尾川永次のブログ -358ページ目

尾川永次のブログ

小説、ポエム、旅日記などなど徒然なるままに行きたいと思っています

                  - 殺意の正体 -

シーラスとソフィーがネイザンの館を出て二時間、空は相変わらず灰色の雲で覆われ
 ナダルの森の馬車道は薄暗いままだった。その中をパイクに乗り、馬の早足ほどの
 速さで国境の町バルザに一人で向ったジャンを追っていた。

二人が走る雨上がりの馬車道は蒸せるような湿気に包まれていたが夏の終わりが
 近いせいもあり、生い茂る木々の中を通り抜ける風がいくばくかの涼しさを運んで来
 た。

やがて道が二股に分かれている場所に出るとシーラスは右手で手綱を引きながら
 左手を出してソフィーにも止まるように合図をした。
「どうどう」二人はパイク
を分かれ道で止めた。

道は左に進むとゴライ山脈を迂回し原野を通ってバルザに行くが、右に進むと山脈を
 越えて最短距離でバルザに行けた。


シーラスはパイクの首の辺りを軽く二度叩くと降りながらソフィーに声を掛けた。
「ソフィー皇女。ジャンがどっちに行ったのか念のために確認しますので少し待って下
 さい」
「分りました」そう言うとソフィーもパイクを降りてここまで辿って来ていたジャンの残し
 たと思われる足跡を眼で追った。足跡は明らかに山脈へと続く道に向っている。

シーラスはパイクに下げられている袋からベージュのシルクに包まれた拳程の大きさ
 のクリスタルを取り出し左手に持つと右手をクリスタルの上に乗せて呪文を唱えた。
「パーストル・ム・バイ・オルギ」
右手を離すとクリスタルがぼんやり輝き出し、中に白い雲のような塊が現れると、その
 塊にパイクに乗り右の道に進むジャンの姿が映しだされた。予想通りジャンは山脈
 へと向っていた。

「法師、それは過去を映す魔法ですね」と、クリスタルの映像を見ていたソフィーが
 言った。

「はい。クリスタルがある場所の過去しか見られないのと残留エネルギーが弱いと
 上手く見ることが出来ないのが難点ですが」
「ジャンははっきり映ってましたね」
「精神力のコントロールの修行をしていませんので間欠泉のように生体エネルギー
 を撒き散らしてます
。おかげでこちらも見つけ易いですが、これでは遠くからでも敵
 に見つかってしまいますね。
残念ですけど、とにかくこれでジャンがゴライ山脈に向っ
 た事ははっきりしました」
「法師は何が残念なのですか?」
ソフィーが尋ねるとシーラスはクリスタルを元の袋に仕舞いながら答えた。
「大雑把な性格のジャンのことですから道を間違えて迂回する道に行っていたらと
 期待したのです。レベルアップは先になるかもしれませんが、とりあえず危険は避け
 られる」

「やはり心配ですか?」
その言葉で袋を見つめたまま
シーラスの動きが止まった。そしてゆっくりと答えた。
「していないと言えば嘘になりますね」
シーラスはジャンが向ったゴライ山脈に掛かる
 灰色の雲に眼を向け
「後はこのまま雨が降らずにいてくれれば足跡を追って見つけ
 られるでしょう

「そうですね」そう言うとソフィーは空を見上げ眼を閉じると軽く深呼吸をした。そして
 少しの間そのままでじっとしていたが、やがて眼を開けると振り向いて言った。

「風が優しくなって来たので、天気は回復します。山も雨は降らないと思いますので足
 跡の追跡は問題ないと思います。それと・・」
「それと?」
「皇女を付ける必要ありません。種族が違うのですから」
「皇女がそうおっしゃるなら名前で呼ばせていただきます。それでは私も法師抜きでお
 願いできますか?法師と呼ばれるには今の実力ではいささか抵抗があります」
「そうですか。ではお互いに名前で呼び合いましょう」
「はい、分りました」
とシーラスが言った時、ソフィーがくすっと笑った。
それを見てシーラスは心配になり慌てて聞いた。
「何か変なこと言いましたか?」
「いえ、こんな堅苦しく話すような内容では無い気がして、それでおかしくて」
言われてみればそうだとシーラスもおかしい気がして来た。
「確かにそうですね」笑顔でそう答えると、シーラスはそれまで緊張していた肩の力が
 すーっと抜けて行く気がした。
「そうだ!」シーラスは何か思い出したように腰の袋から
結晶の形をした長さ十センチ
 程のクリスタルを取り出した。

