尾川永次のブログ -131ページ目

尾川永次のブログ

小説、ポエム、旅日記などなど徒然なるままに行きたいと思っています

 

昨日の続きです。

元は枚数に制限があるので、かなり無理やりに押し込んでますので、

出来ればもう少し話しを広げたいかなと思ってます。

作品は少し直してますが、ほぼ第一稿のまま載せてます。


②  『しょうがないよ』

 

新平の押す車椅子が三の門をくぐり、石垣に囲まれた城址へと入って行く。

初夏の陽射しが降り注ぎ、木々を通り抜けた風が二人の頬を撫でる。


  (何て気持ち良いのだろう)

新平が辺りを見渡していた時だった。

 

「少し歩きたいわ」


  章子も同じように感じていたのだろう。


「明日、沢山歩くから今日はあまり無理するなよ
「分かってるわ。だから少しね」

 

自分の足で思い出を踏みしめたい。新平にも分かっていた。


 「しょうがないな」  

新平はやれやれといった顔で章子を立たせた。

章子は杖をつき、心もとない足取りで少しづつ歩いて行く。

自分の影に、追い越されそうな程、ゆっくりと。


  十分ほどして新平が声を掛けた。  

「そろそろいいだろう。明日、歩けなくなったら困るからな」


 章子は立ち止まると、ふーっと息を吐いた。  


「やっぱり、家族全員で来たかったわね」

 「しょうがないよ、直哉は仕事だし、三枝子は名古屋だからな。

 さ、座ろう」

 
「そうね。仕方ないわね」
 

章子は残念そうな顔で車椅子に座った。


その後、二時間ほど園内を巡り、宿泊先のホテルへ向かうため、

懐古園を後にした。


「おいしかったわね」

「ああ、まさかこの歳でワイン飲んでコース料理を食べるとは思っても
 いなかったよ
。もっともいつも俺の料理食べてたらから、何でも美味しく
 感じたんだろうけどな」

「ううん、そんなこと無いわよ。いつも美味しく頂いてますよ」
「お世辞はいいよ。それより風呂行くか。夜景が綺麗だぞ」

新平はカーテンの隙間から、眼下に広がる佐久の夜景を

覗き観しながら章子に言った。


「そうね、それを楽しみに来たんだもの。行かなくちゃね」  


風呂の道具を持ち、二人は部屋を出た。

「一人で大丈夫か?」

大浴場の入り口を前してに新平が言った。


 「まかせて」

笑顔で浴室へ入った章子を見届けると新平も浴室へ入った。


 大抵の温泉は漆黒の闇に包まれての入浴だがここは違う。

温泉に浸かりながら眺める街の灯りの美しさは格別の物が有る。


 新平は湯船に浸かり、街の灯りをぼんやり眺めた。

何も考えず、ただぼんやり眺めた。

(綺麗だ・・・)

頭に浮かんだ言葉は、それだけだった。


 「観た!夜景綺麗だったー。宝くじ当たったら、

 超高層マンションに一ヶ月でもいいから住みたくなっちゃった」

風呂から出て来た章子は、興奮した顔で言った。

 

 「無理だろう。二人とも高所恐怖症なんだからな」  

「そうよね。山の上からだから、平常心で観てられるのよね」

「さ、行こう」

 

残念そうな顔で、おでこの汗を拭う章子の手を取り、

新平は部屋へと向かった。


 

①    『ここで・・・』

「ここで直哉が転んだのよね」  

小諸城址公園。三の門前で小学六年の長男、直哉が小学三年生の妹、
三枝子に追い回され派手に転倒した。もう三十四年も前になる。

「顔から膝まで、派手に擦り剥いてたな」
「血が滲んで来たもんだから、追い回してた三枝子が
 びっくりしちゃって立ちすくんでたもの」  

私が押す車椅子で、章子は懐かしさに笑みを浮かべ、
あの時の出来事を頁をめくるように楽しんでいた。
そんな章子を観て、私の手に力が入る。

「さ、行くぞ」
「はい」  

私の名は鳴瀬新平。歳は七十六才。
妻と二人の子を設け、下町の小さな町工場に
こつこつと七十まで勤めた。

妻、章子は七十四才。安い給料にもかかわらず、文句も言わずに
家事をこなしてくれた。

そして退職し、子供達も独立。
二人でゆっくりと余生をと考えていた矢先だった。

余命三年。
章子が末期ガンと宣告された。

命が尽きると知らされた恐怖と、失う事への悲しみ。
それらが私達夫婦に重く圧し掛かって来ました。

勿論、生きている限り、いつか家族や友人の死に直面することは
分かっていたつもりです。

でも、突然死と言う現実に直面して冷静ではいられませんでした。

「貴方に私の気持ちは、分からないわよ!」
罵声を浴びせられた時もありました。

そんな時、妻と仲がいい三枝子から我が家の現状を聞いていたのでしょう。
直哉がぶらっと家にやって来て。
「今を大切にしてくれよ」そう言って、
悲しそうな顔で帰って行きました。

その通りだと思いましたが、それでも重苦しさは解消出来ませんでした。

その一週間後、東北地方太平洋沖地震が起きたのです。
テレビ画面に映し出された信じがたい惨劇に言葉が出ませんでした。

全てを破壊し、呑み込んで行く津波。

気が付くと互いの手を握り締めていました。

一人の死も、多く死も、失った家族にしてみれば同じ悲しみなのは分かっていても、
想像を絶する自然の驚異に躰が震えたのを覚えています。

これがきっかけだったのでしょう。
三日ほどした朝、章子は昔のように笑顔で朝食を作り、
ご飯を美味しそうに食べながら言ったのです。

「今、生きてるのよね。時間、大切にしないと、怒られちゃうわよね」

嬉しかった。
章子の笑顔が嬉しかった。

「そうだね…」 そう返すだけで精一杯でした。

私の頬を暖かい物が伝って落ちて行くと。
「やだ、貴方ったら…。つられちゃうじゃない…」
章子の眼からも涙が溢れ、頬を濡らしました。

二人で今を大切に生きる。
思い出の場所を巡り、家族で生きてきた時間を歩こう、そう決めたのです。



コンペ第四弾です。

今回は小諸・藤村文学賞に応募するため執筆中です。

ただ、内容はエッセーと言う事で物語ではありません。

多少、物語も入れられるとも思いますが、小諸で物語と言うほどの
経験はしていないので、論文の様になってしまいそうです。(笑)

しかも、最初は物語のつもりで書いてしまい
一本作ってしまいました。
よくよく見たら、エッセーと書いてあったんですよ。
見落としてましたー。

ですが、せっかく作ったので書き直して、ブログに掲載予定です。

余命3年の妻にまつわる家族の話ですのでご期待下さい。
(誰も期待してないか・・)笑。

   
  最近いたずらが増えたリブさんです。