昨日の続きです。
元は枚数に制限があるので、かなり無理やりに押し込んでますので、
出来ればもう少し話しを広げたいかなと思ってます。
作品は少し直してますが、ほぼ第一稿のまま載せてます。
② 『しょうがないよ』
新平の押す車椅子が三の門をくぐり、石垣に囲まれた城址へと入って行く。
初夏の陽射しが降り注ぎ、木々を通り抜けた風が二人の頬を撫でる。
新平が辺りを見渡していた時だった。
「少し歩きたいわ」
「分かってるわ。だから少しね」
自分の足で思い出を踏みしめたい。新平にも分かっていた。
「しょうがないな」
新平はやれやれといった顔で章子を立たせた。
章子は杖をつき、心もとない足取りで少しづつ歩いて行く。
自分の影に、追い越されそうな程、ゆっくりと。
「そろそろいいだろう。明日、歩けなくなったら困るからな」
章子は立ち止まると、ふーっと息を吐いた。
「やっぱり、家族全員で来たかったわね」
「しょうがないよ、直哉は仕事だし、三枝子は名古屋だからな。さ、座ろう」
「そうね。仕方ないわね」
章子は残念そうな顔で車椅子に座った。
その後、二時間ほど園内を巡り、宿泊先のホテルへ向かうため、
懐古園を後にした。
「おいしかったわね」
いなかったよ。もっともいつも俺の料理食べてたらから、何でも美味しく
感じたんだろうけどな」
「ううん、そんなこと無いわよ。いつも美味しく頂いてますよ」
「お世辞はいいよ。それより風呂行くか。夜景が綺麗だぞ」
新平はカーテンの隙間から、眼下に広がる佐久の夜景を
覗き観しながら章子に言った。
「そうね、それを楽しみに来たんだもの。行かなくちゃね」
風呂の道具を持ち、二人は部屋を出た。
大浴場の入り口を前してに新平が言った。
笑顔で浴室へ入った章子を見届けると新平も浴室へ入った。
温泉に浸かりながら眺める街の灯りの美しさは格別の物が有る。
新平は湯船に浸かり、街の灯りをぼんやり眺めた。
何も考えず、ただぼんやり眺めた。
(綺麗だ・・・)
頭に浮かんだ言葉は、それだけだった。
「観た!夜景綺麗だったー。宝くじ当たったら、
超高層マンションに一ヶ月でもいいから住みたくなっちゃった」
風呂から出て来た章子は、興奮した顔で言った。
「無理だろう。二人とも高所恐怖症なんだからな」
「そうよね。山の上からだから、平常心で観てられるのよね」
「さ、行こう」
残念そうな顔で、おでこの汗を拭う章子の手を取り、
新平は部屋へと向かった。