「ちょっと試させて下さい」そう言うとクリスタル親指と人差し指で縦に持ち、小声で

 呪文を
唱えた。
「サージュネル・ウォルザン」
するとクリスタルは
上半分が淡くオレンジ色に下半分が水色に輝き出した。それを見
 てシーラスがソフィーに尋ねた。
「しばらく曇りで天候の回復は夜なんだけどソフィーの予想は?」
「昼過ぎには晴れ間が見えそうですね」
ソフィーの予想を聞いて
シーラスはがっかりした表情になった。
「そうですか・・。まだまだ精度が低いな」
「それって天気を予想する魔法なのですか?」
「天気を予想するのではなく、色んな物を察知するクリスタルを作っています。今は
 空気の湿り気や重たさを察知して天気の推測をしてみたんだけど、ソフィーの予想と
 は違うようですね」
「でも、私が間違えているかも」
「それは無いと思います。エルフの人たちの天候を察知する能力は完璧ですから」
「後は何を察知出来るのですか?」
「水や金属、生き物など波動が出ているものなら大体大丈夫です。もっともジャンに
 は食べ物以外は要らないと、けちをつけられましたけどね」
「彼らしいですね」ソフィーが笑った。
「彼らしいです」シーラスも笑った。
心を開き始めた
二人の笑顔は違っていた。お互いに心から笑っていると思えた。
それは不思議な感覚だった。一ヶ月程前にネイザンの館で紹介され挨拶を交わすよ
 うにはなっていたが話をした事はなかった。それが二人で森を走り、
笑顔で見つめ
 合い会話をしているのだ。
そのことに気付いた二人は急に恥ずかしさがこみ上げて来て、慌てて視線を逸らし
 た。
「パイクは走りづめだったのでしばらく歩きながら進みましょう」シーラスは少し照れな
 がらクリスタルを仕舞うとパイクに跨りた立ち上がった。
そうですね」ソフィーも少々ぎこちない動作でパイクに乗ると、二人はゴライ山脈に向
 けて歩き出した。

しばらくは妙な意識をしたせいでお互いに口を利くこともなく歩いていたが、やがて
 ソフィーが真剣な顔で話を切り出した。
「シーラス。貴方にお聞きしたいことがあります。よろしいですか?」
「はい」シーラスも
ソフィーの真剣さを感じ取り重い口調で返事をした。
「あなたは彼が、ジャンが山の獣達との攻防で第二段階に行けると思っています
 か?」
「そうですね、昨日の今日ですから難しいとは思います。呪術部屋でも、その事を法師
 と話をしましたが法師も直ぐに第二段階が発動するとは思っていないとおっしゃって
 ました。ただ、この試練がきっかけになり短期間で第二段階に移行するのではない
 かと」
ソフィーは少し強い口調で返した。
「私は
ドラゴンウィングを受け継ぐ者として小さい頃から剣士として教えを受けて育ちま
 した。そして父から剣を受け継ぎ、
第一段階の契約の儀に五ヵ月、さらに第二段階
 が発動するまでに三ヶ月掛かりました。彼の剣はただ振りましているだけの我流そ
 のもの、しかも精神面の修行も出来ていません。これで第二段階に行くのは疑問を
 感じます。試練はただ危険なだけです」
シーラスはソフィーの言い方に言葉以外の物を感じ、あえて極論を口にした。
「ジャンが第二段階を発動させることが許せないですか?」
「ゆ、許せないだなんて、そんなこと思っていません!」
口では否定したがソフィーの言い方は明らかに動揺していた。
シーラスの一言で気付かされたからだ。
ジャンの修行が足りないことを指摘しているだけではない、無意識の中に今までして
 きた全てを否定されてしまう事を拒んでいる自分がいたのだ。
「ただ私は・・」ソフィーは何を言っていいか分らなくなっていた。

シーラスにもソフィーの言いたい事は分っていた。
地道に登ってたどり着いた山の頂にホップ、ステップ、ジャンプで登られたら誰もが
 抱く感情なのだ。そして修行とは頂上に着く事ではない、どう登るかが修行なのだ
 と言いたいのだ。
 その為の修行をする予定ではあったのだが・・。

「法師が不思議な事をおっしゃってました」
「不思議なこと?」
「理由は分らないがジャンが
ドラゴンテイルを選んだのではない、ドラゴンテイルが
 ジャンを選んだのだと。でも、これは危険な事でもあるらしい。確かにジャンがドラゴ
 ンテイルを持って夜の森に入ると次から次へと虫が沸いて出て来ます。まるで剣に
 引き寄せられるように」
「私もドラゴンウィングを授けられた時に意識は委ねても心を委ねるなと言われた事
 があります。どちらにしても危険なのかもしれませんね」

その時ソフィーの眼つきがにわかに鋭くなった。
背後から刺すような視線がこちらに向けられている事に気付いたからだ。
・・つけられている・・まさかエルバインの手下!?・・
ソフィーに緊張が走る。ゆっくりと右手をドラゴンウィングに掛けると 頭を動かさずに
 小声でシーラスに言った。

「シーラス、そのままで聞いて。悪意を持った何物かに跡をつけられている。虫では
 ないと思う」
ソフィーの言葉にシーラスは頭を掻いたり、首に手を回したり落着かない仕草をしな
 がら「確かに虫ではないかな。ただ悪意ってほどではないと思うよ」
ソフィーの緊張を他所にシーラスの言い方は普段の会話のようで、緊迫感のかけら
 も無い。

「このただならぬ殺気はいつ襲って来ても不思議ではありません。とにかく正体を確
 かめて対処しなければこの先厄介な事になります」

ソフィーが次第に緊張して行くのが手によるように分った。
シーラスは人差し指で頭を掻きながら少々困惑ぎみな苦笑いを浮かべて言った。
「ただならぬ殺意が無いわけじゃ無いか・・。厄介な正体は直に分ると思うよ
その言葉を聞いたソフィーはシーラスを見ながら思った。
・・シーラスはすでに正体を把握しているのか?・・。他人事のようなシーラスの言動に
 苛立ちを感じながらソフィーが前を見ると厄介な正体は直ぐに判明した。
「あんた誰!?エルフが何であたいのシーラスとパイクに乗ってお出掛けなわけさ。
 しっかも二人して楽しそうに見つめあっちゃってさ。まだ夏なのにすんごく寒気した」

