お刺身の正体
小柄なヒゲの老人は、豪華料亭に将太を連れて行く。そこには叶崎も招かれていた。「うわあ、すごい。なんと豪華な舟盛りなんだ」新鮮な刺身が皿一杯に山盛り状態となっている中で、将太は奇妙な刺身を見つける。「これは、いったい何の魚だ。赤身だけどマグロでもカツオでもない。噛みしめると凄い弾力で、不思議な風味が漂ってくる」そこで老人は言う。「第二課題はこの刺身の材料。これを使って最上のお寿司を作ってもらいたい」
将太はこの魚の正体がわからないと悩む。「手がかりはあの赤い刺身の色と、驚くほどの弾力だ。だけど僕は今まであんな魚を一度も見たことも食べたこともない」しかし、将太は水族館のショーでそれがなんであるかを発見する。「答えはクジラだったんだ。クジラは僕らと同じ哺乳類だから、当然その肉は赤い色。しかも活発な運動をしているから、その肉は弾力に富んでいるはずだ。ここ南紀は日本の捕鯨の発祥の地といわれていて、昔から広く食べられている食材なんだよ」しかし心配するシンコ。「だけど、そんな触ったこともない食材を使って、どうしようと言うんだよ、将太君」
クジラ捕り名人
将太とシンコは南紀沿岸捕鯨の中心地である太地町に行き、宮崎というクジラ捕り名人の家に行く。しかし、その家にいたのは大柄な女性だった。女の人がクジラを捕るなんて、と驚くシンコ。「凄いモリでクジラを殺すんでしょう。あんな可愛いクジラを殺したりして、かわいそうと思ったりしないんですか」
表情を変える勝子。「あなたみたいなことを言う人を、私は昔からたくさん知ってるわ。だけど私たちは先祖からずっと捕鯨を続けてきたのよ。それを何も知らない他所の人にとやかく言われる筋合いは何もない。そのために父はどれだけ苦しんだことか」
勝子の父の鉄三は太地町でナンバーワンのクジラ捕りであった。「戦後、日本の貧しい食糧事情を支えるために父の獲ってきたクジラの肉が大きく役立ったはずよ。今三十歳から四十歳くらいの人は、みんな学校給食でクジラの肉を食べたことがあるはずだわ」しかし世界的な反捕鯨運動の波が太地町にも押し寄せてくる。ペンキをかけられる鉄三。「あんたのおかげで、日本は世界の嫌われ者になるんだ。あんたは日本の恥だ」
ショックを受けた鉄三はクジラを捕ることをやめる。「わしの獲ったクジラは小学校の学校給食に使われて、日本全国の子供たちのおなかを満たしたんや。わしの仕事は立派にお国の役にたったんや。そやが、もうクジラはいらんらしいなあ。わしは日本にいらん人間らしいわ」それから鉄三は毎日を死んだように過ごし、本当に死んでしまう。勝子はクジラ捕りになる決意を固める。「クジラを捕ることがいいことか悪いことか私にはわからない。でも私は父の遺志を継いで、クジラを捕るわ」
反省するシンコを許す勝子は、将太に話しかける。「あなた、クジラの料理法を聞いたわね。思い出したわ、父が生前言っていた最高に美味しいクジラ肉のことを。確か黒いクジラ肉だとか」「黒いクジラ肉ですか」