僕は高校時代,寮に入っていた。
学校が終わると,ほとんどの生徒はクラブ活動に参加していた。
帰宅部だった僕は,部屋に戻ると音楽を聴いて,寮の夕食の開始時間まで暇をつぶした。
4時になると,一番乗りで寮の食堂に入り晩御飯だ。
あまりおいしいご飯でなかったことを憶えている。
カレーや丼もののときは,おかわりOKであった。
ちなみに寮の食費は1日750円で,朝が150円,昼が250円,夜が350円と割り振られていた。
3日前までに欠食を申請すると,月末に食べなかった分のお金が返金された。
寮の部屋代は,光熱費込みで1日10円であった。
無料というわけにはいかないから,最低限の値段をつけているようであった。
僕は夕食を済ませると,たいがい図書室に行った。
図書室はすごく広く,ソファもあり,人がほとんどいなかった。
僕はソファに寝っ転がって,晩御飯後のひと眠りをするのが日課だった。
ひと眠りから目覚めると,図書室の本を見て回った。
小説もあったが,ほとんどが大学の数学や物理の教科書だった。
小説は「家族ゲーム」や星新一のSFものを読んだ。
元来,本が嫌いな僕は,読んでいるとすぐに眠くなり,またソファで眠り込んでしまうことが多かった。
あるとき図書室にいると,とある棚の一番下に図書ではない資料の束を見つけた。
何だろう?と思って見てみると,
過去の就職や進学の記録が自筆で書かれたレポートであった。
どうやら,就職や進学した先輩たちが,先生に言われて後輩のために書き残したものを資料としてまとめられたものだった。
就職の場合の主な内容は,面接での質問内容,会社の寮の間取り,寮費,具体的な仕事内容などが書かれていた。
進学の場合は試験問題が書かれており,見たところ,千葉,三重,東京の大学,長岡の工科大学,豊橋の工科の大学,東京の工科大学の試験問題があった。
ほとんどの大学の試験科目は,専門科目と英語だけであった。
関西の大学が全くないことに少し驚いた。
東京の工科大学は,物理,化学,専門,英語と4科目あり,東京の大学は,数学,物理,化学,専門,英語,ドイツ語と6科目もあった。
僕が一番得意な数学の問題を見ると,やはり,東京の大学の試験問題は他校に比べて,難解であることがわかった。
東京の大学の資料には,試験問題よりも重要なことが書かれていた。
それは,他校のように3年生に編入学できるわけではなく,2年生に編入学することになるということだった。
つまりは,東京の大学に合格したとしても,1年留年した扱いにされることを意味していた。
その事実が,僕に東京の大学への興味を失せさせた。
試験問題を見ることで,おぼろげだった進学のことがより現実味を帯びてきた。