ソフィーの鼻の先二十センチの所で十センチ程のピンクのバニーガールのような格好
 をした女の子の妖精がぶんぶん羽ばたきながら、でかい態度でわめき散らしている
 様は確かに厄介そうである。

呆気にとられ声も出ないソフィーにでかい態度の厄介な正体は更にたたみかけた。
「これから何処に行こうっての、あたいの了解も得ずに。話の内容によっちゃ許さない
 からね。え!何とか言いなさいよ!!」
でかい態度の厄介な正体に唖然としていたソフィーがやっと呟いた。
「妖精・・」
「見ればわかるでしょ!でもまあ、こんだけかわいいと妖精には見えないかもしんない
 けどさ」と、本人が言う割には何処から見ても妖精そのものだった。

この、でかい態度で飛びながらふんぞり返っている厄介な妖精の名前はディー。冬の
 森で行き倒れていた所をシーラスに助けられ、以来シーラスの家の屋根裏に住み着
 いているはぐれ妖精である。

ソフィーは冷静な表情ではあるが多少威圧的な喋り方でシーラスに尋ねた。
「シーラス、この騒がしくて厄介な生き物は貴方の知り合いですか?」
「うん・・まあね・・」予想していた通りの展開にシーラスは俯いたまま、ばつが悪そうに
 返事をした。

それを聞いたディーは
口に手を当て今にも泣き出しそうな顔をしてよろめきながら
 「さ、騒がしくて厄介な生き物・・ひどい、虫みたいな言い方するなんて・・」と思ったら
 いきなりソフィーの前から消え次の瞬間ディーはシーラスの胸にしがみつき涙ながら
 に訴えた。
「聞いた今の!何処の馬の骨か分らない女に騒がしくて厄介な生き物って言われ
 たっ!私がかわいいからって焼きもちやいているのよ!信じられない!何でこんな
 のと一緒にいるわけさ!?シーラスは騙されてるんだ!わぁー!」
シーラスの胸に顔を埋めて泣きじゃくっている様な仕草をした。

ディーの”馬の骨”発言でソフィーの右耳がピクッと動いた。これはソフィーが怒った時
 に見せる反応なのである。そして間髪入れずに言い返した。
「何処の馬の骨ではありません。エルフですから骨はエルフです、それに人を騙したり
 もしません」真っ直ぐ前を見てさらに威圧感が増した言い方をした。
それを聞いたディーはシーラスに埋めていた顔を起こすと呆れ顔で言った。勿論涙な
 ど出ていない、やはり嘘泣きである。
「うわー、言葉の”あや”も通じないんだ。つまんない女。そんなんじゃ生きてて疲れな
 い?」
ソフィーの両耳が動いた。怒りモードが第二段階に達したようだ。

こうなると売り言葉に買い言葉である。

「私はくだらない事も言いませんし、ギャーギャー喚かないから疲れません。泣いたり
 怒ったり一人で勝手に騒いで、子供はいいですね。ほんと、羨ましい」
落ち着き払っ
 て皮肉たっぷりの上から目線の物言いだった。

再びソフィーの前にディーが現れた。
「何さ、私よりちょっと背が高いからって、えっらそうに言っちゃってさ!」
そう言うとディーはソフィーの体型をちら見するとニヤッとした顔をした。
・・どうやら、女としての魅力はあたいのほうが上ね・・そう確信すると
、どこで覚えてき
 たのか身体を捻ったり、胸やお尻を突き出して悩殺ポーズの数々をソフィーの前で
 披露しながら言った。

「どう?あなたにこれが出来るかしら」
ディーの表情は自信に満ち溢れていたがソフィーはきょとんとした顔で言った。
「どうって・・断末魔の芋虫の真似ですか・・それとも雨乞いの儀式とか?」
「い、芋虫の雨乞だなんて!まったく男心も知らないんだから」
「そうは言ってません。芋虫と雨乞いは別です。小さいと耳が聞こえにくいとか」
わざとではないが若干ソフィーが押し気味になった。
「あー、その言い方!完全に馬鹿にしてる。少しくらい耳が大きいからって!あたいの
 方が胸は大きいしかわいいし」
巻き返そうとディーはソフィーの周りでぶんぶん飛び回りながら必死に騒ぎたてたが
 ソフィーは心を落着かせる為に眼を閉じて頭の中で呟いた。
・・私は誇り高きエルフの皇女、心を乱してはいけないのよ。目の前にいるのは蝿よ、
 何処にでもいるようなムチムチしたピンクの蝿がうるさく飛び回っているだけなの
 よ・・。
ムチムチしたピンクの蝿が何処にでもいるようには思えないがとにかくソフィーはそう
 自分に言い聞かせ心を落着かせた。

だがソフィーが目を開けるとディーの様相が先程とは一変していた。今までの姿が嘘
 の様に真剣な顔でソフィーに近寄り耳打ちした。
「あたいの右手のずーっと後ろの木の上に魔物に取り憑かれた危険な奴が居る・・
 多分虫だよ」
・・え?そんなまさか!?・・ディーの言葉にソフィーは驚いた。
自分には虫の存在はおろか、魔物の気配さえも感じてはいなかったからだ。
半信半疑でソフィーは左前方の森に意識を集中した。
・・居る!上!?・・僅かだが確かに樹上からこちらを伺っている。それは本当に僅か
 な気配と魔物の波動だった。

