それは、卒業式後のこと――
散々泣いた奏は、スッキリした顔をしていました……
奏(一生分、泣いちゃったかも。はぁ~っ。あれ?)
校門横のカエデの木の下で、
何やら作業をしている人が居ました。
近づいてみたところ、言葉を失いました。
奏「えっ…? 何で……。」
そこに居たのは、ヒゲを蓄え、頭にタオルを巻き、
裾が大きく開いたズボンを穿いている男性でした。
その人は、タバコを吸っていました。
奏は“大っ嫌い!!”だったため、
近づきたくはなかったのですが、
手元を見た瞬間、目を疑いました。
子猫が、フェンスと地面の間に挟まっていたんです!
奏は、手首にぶら下がっているチェーンを見て、
言葉を失いました。『A』の文字があり、
“柚子を傷つけた人”、だったからです。
“助けを呼ぼう!”か迷いましたが、
子猫が気になったので、留まることにしました。
タオルヒゲ「あっ! すいやせん!
掘るもん、無いスッか? もう限界で……」
その人は、素手で掘っていたため、
“爪がボロボロ”になっていました。
奏は辺りを見渡し、近くにあったスコップを渡しました。
奏「(あっ! こんなとこに、あった!!)はい…。」
タオルヒゲ「あざっす!!」
その人は、黙々と掘り続けました。そして…
にゃぁ…。にゃぁ…。にゃぁ……。
タオルヒゲ「なんとか、助けたっす!! でも……。
衰弱してるっす!! ミルクは無いっすか??」
そこに偶然、柚子と律が通りかかりました。
その人は、“律を見るなり”怯えていましたが、
柚子がミルクを持っていたため、安堵していました。
律「明兎(あきと)さん、何してんですか?
あーっ! 助けてくれたんですね!!
ありがとうございますーぅ!
“衰弱してるから、ミルクをあげてから”と、
思ってたんですけど……。結果オーライですね。
あっ!! 柚子! あげないと!!」
柚子は、子猫にミルクをあげていました。
それはまるで、“母親のよう”でした。
飲み切ると、子猫は元気に去って行きました。
律は、“あの日の出来事を含め”、奏に説明しました。
律「明兎さん。風貌が悪いから、誤解されんだよな。
泣いてるとき言いたかったんだけど、ツラすぎて…。」
奏「ごめんね。フッちゃって……。」
律「そっちじゃない!」
奏「えっ…?」
律「ツラかったのは、ツラかったけど…。
あっ! これ…」
奏「うん?? えっ……。」
ケータイに映し出されていたのは、
“おでこに雷マークがあるネコ”でした。
奏は、言葉を失いました。
“家に遊びに来ていたネコ”だったからです。
律は、事実を言いました。
律「この写真の後な…。車に轢かれかけたんだ…。
で、明兎さんが助けたんだけど…。
衰弱してて……天国に行っちゃったんだ…。
で、途方に暮れてたら、似たネコを見つけたんだ。
で、救おうとはしてたんだけど……。」
奏は、柔らかな顔で言いました。
奏「このネコ、私が面倒見てもいい?」
律は、頬を赤らめながら言いました。
律「うん…。と…“俺も”お願い…。
柚子は、付き添いで来てくれただけ……。」
奏は、全てを飲みこみました。
そして、微笑みながら言いました。
奏「“胸に残ってた”から、面倒見てあげる!
捨てたら、知らないよ?」
律は、何度も頷きながら俯きました。
律「それは……ごもっともで……。」
奏は、律とやり直すことに決めました。
そして柚子に、こう告げました。
奏「あっ! ゆっちゃん。つーくんは、どう?
(情事中に)ブツブツ言ってたから…。」
柚子も、まんざらではないようでした。
……
数日後。旋と柚子は、“付き合う”ことになりました。
奏は、律を尻に敷きながら、
青春を謳歌しました。そして…
――
二十歳になりました……