そびえ立つ五重塔だろう。
まだ新しいようで極彩色に彩られた様は周囲の
雰囲気とはなじまない気もしないでは無いが
本来寺院はこのような色で塗られていたわけで
それを時間と言う芸術家が重厚な佇まいに変えたのだ。
男はまず五重塔の下にある千体地蔵の展示室に入った。
薄暗い展示室に掌ほどのお地蔵さんが所狭しと千体並んでいる様は
男の心を圧倒した。
「ふー」
男は展示室の外へ出ると肩の力を抜きながら一つ息を吐いた。
千体の迫力はそれほどだったのだ。
男は気を取り直すと不動尊の奥へと歩を進めた。
今にも泣き出しそうな灰色の空から冷たい風が男の身体を
凍えさせる。
「ざっくり観たらさっさと帰った方が良さそうだな」
などと呟いていると左手に大師像が木々の間から見えて来た。
その奥には大師堂が在り少し行くと大きな観音像が微笑を湛えている。
観音様はマリア様とどこか共通している所があるような気がするのは
私だけだろうか?などと考えながら山門を抜け大日堂を見れば
主だった施設はこれで終わりだ。
もっと詳しく観てもいいのだがそれでは次回の楽しみが減ってしまう。
「さてと、そろそろ帰るとするか」
男は冷え切った身体を丸めながら元来た道を引き返し
出口となる仁王門へと向った。
だがしばらく歩くと小高い丘に通じる道に立てられた
一枚の立札が男の歩を止めた。
そして少しの間、じっと見つめていた男は
吸い寄せられるように立札へ向って歩いていた。
何故近付いて行ったのか男にも分からなかった。
今にして思えば何かの力が働いていた気もするが
この時はただ気になった、それだけだったのだ。