ソフィーは改めてディーを見た。
・・この娘がこんなかすかな気配を感じ取ったなんて。それもあんなに騒いでいた状態
 の中で・・。


だが今はそれどころではない。
このまま行くと確実に襲われる。
「ソフィー。二十メートル程先に居るようだね。先手を打つかい?」虫の存在に気付い
 たシーラスがソフィーに声を掛けてきた。
「大丈夫、このまま進んで」ソフィーは冷静に返した。
三人は何事も無かったように馬車道を進んで行く。
十七メートル、十五メートル・・
次第に大きくなる気配の中に見え隠れする殺気は、こちらを狙っていることが明白
 だった。
ソフィーが黙ったまま後ろ向きに飛んでいたディーに小声で言った。
「ゆっくり私の後ろに回りなさい」
「うん」ディーが小さく肯きソフィーの後ろに回った時、
”ガサ”っと音がしたその瞬間、ソフィは相手の位置を捉えた!
ソフィーは両の腰に挿したドラゴンウィングを一瞬で抜くと互いの剣の柄を顔の前で
 合わせた。すると二つの剣が一つになり出来た弧に光の糸が通りドラゴンウィング
 は弓へと変化した。同時に背中のクイーバーから矢を抜き、眼にも止まらぬ速さで
 樹上の相手に放った!
飛翔音とほぼ同時に矢が刺さる音が樹上から聞こえたかと思うと一瞬の間を置いて
 枝を折りながら何かが地面に落ちた音がした。
ソフィーとシーラスはパイクを止め落ちた相手の気配を伺った。
完全に倒せず手負い
 になっていると危険だからだ。

シーラスは魔法の杖を持ち、ソフィーは次の矢を引いて狙いを定めていた。
「多分シュパイデです」ソフィーが言うと
「そう思います」シーラスも同調した。

「す、すごい・・」

第二段階が発動しているソフィーの動きと放った矢の速さ
にディーは唖然としていた。
やがて正気に戻ったディーが「あたい見てくる」と、言うと。
それを聞いて慌ててソフィーが振り向いた。「あっ、待って!」
まだ危ないとソフィーが止めようとした瞬間、ディーはソフィーの目の前から消えた。

その小さい体で生きて行く為に妖精たちは短い距離であれば瞬間に移動出来る能力
 を身に付けていた。

ソフィーがディーの身を安じてパイクを降りようとした時、ソフィーの前にディーが興奮
 して現れた。
「すごい!すごい!おっきな蜘蛛が死んでる。あんたすごいね!」
ソフィーはディーが無事に戻って来た事に安堵の表情を浮かべたが次の一言でその
 表情は一瞬にして掻き消えた。
「そうか!あんたシーラスの護衛なんだね。誤解しちゃってごめんね」

ディーの護衛の一言でソフィーの
両耳が小刻みに動いた。臨界点は近い。
・・このままだと血の雨が降る・・
これ以上の事態悪化を避けるべくシーラスはソフィー
 の素性をディーに教えた。

ディー。ソフィーはエルフ族の第二皇女なんだよ」

それを聞いたディーはソフィーの周りを飛びながら感心したようにじろじろとソフィーを
 観た。「へー、皇女なんだ。偉いんだねあんた。あたいディー」
そして満面の笑みを浮かべて「よろしくソフィー皇女。女同士、仲良くやろうね」
「よ、よろしく・・」ディーに笑顔で挨拶されたソフィーだったが表情はぎこちなかった。

次の瞬間ディーはシーラスの肩に座って文句をいい始めた。
「黙って出て行くなんて随分じゃない」
「いや、今度は旅に出るわけじゃなくて、戦いなんだ。心配でそんな所にディーを連れ
 ては行けないよ」
シーラスの一言でディーの顔はみるみる嬉しさに溢れた。
「うれしい。そんなにあたいの事を心配してくれているのね」
もちろんシーラスの心配はディーの思っている心配とは多少違っていたがディーは
 上目使いでシーラスの胸にしな垂れ掛かり「大丈夫だよ。なんたって偉い皇女が
 護衛してくれてるんだから。ねぇソフィー」
その時”ブチッ!”っと何かが切れた音にシーラスが気付いた。音の出所はソフィー
 の手元の辺りだ。
シーラスがそっとソフィーを見るとパイクに乗ったソフィーは何事も無かったように前を
 見て「さ、行きましょう」と、歩き出した。
「あ、はい」
あわててシーラスもパイクを歩かせると、再度ディーを説得しようと試みた。
「これから山に入って山の獣達と戦うことになるかもしれない。バルザには魔物に憑か
 れた兵士もいると思う」
「町に着いたら何食べたい?おいしいフルーツあるかなー?」
「危険な魔法師と対決するかもしれない。邪悪なドラゴンが出てくるかも」
「シーラスは男の子と女の子どっちがいい?男親は男の子を欲しがるってゆうけど・・」
ディーは自分の世界に浸りきっていてシーラスの話を全く聞いてはいなかった。
「ディー」
「最初はやっぱり女の子がいいかな。育て易いってゆうじゃ・・」
「ディー!」
シーラスの叫ぶ声に振り向くと目の前に憤怒の表情のシーラスの顔があった。
「とにかく帰りなさい。いいね!」
シーラスの迫力に浮かれた様子のディーの顔がみるみる泣きそうになっていった。
「だって、だって・・」
泣かれると弱いシーラスの口調がトーンダウンした。
「ディーが一緒だと
ソフィーにも迷惑が掛かるから、ね」
「じゃ、ソフィーがいいって言ってくれたらいいよね」そういい終わった時にはディーは
 ソフィーの目の前にいた。
「一緒に行っていい?いいよね?いいよね?あたい、いい子にするからいいよね?」
大粒の涙が溢れんばかりの潤んだ瞳で懇願され、さすがのソフィーも折れざるを
 えなかった。

