オープニングSEがかかった。クイーンのkiller queenだ。
まず、まこっさんが出ていく。
堂々とした足取りだ。
革パン。えんじの開襟シャツからは、じゃらじゃらしたネックレスがのぞく。羽織った真っ黒いコートは裾がボロボロだ。ピンクの髪には、ティアラが乗っかっている。
まさに、キラークイーンだ。女王の名がふさわしい。
その後ろをへーぞーさんが続く。
軍服風のコスプレみたいな衣装だ。銀の飾りモールがギラギラして、派手な印象だ。
コードにつまずいては転びそうになる。
その次はかおちゃん。
かおちゃんは、ジーパンに黒いタンクトップだけだ。パファーマンスに影響無いように、軽装なんだろう。
次は僕だ。
まこっさんに着せられたんだけど、嫌だなあ……
黒のスラックスに白シャツ、黒いネクタイ。黒のジレ。
背が低いから、七五三みたいだ。
彼女いわく、そこがかわいいらしい。
抗議したところ、ビジュアル系の女形にするぞと言われたので、泣く泣く着た。
断腸の思いだ。
キーボードの位置から、まこっさんをにらんでいたら、こっちに気づいて口パクで何か伝えてきた。
(か・わ・い・ちゅ)
「……」
僕がブスッとしてると、観客が騒ぎ出した。
ステージに出てくるジンを指差しては、叫んだり笑ったりしている。
ジンは、なぜか陸上選手が着るようなランパンとタンクトップに駅伝に使うような緑色したアームカバーをしている。
そして、赤いスポーツサングラス。狭いステージ上をめっちゃ競歩している。
異様だ。
しかもステージでタンクトップとパンツをいきなり脱いで、下着一枚になった。そして、何を思ったか、いきなり青タイツを身に付け出した。
あー、あれか、あいつの好きなナントカレンジャーのブルーか?
駅伝ルックで来た意味は?
いつのまにかSEは終わっていた。
メンバーが揃ったのを確認すると、まこっさんがいきなりコートを上に放り投げた。
それを見て、かおちゃんがカウント。
「1234!」
4!のコールと、バサリとコートが落ちるのと、演奏が始まるのがばっちり被る。
ギターのユニゾン、パワフルなドラム。
ハロウィーンのDr.stainだ。
観客のテンションも僕らのテンションもぐんぐん上がって来る。
まこっさんが歌い出した。
そろそろ……
僕は、天井を見上げ、一瞬の後、キーボードを叩き出した。
「こいつ、あたしとかおちゃんが風邪ひいて寝こんでた時、お見舞いに来てくれたんだよね」
ステージでは、まこっさんのMCが進行している。会場の観客のノリもいーみたいだ。
めちゃくちゃ疲れてるけど、楽しい。
リハーサルでは、感じなかった観客との一体感が快感だ。
こんなにキモチーのはピアノのコンクール以来だ。
「俺の完璧看病に感謝してほしいな」
「そーなんだよ、完璧でさあ」
まこっさんとへーぞーさんのかけあいだ。
へーぞーさんのボケが面白くて、それを突っ込むまこっさんも絶妙だ。
ふとみると、ジンは肩で息をしている。
今日の最初のパフォーマンスのせいで、変なベースがいる、と観客に好かれて、そのせいで張り切りすぎてしまったのだ。
ジンとアイコンタクトを取る。
ぐっ
親指を立てて来た。
僕もぐっと返す。
戦隊のコスプレで肩で息をしていて、ぐっ!は、かなりかっこいい。
まじでヒーローみたいだ。
ステージは、すでに掛け合いがクライマックスだ。
「でよ、こいつったらスゲー飯作って来やがってさ。知りたいかー?」
まこっさんが耳に手を当てる。
「「「しりたーい!!」」」
「知りたいかー!?」
「「「しりたーい!!」」」
まこっさんが観客を煽る。
「豆腐ご飯ってしってるか?」
は?
観客も僕らも、は?だった。
「ご飯に豆腐のせて醤油かけてまぜるんだ」
想像した観客が、うげーとか、げろーとか叫んでる。
それにへーぞーさんがぶちきれる。
「なんだとーっ豆腐バカにすんなー!」
最前列の観客が叫んだ。
「アカン飯アカン飯!」
「このやろー!」
「しずまれっ!」
まこっさんが、へーぞーさんの顔面に豆腐をぶちこんだ。
へーぞーさんが豆腐まみれだ。
どっ!
観客はバカウケだ。その様子にへーぞーさんがにやり。
演技だったみたいだ。
よくみたら、叫んだ観客はブンサンだ。
なるほど、サクラか。
「よっしゃあいくぜー!!」
まこっさんが気合いを入れる。
「ワントゥー!!」
いきなりハイテンポなドラム。めちゃくちゃに歪んだギター。
それにあわせて僕は走り出す。
観客を下に見下ろしながら、上半身裸になり、歌い出す。
終わることの無い恋の歌で
すべて消えてなくなれすべて消えてなくなれ
激しく燃える恋の歌で
夜よ明けないでくれ夜よ明けないでくれ
銀杏boyz、駆け抜けて性春だ。
まこっさん。まこっさん。
聞いてくれ、届いてくれ。
一度は、諦めた音楽を、恋を、思い出させてくれたのは、まこっさん。あなたなんだよ。
ここからは、まこっさんが歌うパートがある。
自然にまこっさんと向き合ってしまう。
星降る青い夜さ
どうかどうか声を聞かせて
この街を飛び出そうか
強く強く抱き締めたい
まこっさんがにっこり笑って歌い出す。
いつもの歌と違い、女の子らしいかわいい声だ。
私は幻なの あなたの夢の中にいるの
触れれば消えてしまうの
それでも私を抱き締めてほしいの
強く強く強く
ここからは、僕一人のパートだ。
喉も裂けよと、一心不乱に歌い上げる。
あなたがこの世界に
一緒に生きてくれるのなら
死んでも構わない
あなたの あなたのために
あなたがこの世界に
一緒に生きてくれるのなら
月まで届くよな
翼で飛んで行けるのでしょう
ワアッ!
盛り上がる観客。
肩で息をする僕のそばにへーぞーさんが来てナイショ話で言った。
(かなうといーな)
「な、何がですか!」
「お前と松本、なかなかお似合いだ」
「なっ……!」
顔が真っ赤になってしまった。
へーぞーさんは、ふいっと行ってしまった。
「……」
いよいよラストだ。早いな。まだまだ歌っていたいなあ。
「つぎは、ラストだー!今日はありがとなー。聞いてくれ、Tell Me!」
Tell Me
somebody Tell Me
please Tell Me
声にならない言葉でも
Tell Me
somebody Tell Me
please Tell Me
まだ君の声は届かない
まこっさんの歌を聞きながら、僕は切実に悩んでいる。
だれか、どうすればいいか教えてくれ。
Tell Me……
Tell Me……
hideさん、あなたは、どんな気持ちでこの歌を作ったのですか?
僕の気持ちをわかってくれますか?
まこっさんは僕をどう思ってるのですか?
Tell Me
somebody Tell Me
please Tell Me
君の瞳は僕を見ているか
僕はいつまでもいつまでも、まこっさんの横顔を見つめていた。