ステロイド外用剤に依存性はあるのか | 皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

皮膚科医が放射能やアトピーについて考える

金沢市の野町広小路医院で皮膚科医をしています。
何を信じればいいのかわからないこの時代に、
医師の視点から放射能汚染や皮膚科医療の問題点について考えます。

医学部を卒業し皮膚科医となり、最初の数年間はこのように思っていました。

「ステロイド外用剤のリバウンド、リバウンドと騒いでいるけれど、今までリバウンドなんて経験したことがないぞ。」
「リバウンドは単なるアトピーの悪化でしょ。」
「脱ステ医が医療現場を混乱させ患者を苦しめている。ステロイドを使う治療が正しいし患者のためでもある。」

皮膚科医として年数を重ね、ステロイドでコントロールできない患者を経験したり、インターネット上でのステロイド外用剤への批判の声を聞くうちに、こんな疑問も持つようになりました。

「なぜ患者はステロイドを怖がるのだろうか?」
「ステロイドは皮膚科医が使えば安全といえるのか?リバウンドや依存性は本当にないのか?」
「ステロイドの適正な使用法とは何だろう。どう使えば副作用が少なくてすむのだろう?。」


あるとき指導医に質問したことがあります。
「赤ちゃんの顔によくキンダベート軟膏(弱いランクのステロイド)を処方しますけど、どれくらいの期間塗ると(皮膚がうすくなるなどの)副作用がでるのですか?」

「2週間だな」

「!?」

顔の乳児湿疹にステロイドを数か月以上塗り続けることはよくあることでしたから、こんな使い方で本当に大丈夫なのかな?と思った記憶があります。
そもそも、ステロイドの副作用について指導医から十分な説明を受けていないうちに研修医が診療を行っているのも問題です。



以前、このような患者さんを経験しました。

彼は腕に1か所だけ痒疹(皮膚の炎症によって生じる硬いしこり。虫さされ等がきっかけでできることが多い)ができていて、私は約2年間アンテベート軟膏(とても強いランクのステロイド)を処方し続けていました。

ですが痒疹が消えることはなく、痒疹の周囲はステロイドの副作用により毛が濃くなっていました。

ここで更にステロイドのランクを上げるのも皮膚科医の常套手段ですが、その時の私はステロイドの中止を指示しました。



その後の経過は予想外のものでした。

それから数か月もの間、痒疹からは多量の滲出液が続きステロイド中止後 2週間目には両肘の屈側部(アトピーの好発部位)に湿疹が出現したのです。

アトピーを思わせる発疹が彼に出現したのはこれが初めてでした。(もともとアトピー素因はあったのかもしれませんが)
おそらく、痒疹が激しい炎症を起こしたことで(他部位の)皮膚の過敏性が亢進したのだと推測しています。

痒疹は、掻き続けることにより潰瘍やびらん(皮膚の表面が欠損した状態)を呈することはあっても、数か月以上も激しい滲出液が出続けるということは、まず考えられません。(過去の経験のなかで痒疹がこれほど悪化したのをみたのは、後にも先にもこの時だけです)
私には、これがステロイド中止後の単純な悪化とはどうしても思えませんでした。酒さ様皮膚炎におけるステロイド中止後のリバウンドと同様の反応のようにみえました。

私は思いました。
「脱ステ医や一部のアトピー患者がいう激しいリバウンドというのは、私が見ている現象が全身の皮膚で起こったものではないか。」


その後はステロイドを以前より慎重に使うようになり、脱ステロイドにも一定の理解をもつようになりました。ステロイドの使用を短期間にとどめるよう注意し、軽い症状にはステロイドなしで経過をみることが増えました。

ステロイドを1年以上塗り続けているような患者には、まずステロイド中止を薦めてみることも多くなりました(局所性のものがほとんどですが)。
そうすると一部の患者ではステロイドを止めるだけで、長期間治らなかった皮疹が治ってしまうということを経験しました。(もちろん、治らないことの方が多いです)

「それは経過の中で、たまたま治っただけだ」という皮膚科医も多いでしょう。

しかし“半年以上ステロイドを塗り続けて治らない湿疹が、ステロイドを止めてわずか一ヶ月で完治してしまう”ようなことが少なからずありますし、
“30年間治らなかった局所の慢性湿疹が、ステロイド中止後にリバウンドを経て約1年で治癒した”こともあります。

そのままステロイドを続けていたら、同じように治癒したかどうかは誰にもわかりません。

私の皮膚科医としての感覚を信じるならば、ステロイドを止めたから治ったのだと確信しています。


「“炎症を治めるステロイド”を止めると炎症が治まってしまうことがある」

これは私にとって、不思議な経験でした。

科学的に十分な説明を加えることはできませんが、
(顔面以外であっても)ステロイドに依存性はある、というのが私の考えです。


少なくとも「顔面へのステロイド依存」があることは、多くの皮膚科が知っています。そのメカニズムでさえよくわかっていないのですから、顔面以外の部位に依存が起きる可能性だって否定はできないはずです。

「アンテベートを2年間も塗り続けるなんて、いい加減なことをするからだ。」
という批判は、全くその通りです。
しかし未だにほとんどの皮膚科医が、以前の私と同じようにステロイドを漫然と使用しているという現実があります。

皮膚科医は謙虚に患者の声に耳を傾け、ステロイドの使用法や安全性について再評価することが必要だと思います。


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