「分りました。そのかわりさっきみたいに確かめもせずにいきなり虫に近付くような軽
 はずみな行動はしないように。いいですね!」
「うん!気を付けるね。ありがとう!”護衛”のお姉さん大好き!」ディーはソフィーの首
 に抱きついた。
”ブチッ”再び切れる音がした。
嬉しそうにソフィーの首の辺りに自分の頬を摺り寄せているディーとは対照的に完全
 に眼が据わったまま微動だにしないソフィーからは眠れるドラゴンを起こしそうなほ
 どの殺気を放っていた。ジャンの放つ生体エネルギーなど湧き水程度に見える
 ほど・・。

次の瞬間ディーはシーラスの肩でにこにこしながら喋っていた。
「でね、男の子だったら名前はアルで、女の子だったらユンがいいな。あ、やだぁ、
 あたいとしたことが。結婚式もまだあげてないのに気が早いよね。でも旅行は海が
 いいな。暖かくて白い砂浜で・・」
再び始まったディーの一人芝居に”ブチブチ”と聞こえてくる断裂音。
シーラスは音の正体を横目で見て驚愕した。ソフィーが皮で出来た手綱を手で紙切れ
 のように千切っていた音だったのだ。

この時、シーラスは思った。この人は怒らせてはいけないと・・。

視線を感じたのかソフィーは振り向くとにこやかな顔でシーラスに言った。
「そろそろ走りましょう」
「あ、はい・・そうですね」と、シーラスが引きつった笑顔で返事をするやいなや、ソフィ
 ーは結んで短くなった手綱を振って走り出すとシーラスも慌てて後に続いた。

二人を乗せたパイクは
少し明るくなり始めたナダルの森の馬車道を一路ジャンの向っ
 たゴライ山脈目指して走り出した。
厄介な道連れ・・もとい・・新たな仲間と共に。

 

おいしいコーヒーを飲みたくてに
三ヶ月ほど前に電気ケトルを購入しました。
当初は自動のサイフォンも考えましたが、やはり自分でいれる楽しさが捨てきれず
 ドリップ式にしました。

いくつかのメーカーを調べて最終的に○ッセルホブズのケトルに決めたのですが決めた理由は
 形が好みだったからです。機能に違いはありません。
他のは土瓶にコードが生えてるみたいであまりかっこいいとは思えませんでした。

で、実際に使ってみた感想ですが、一人用のドリップとして考えると注ぎ口はもう少し細い方が
 ドリップはし易いと思いますね。
ドリップ専用のめちゃ細い注ぎ口のも考えましたが電気ケトルはありませんでした。

見た目にはかなり細く見えますが実際に注いでみるとこれでもまだ太いです。
思った所に思った量を注ぐのは以外と難しいです。
口の先をもう少しだけ絞るといいかもしれませんね。
全体を絞ってしまいますと少量出せますが、これでカップ麺なども作っていますので
 あまり細いのも微妙かも。(あくまでもコーヒーが目的です。カップ麺ではありません)
麺にチョロチョロお湯が注がれたらカップ麺としては興ざめですね、きっと。笑。
やはりカップ麺にはお湯がどばっと入ってくれないと。

色々書いてますがコーヒー豆は一人用のパックになっているやつですので
 通に言わせると多分論外ですね。
やはり豆も自分で挽かないといけないんでしょうね・・。
お金と暇が出来たら豆からやって見たいと思ってるんですよ。

ま、それでもおいしく飲んでますので、いいんではないでしょうか。

所詮、違いが分る狐狸庵先生ではありませんので・・ダバダー。笑。
(上記のギャグが分る人はかなりの年配者です)
                 - それぞれの思い -

一夜明けたナダルの森の馬車道は霧雨に包まれ、空は灰色の雲が森の木々を押し
 つぶしそうなほど低く垂れ込めていた。その重苦しい空気を切り裂いてシーラスを乗
 せた馬が泥を跳ね上げながらネイザンの館目指し全速力で駆け抜けて行く。

シーラスが急ぐのには訳があった。ジャンが一人で国境の町バルザに向ってしまった
 のだ。ドラゴンテイルのクリスタルは魔法師が力を送らなければやがて魔力が失わ
 れて元の錆びた切れない剣に戻ってしまう。そうなったら魔物に取り憑かれた兵士
 はおろか相手が誰であろうと結果は見えている。
一刻も早くネイザンの許しを得て
 ジャンを止めに行くつもりなのだ。

馬の速度を少し落としてシーラスは馬車道から館へ続く細い道に馬を入れた。それで
 も
生い茂る木々の小枝が馬上のシーラスを鞭のように容赦なく打ち据え、顔を守る
 為に上げた左腕に痛みが走る。着ていたローブの左袖は所々が切れて血も滲んで
 来たがシーラスは構わず走り続けた。

