資材置き場だった部屋から、音楽が生まれる場 | ロックベーシスト 西本圭介

ロックベーシスト 西本圭介

テクニカルベーシストとしてベース・マガジンでも紹介 / ディープ・パープルのグレン・ヒューズ達と共にヨーロッパ11カ国を周り、また巨匠ビリー・シーンと共にKoRnのドラマー[レイ・ルジアー]のリズム隊として登場。

 

聖子(きよこ)を見送った私が、新しいベースレッスン室をつくるまで

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この部屋は、もともと長男が使っていた部屋でした。

その後、聖子(きよこ)が営んでいた「3丁目のたこボール」の資材置き場となり、仕事に必要な道具や備品が保管されていました。
 

人が長時間過ごすことを前提にした部屋ではなく、エアコンもありませんでした。
長男が過ごしていた時代はまだまだエアコンがなくてもなんとかなっていた時代ですが、昨今は無理でしょう。

当然、ここをベースのレッスン室として使うという発想も、当時の私にはありませんでした。
 

しかし、聖子が亡くなり、相続の手続きや遺品の整理、事業に関係するさまざまな片づけを進めるなかで、家の中に残された空間と、これからの自分の生活について考える時間が増えていきました。
 

何を残し、何を整理し、これからどこで、どのように暮らしていくのか。
 

それは単なる片づけではありませんでした。

聖子が生きていた時間と向き合いながら、残された私が、これからの人生をどう歩いていくのかを考える作業でもありました。

ガレージの片隅から始まったレッスン

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これまでベースレッスンは、主にガレージの一角で行ってきました。


ガレージには一般的な壁掛けエアコンがなく、ウインドエアコンを使いながら、どうにか室温を調整していました。
 

特に真夏は大変でした。

生徒さんが来られる約1時間半前にエアコンを入れることが、毎回のレッスン前に欠かせない私の仕事でした。
 

ウインドエアコンを動かし、複数の送風機を使って冷気を循環させ、レッスンが始まる頃までに、なんとか過ごせる室温へ近づける。いわば、夏のレッスン前の「儀式」です。
 

それでも、猛暑の日には十分に涼しいとは言えませんでした。
 

冬は冬で、大型ストーブを使ってガレージ全体を暖めていました。楽器を演奏するには手が冷えない温度が必要ですから、レッスン開始前からストーブをつけ、少しでも快適な環境をつくろうとしていました。
 

これまで通ってくださった生徒さんには、ずいぶん不便をかけてしまったと思います。
 

暑い日も寒い日も、決して十分とは言えない環境のなかで、ガレージの片隅までベースを習いに来てくださいました。

あらためて、これまでレッスンを受けてくださった皆さんに感謝しています。

本当にありがとうございました。

エアコンの入れ替えが、最初のきっかけになった

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今回、この部屋をレッスン室へ変えようと思った直接のきっかけは、エアコンでした。
 

私の寝室で使っていたエアコンも古くなり、この夏は設定温度を22度まで下げても、夜に寝苦しさを感じるほどでした。

修理の見積もりも検討しましたが、費用を考えると、修理するより新しいものへ買い替えた方がよいという結論になりました。
 

そこで寝室のエアコンを入れ替えるのと同時に、これまでエアコンがなかったこの部屋にも、新しく設置することにしました。

エアコンが入るなら、ここをレッスン室として使えるのではないか。
 

そう考えたところから、部屋のリニューアルが動き始めました。
 

単に机と楽器を置くだけではなく、ベースを演奏し、音を聴き、生徒さんと会話をしながら、音楽に集中できる場所にしたい。
 

壁にはベースを安全に掛けられるようにし、ケーブルや周辺機器も整理する。

少しずつですが、この部屋は「物を保管する場所」から「音楽をつくり、伝える場所」へと変わっていきました。

聖子の机を、これからも使い続ける

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新しいレッスン室には、聖子が使っていた赤い天板の机を置くことにしました。
 

新しいデスクを購入すれば、部屋全体を簡単に統一できたかもしれません。
しかし、私はこの机を使いたいと思いました。
 

聖子が仕事で使っていたものを、ただ遺品として保管するのではなく、これからの私の仕事のなかで役立てたい。

赤い机の上には、MacBook Proと拡張ディスプレイなどの機器を置きました。
 

隣には、聖子が使っていたオレンジ色の作業台を配置し、プリンターを置いています。


以前とは用途が変わっても、この机や作業台は再び仕事の道具として使われます。

聖子が使っていたものが、今度は私のベースレッスンや音楽制作を支えてくれる。

それは、物を残すだけではない、新しい受け継ぎ方なのかもしれません。

遺品整理でも、事業のクローズでもなく

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聖子が亡くなってから、私は多くの手続きをしてきました。
 

相続、遺品の整理、仕事に関係する物の確認、家の片づけ。

外から見れば、この部屋を整理することも、その一連の作業の一つに見えるかもしれません。
 

けれど、私にとって今回のリニューアルは、遺品整理でも、「3丁目のたこボール」という事業を閉じるための作業でもありません。

もちろん、聖子が残したものと向き合う過程ではあります。
 

しかし、それだけではありません。

これは、私自身の生活をもう一度動かし始めるための、最初の一歩でした。
 

大切な人を失ったあと、以前とまったく同じ生活へ戻ることはできません。

だからといって、すべてを忘れ、新しいものだけに置き換える必要もありません。
 

残されたもののなかから、これからも大切にしたいものを選び、形や役割を変えながら、次の時間へつないでいく。

このレッスン室づくりは、私にとって、そんな作業だったように思います。

ROOTWEST STUDIO、新しいレッスン室へ

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新しいレッスン室には、エアコンが入りました。
 

明日からは、真夏でもレッスン開始の1時間半前からガレージを冷やす必要はありません。
真冬に大型ストーブで部屋全体を暖め続ける必要もありません。
 

季節を問わず、快適な室温のなかで、音楽に集中していただけます。

ベースの音、指の動き、リズムのわずかな違い、生徒さんとの会話。

これまで以上に、一つひとつの音と丁寧に向き合える環境になりました。
 

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壁にはポスターや聖子の遺品を飾り、棚とLED照明を設置しました。
 

楽器や機材を並べるだけではなく、この場所へ来たときに少し気持ちが上がり、「今日は音楽をやるんだ」と感じてもらえる空間を目指しました。
 

決して広大なスタジオではありません。

けれど、生徒さんと一緒に音を出し、考え、試し、成長していくための場所として、大切に育てていきたいと思っています。

この部屋から、もう一度始める

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長男の部屋だった場所。

聖子の「3丁目のたこボール」の資材置き場だった場所。
 

そして今度は、ROOTWEST STUDIOのベースレッスン室になります。

この部屋には、家族が過ごした時間も、聖子が働いた記憶も残っています。
 

それらを消して別の部屋にしたのではありません。

すべてを抱えたまま、新しい役割を与えました。
 

聖子が残してくれたものを使いながら、私はここで、自分の仕事と生活をもう一度つくっていきます。

このレッスン室のリニューアルは、完成ではありません。
 

私がこれから歩いていくための、始まりです。
 

これまでガレージへ通ってくださった生徒の皆さん、本当にありがとうございました。

そして、これからROOTWEST STUDIOで出会う皆さん。

新しいレッスン室で、一緒に音楽を楽しめることを心からお待ちしています。

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