んなことグチグチ言ったって」

「いいのか。負け組みのままで」頭をおさえる三好。「あー。聞きたくない。僕は負け組みじゃない」「行こうぜ、もう」「待て」立ち上がるカイジ。「俺が勝ちへの道を示す」「道?」「倒すんだ。班長を。そして得る。大金を。勝つんだ。俺たちが」