あんまり外にでないので、たまには童心に帰ってゴッコ遊びをすることにしている。家にある一番いい服に着替えて(とはいえそんな高級なモノじゃない)、普段はあまり履かないよそ行きのヒールを引っ張り出し、メイクはいつもより濃い目にして、『今さっき、人間を生で食べてきました』というような真っ赤な口紅を塗り、私の収入では絶対に手が出ないような超高級宝石店に繰り出すのだ。私はこれを『セレブごっこ』と呼んでいる。
凄まじい輝きで正面からまともに見たら目が潰れるようなダイヤモンドや、凝視するだけで体を石に変えられてしまいそうなビジョン・ブラッドのルビー、細やかな彫金細工が施され小粒のアレキサンドライトが散りばめられた首が千切れそうな重量であろうネックレスを眺め、店員さんに「あら、意外とお安いのねぇ」等とのたまうだが、心の中では『こんなもん身につけてたら怖くて外に出らんねぇよ!』とか考えている。ちなみに価格帯は安くて6桁前半。高いもので7桁後半である。買えるかこんなもん!私の数年分の食費だよ!これ買ったらむこう数年間は断食だよ!
私の脳内では『セレブごっこ』の最中は スネオのママが憑依している という設定なので、店員さんとの会話中に「ちょっと考えるザマス」的なザマス言葉が連想され、ひとりで勝手に吹き出しそうになる度に「ぶへっ、ゲフゲフっ!ゲフンゲフン!」といった感じで怪しげな咳で誤魔化しているのだが、その度店員さんに「お客様、大丈夫ですかっ!?」と本気で心配されるので、ああ、さすが高級店の店員さんはちゃんとしてて、いい人だなあ、とか思うのだが、私は影ではなんと言われているのだろうか。
『肺病持ちのセレブ奥様』とかだったらいいなぁ。こう、美人薄命的な意味合いでさ。
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セレブごっこが終わったら必ずデパ地下に寄ることにしている。普段は激安スーパーで食材を調達している私だが、高級な宝石は買えなくても、ちょっとお高くて美味しいお魚やお肉位なら買うことができる。いいじゃないか、これくらいなの贅沢ならば。
デパ地下で食材を買い物するとアレやコレと毎回食材を買いすぎる・・・。美味しそうでついつい沢山購入してしまうのだ。昨日も両手にズッシリと買い物袋を抱え、ヨロヨロと電車に乗った。
席が空いていたので座ったのであるが、程なくしてお婆様が乗り込んできた。以前のエントリーで、最近のご老人は元気なので席を譲ろうかどうか迷う と記述したのであるが、このお婆様は白髪で腰が曲がっていらっしゃり、混みはじめた電車の中で立たせているのはあまりに酷な事に思われたので迷わず席を譲った。
が、お婆様、座ろうとなさらない・・・。「大丈夫ですから、大丈夫ですから」と繰り返すのである。私も一度席を立った手前「あ、そうですか」と座り直すわけにもいかない。
私は、「座って下さい!次の駅で降りますから!」と言ってしまった。
ここで言う『次の駅で降りますから』は、次が目的の駅だという意味ではない。こうでも言わないと座ってくれないと思った私の方便である。けれどもお婆様は、私の目的の駅が次だと思って下さった様で、「ありがとう、ありがとう」と何度も仰りながら席に座ってくれた。いいお婆様だ。席を譲って良かった。
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さて、目的の駅の三駅も手前で電車を降りるハメになった私はホームで次の電車を待つかどうか考えた。三駅か・・・。よし!ちょうど運動不足だし歩いて帰ろう!道端に花とか咲いているだろうし、たまにはそういうのもいいかな、と思った。
両手に重い買い物袋を持ち、慣れないヒールの靴を履いた私は、帰り道に盛大にすっ転んだ。
普段買わないちょっといいワインの瓶は割れ、履いていたストッキングがダメになった。
お婆様、席を譲られたときは素直にお座りになって下さい。
こちらの被害が甚大です。
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