やがて館を望む湖沿いの道に出て飛んで来る枝が無くなると
、「ヤァッ!」掛け声
 一閃、落ちていた馬の速度を再び上げた。

館の前ではムスダムが食事の準備をする為、食材を運んでいた。
そこへ馬に乗ったシーラスが勢い良く走り込んで来た。
シーラスは手綱を強く引き馬が止まる前に飛び降りると急いで手綱を柵に繋ぎ、門の
 前に居るムスダムに走り寄り肩で息をしながら言った。

「法師は、ネイザン法師はどちらにおられますか?」
「慌ててどうなされ・・袖が切れて血が滲んでいるではありませんか!」
心配するムスダムの言葉を遮るようににシーラスが言った。
「それより法師に火急の報告があります!」
ムスダムは驚いていた。雨に濡れたまま腕に負った傷を気にもとめず、その上いつも
 の冷静さをシーラスが失っていたからだ。
「法師は玄関ホールでソフィー皇女とお話をされておりました」
「ありがとうございます!」
そう言いながら急いで館に入ろうとした時、シーラスのただならぬ声を聞きネイザンと
 ソフィーが館から出て来た。
「どうしたのだ、シーラス」
「法師。ジャンが一人でバルザに向いました!」
「何だと!何故そのようなことに!?」ネイザンの顔が俄かに険しくなった。
シーラスは懐から折りたたまれた紙を取り出し、
「ジャンの置手紙がありました」そう言って
ネイザンに差し出した。

-勝手な事は分かっているがバルザには俺が育った家があり、育ててくれた人達と
 仲間達が居る。法師に怒られるのは覚悟している、だけど俺にはこうするしかない。
 すまんシーラス、バルザに行く-

手紙を持つネイザンの手に力が入る。それは不用意にバルザの情報をジャンに告げ
 てしまった自分に向けた怒りからだった。
「ジャンはバルザにある教会で姉と育ったのだったな」
「はい。十五才までバルザのラミーレ教会で」
「うかつであった・・」重い声で呟いたネイザンにシーラスが言った。
「法師、今なら馬を飛ばせば森を出る前に追いつけます。ジャンを止めに行かせて
 下さい。ただ・・」そこでシーラスは口ごもった。
「ただ何だ、シーラス?」
シーラスは俯いたまま言いあぐねていたが口を結び意を決してネイザンに打ち明け
 た。
「ジャンが、ジャンが私の言うことを聞かぬ場合は私もバルザに行くことをお許し下さ
 い。それが叶わぬなら今ここで私を・・」
そしてシーラスは頭を深く下げてネイザンに言った。
「私を破門にして下さい!」
ネイザンは頭を下げたままのシーラスの肩に右手を乗せた。
「シーラス、お前の気持ちは分った。だが、そう結論を急ぐでない。ジャンが出発した
 のはいつだ?」
「二時ほど前にパイクに乗って出ました。足の遅いパイクでも早くここを出ないと手遅
 れになります」
ネイザンは蓄えた顎髭をさすりながら「パイクで出たのであれば迂回せずに山越えの
 道を行くつもりであろう」
「私もそう思います」シーラスは頷きながら返事をした。

-ここでパイクの説明をしておこう。パイクとは角の無いトナカイを二足歩行にしたよう
 な外見に鳥のような足をもつおとなしく従順な哺乳類で、馬のように速くは走れない
 が山岳地帯や砂漠など厳しい環境を得意としていた。

ネイザンはほんの少し地面を見つめてからシーラスを見て言った。
「一刻も早くバルザに着きたいと思うのであれば、ゴライ山脈の山中で野宿をすること
 になる。お前の心配もそれであろう」
「はい、ここからパイクで行けば山の中で陽が落ちます。そして野宿をすれば確実に
 山の獣達に襲われます。今のジャンの力で防げるかどうか・・」
「確かジャンはパイクと家族同然のように暮らしていたのだったな」
「はい」
「そうなるとパイクを守りながらの厳しい戦いとなるは必定」
「ですから直ぐにでも行かないと・・」
シーラスの喋り方に焦りを感じたネイザンはゆっくりと諭すように言った。
「お前の心配する気持は分るが焦るでない。それに行くなとゆうてるのではないぞ。
 冷静に判断すれば道はいくつもある事がわかるはずだ。遠くない未来に、戦いの
 場に出なければならないジャンにとって一番良い道とは何なのか、考えればおのず
 と答えは出るであろう」
シーラスが答えを見つけるのにさほど時間はかからなかったが、それより導き出した
 答の危険さに不安を感じた。     

法師、もしかして獣達を使ってジャンのレベルを上げようと・・
「そうだ。今のジャンにバルザに行くなとゆうても無理であろう。それより山の獣達相手
 に勝てぬようではバルザに行けても結果は同じだ。むしろ契約の儀を済ませた
 ジャンにとって危険ではあるが一番良い修行かもしれぬ。次のステップに進まねば、
 剣士としてこの先の戦いに生き残る事は叶わぬ。お前達も見たのであろう。第二段
 階に達したソフィーとドラゴンウィングの力を」
ジャンの前で消えたように見えるほど速く動いた力のことである。

