あたしのせいじゃない!
絶対にあたしのせいじゃない!
確かにあたしははたからみたら不良みたいな言動してるし、だらしない格好だし、髪の毛も茶髪だよ。
だけど、カツアゲなんかしないよ!するように見えんの?確かに見えるけどさ!!
最近に喧嘩したのだって、妹虐められたからそいつらぶんなぐっただけだし、まさか担任にチクられるとは思わなかったよ。
あーあ……ついてねえ
あたしは職員室でのくだらない説教も、見た目で判断する大人たちも、受験も、だいきらいなわけ。
仲間たちも最近は下らないことばっかやってるし、なんかつまらないから嫌い。
ついでにこの灰色な空も大嫌い。
あー。
気分がしずんじまうよなあ。
去年の暮れから親とは仲悪い。まともに話聞いてくれる家族は妹位だ。
妹が悲しい顔するから、そろそろまともになろうかなとも思ってるし、両親とも仲直りしようと思ってる。きっかけがないだけなんだ。
なぁんか楽しいことないかなあ。
そうだ、今日はチャンピオンの発売日だった。
駅前の書店にいこう。
飛び乗るのは、あたしの愛車。
ホンダ DIO。自分で塗装したピンクの車体にピースのミラー。ぶっといマフラー。
もちろん無免許。
ついでに窃盗車。
入り口に懐かしい顔。わぉ!へーぞーじゃんか。久しぶりだな。
小学生の時仲良くしてたけど、中学入っておかしな連中と付き合いだしたんだっけ。
今は高校で、なんかギターかなんか弾いてるんじゃなかったっけ。
原チャを止めて話しかける。
「おーい、へーぞー久しぶりだな」
「……松本か」
「最近へんなのとつるんでるらしいな」
「お互い様だろ」
「まあな、何買ったんだ?」
「これだ」
「男の豆腐料理……しぶいな」
やっぱりこいつ変なやつだ。
「お、雑誌か、ひ……で……?」
「hideだ。この人の命日が近いから、特集の雑誌が毎年この時期に出るんだ」
「なんか、あれだな……」
かっこいい!
このイケメンはなんだ!?
かっこいい
かっこいい!
かっけーじゃねーか!
このピンクの髪といい、持ってる黄色いギターといい、サイコーじゃねーか。
「さいっこーだなっ」
「だろ。こいつは若くして亡くなった、天才ギタリストだよ」
かあっこいーなあ。
ふと、こうなりたいななんて、思ったりして。
「あたしもこうなりたいなあ……でも、もともとエリートだったんだろ?」
「学歴はよかったが、不良の溜まり場に出入りして、ライヴや打ち上げで暴れるのは当たり前。居酒屋から出禁を食らうほどの酒乱だったんだ。だが、天才なことにはかわりない」
ヤンキーでも……
天才ギタリストに……
「あ、あたしにも、やれるかな?」
「ロッカーやパンクスやメタラーは基本アウトローだ」
こ、これだ!!
決めたぞっ
あたしは、これで生まれ変わるっ
「お、おいへーぞー!この人のCDってどれだ!?」
「あ、ああ……これだ」
「あとさ、ギター教えてくれよ!」
「む?」
「あたし、バンドやりたい!一緒にやろう!」
あたしはその日、貯金をはたいて、ギターを買った。あの人の持ってた同じ形のギター、モッキンバード。
髪をピンクに染めた。
あたしは、ギタリストになる……!
そして、この人みたいにかっこいいって思われて、バンドやりたいってやつが現れたらいいな!
「そんなことがあったんですねぇ」
「まあな、つまらない話しちゃったな」
「いやいや、楽しかったです」
ここ最近、日課になっているテルくんとの自主練習の最中、ギターを始めたきっかけを聞かれて、つい話し込んでしまった。
こいつは最近のお気に入りだ。
一緒にいて楽しくさせてくれるやつだ。
「まこっさんのゆめ、もうかなってますよ」
「ん?」
「僕、まこっさんに憧れて、バンド始めたんですもん」
……。
こいつは、ほんとに。
「んもう、かわいーなあーテルくんは!こいつめこいつめーっ」
「わわっ抱きつかないでくださいよう」
こいつは、ほんとに楽しくさせてくれるやつだ。
あたしも、あの人に一歩近づいたかな……
おわり