シーラスは何も言えなくなっていた。確かに法師の言う通りなのだ。第二段階に達して
 いないジャンがこの先魔物達と戦っても勝つことは出来ないだろう。戦場で生き残る
 方法はただ一つ、相手より何かが秀でていなければならいのだ。それでも・・もし
 ジャンが闘い抜けなかったら・・そう思うとシーラスの心中は穏やかではいられな
 かった。

「ジャンが第二段階を発動できるまで魔法の助力無しでクリスタルのパワーを持続
 出来るでしょうか?」
「それは奴の潜在能力次第じゃ。どのみち獣達が襲って来るのは夜だ。それまでに
 ジャンに追いつければ問題は無かろう。だが、お前が助けるようであればジャンに
 先は無いぞ!その時は魔法を使ってでもジャンを連れて戻るのだ。分っておるな」
ネイザンにとってもこれは賭けだった。修行で徐々に力を上げて行くことが理想で
 あり、実戦の中でレベルアップしなかった場合、戦いで得た慢心や敗北感がレベル
 アップを遅くしたり、場合によっては不可能にしてしまう事もありうるからだ。

「はい、覚悟しています」シーラスの言葉に冷静さが戻っていた。
 ネイザンの言葉通りその方法がベストだと思えたし、それにもまして後を追う許可を
 貰えた安堵感からだった。

その時、横に立っていたソフィーがネイザンに言った。
「法師、お願いが有ります」
ネイザンが振り向くとソフィーが真剣な表情でネイザンを見つめていた。
その眼は何を言いたいのか一目瞭然だった。
「お前も行くとゆうのか!?」
「はい。彼らには私の力が必要だと思います」
ソフィーが力強く言うとネイザンはソフィーの耳元に顔を近づけて言った。
「あやつらを助ける為だけではなかろう」
「え・・」
「気になるのだろう、ジャンが。レベルアップするのかどうか」
ネイザンの言う通りだった。たった二日で第二段階に進むなんて本当にそんなことが
 可能なのか自分の眼で確かめてみたかったのだ。
「法師に隠し事はできませんね。それともう一つ。古の言葉、私も聞いています」
「ムスダムに聞いたのだな」
ネイザンは眼を閉じて大きく吸った息を鼻から荒く吐くと眼を開けて言った。
「どうやら止めても無駄なようじゃな。仕度をして来なさい」
「ありがとうございます!」
館に駆け込んで行くソフィーを見ながら
ネイザンはやれやれといった表情をして呟い
 た。
「そなたの父上になんて言えば良いか・・」

だがネイザンの顔は直ぐに真剣な表情に戻りシーラスを見た。
「シーラス、バルザに行くかどうかの最終判断はお前に任せる。山越えの道で行くと、
 迂回してバルザに向った魔法騎士団とバルザの前で合流できるかもしれん。お前に
 手紙を託す、団長の魔剣士ランドールに渡しなさい。許しがでたら騎士団と行動を
 共にするのだぞ。兄弟子ラミアス法師も同行しておる」
「ありがとうございます。そのように致します」
ほっとした表情のシーラスを見ながらネイザンが言った。
「その様子ではまだ何も食べてはおらんのだろう。出発は食事をしてからじゃ。荷物を
 パイクに積み替えたら呪術部屋に来なさい」
「はい。直ぐに伺います」
「ムスダム、後は頼むぞ」そう言いながらネイザンは館に入って行った。
「かしこまりました法師」
そう言うとムスダムは馬から荷物を降ろす為に荷紐を解こうとしていたシーラスに歩み
 寄った。
「シーラス法師、私がパイクに荷物を積み替えておきますので中にお入り下さい」
ムスダムに法師と呼ばれたシーラスは手を止め複雑な表情をして言った。
「早く魔法師になれればと努力していますが私はまだ魔導師です」
ムスダムは荷紐を解きながら言った。
「貴方が作られたドラゴンテイルのパワークリスタルを法師がお褒めになってらっしゃ
 いましたよ。力を感じるクリスタルだと」
「本当ですか?」シーラスは嬉しさの中にも信じられないといった顔をした。
「今日、修行を始める前に魔法師の儀式を行うとおっしゃってました。おめでとうござ
 います」

シーラスは思いもよらぬムスダムの話に言葉を失ったまま荷物の降ろされていく馬の
 背中を見ていた。魔法師になれるのはまだまだ先の事だと思っていたからだ。
 もっとも魔法師の称号にもビギナーからマスターまでありネイザンはグランドマスター
 と呼ばれていた。

少しして我に帰ったシーラスはムスダムに深々と頭を下げ少し震える声で言った。
「今まで本当にありがとうございました・・」
 シーラスの頭の中で六歳から始めた厳しい魔法の修行が走馬灯ようによぎって行
 く。そしてその後ろでいつも励まし助言を与えてくれたのがムスダムであり、親兄弟
 のいないシーラスにとっての親代わりといっても過言ではなかった。

ムスダムは解いていた手を止めて頭を下げているシーラスに体を向けた。
「おやおや、なんです、魔法師なるお方が。頭を上げてくだされ。大変なのはこれから
 ですよ。さあ胸を張って!」
「はい・・」
そう言って顔を上げたシーラスにムスダムは厳しい表情を浮かべて言った。
「魔法師の儀式を済ませたら食事です。ムスダムの料理を食べずに旅立ちなどもっ
 てのほかですからね」そう言い終わるとスダムは嬉しそうに笑った。
「ほっほっほっ。さあ
早く行かないと法師の気が変られたら大変ですよ」
「はい」
返事をしたシーラスが館の中に入って行くのを見つめていたムスダムの顔から笑顔
 が消えていた。魔法師になったとゆうことは戦いの場に送り出す時が来たのだ。
 ムスダムは降ろした荷物を持ち、霧雨の空を見上げた。そこには、この先の過酷な
 旅路を暗示するかのような重苦しい灰色の雲がゆっくりと流れていた。

館に入ったシーラスは二階にある呪術部屋に向った。いつもは平然と上がっている
 階段なのに一段一段上がるごとに喜びと緊張から高鳴る胸の鼓動がやがて階段を
 上がる音より大きくなっていった。
それは単に魔法師になるとゆうことだけではなかったからだ。ネイザンという全ての
 魔法師の尊敬を集めた最高位の魔法師に認められる事でもあるからだ。
部屋の前で立ち止まったシーラスは大きく深呼吸をしてからドアを叩いた。
「シーラスです」
「入りなさい」
「失礼します」
シーラスが中に入ると蝋燭の灯りに照らされたネイザンが祭壇の前に立っていた。
「ここに跪きなさい」
「はい」シーラスはネイザンの前に歩み出て跪いた。
「良くここまで精進したな。ドラゴンテイルのクリスタルは魔法師と呼ばれるに値する
 
見事な出来であったぞ
「そのお言葉をいただけて光栄の極みです」
ネイザンは祭壇に置かれていた灰色のローブをシーラスの背中に掛け、手にした杖
 の柄の部分で紫色に淡く光るクリスタルをシーラスの左肩に乗せると、ゆっくりと
 力強い声で魔法師の儀式を始めた。
「魔導師シーラス・ハイドシュルツ。北の国ヘイゼルの魔法師として国と王と民に正義
 と忠誠を全うすると、ここでそう誓うか?」
シーラスが答えた。
「魔法師として国と王と民に正義と忠誠を全うすると、ここに誓います」
「では魔法師の証として、この杖を授ける。受け取りなさい」
「はい」
ネイザンはシーラスに杖をさし出しながら続けた。
「よいな魔法師としての誇りを絶対に失ってはならんぞ」
「そのお言葉、胸に深くきざんで置きます」
受け取った杖を見てシーラスは驚いた。
魔法師の証として受け取った一角獣の角から作られている杖にマスタークリスタルが
 付いていたからだ。

マスタークリスタルはクリスタルの中で最も強力な力を持ち、これを作り使いこなす
 ようになれると上級魔法師、マスターマジシャンと呼ばれるようになる。

「これはマスタークリスタルではありませんか!?」
「クリスタルは我が師バスクラールから受け継いだもの、使いこなせるように修行を
 続けるのだぞ。杖はムスダムが三ヶ月かけて作った物だ。それとマントは千年樹の
 葉で育てた蚕から取った魔法の糸を縫い込んである。後はそなたの魔法次第じゃ」
「お心使いに感謝します」
「ソフィーとジャンを頼んだぞ、魔剣士と魔法師の協力があってこそ魔物達に打ち勝つ
 大きな力が生まれるのだからな」
「はい、
ご期待に沿えるよう全力を尽くします
シーラスは再び頭を垂れた。

一時間後、食事を終えたシーラスとソフィーの出発の時間となり館の前には全員が
 出ていた。
雨は半時程前に上がっていたが相変わらず灰色の雲が空一面に低く垂
 れ込めている。


ネイザンから贈られた灰色のローブを着たシーラスと緑のシャツとパンツ、茶色の皮
 のベスト姿のソフィーがパイクに跨りその時を迎えた。
「命を粗末にするでないぞ」ネイザンが二人に声を掛けた。
「はい」ネイザンの言葉にシーラスとソフィーが返事をしながら頷いた。
「では、行って参ります」
出発を告げたシーラスに続きソフィーもネイザンに言った。
「法師、行ってきます。父の事お願いします」
「分っておる、さあ行きなさい」
「はい」
二人がパイクの横腹を軽く足で叩くとパイクは早足に歩き出した。
「しっかりな!」「頑張れよ法師!」
次々と仲間の魔導師から見送りの言葉が飛ぶ中、
ゴライ山脈へと向う為ナダルの森
 の中に二人は消えて行った。

二人が見えなくなった後も森をじっと見つめていたネイザンが独り言のように横に居る
 ムスダムに呟いた。
「これで良かったのだろうか・・ジャンに過酷な試練を与えた上に未熟なままの彼らを
 戦場へ送り出してしまった」
同じように二人を見つめていたムスダムが古の言葉を口にした。
「ドラゴンに五つの力あり。剣に収めしクリスタルが呼応しあうとき、大いなる力が生ま
 れ混沌の大地から人々を導くであろう」
ソフィーはムスダムからこの言葉を聞いていた。
「その古の言葉に従い二人そろっての修行をと思っておったのだがな」
 そう言うとネイザンは唇をかみ締めた。
「私にはドラゴンテイルがジャンを選んだ時からこうなる運命だったような気がします。
 あの剣は修行の場ではなく戦いの場を求めたのだと」
「そうか・・そうかもしれんな」ネイザンは自分を納得させるように呟くと悲しげな表情で
 館に戻って行った。

一人、館の前で佇んでいたムスダムは二人が消えた森に向って深々と頭を下げた。
・・ご無事で、どうかご無事で・・そう祈らずにはいられなかった。