- わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)/早川書房
- ¥987
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カズオ・イシグロの10年くらい前の長編。
テーマは例によって「記憶のゆらぎ」。
主人公が探偵という設定のためなぜかミステリに分類されていたりするが、いわゆるミステリ的な要素はほとんどないしエンターテイメント小説ではまったくない。すべては数日前から数十年前まで遡る記憶についての語りであり、それは記憶であるがゆえに事実ですらない。いや、事実ではあるかもしれないが、真実ではない。人は見たくないものは見ないし、時に何の意味もないことを自分勝手に解釈して自分の事実にしてしまう。カズオ・イシグロの小説を読んでいると読者は自然と自分の記憶を思い起こし、そして自分の記憶が果たして事実であったかをふと自分に問いかけてしまう。そしてその問いに対する自分の答えの曖昧さを突きつけられ、唖然としてしまうのだ。
著者の他の作品のようにおそろしく細かい描写は、読んでいて本当にそこまでみみっちい話をする必要あるのかと思わんでもないが、最後まで読んでみるといつもふうっと何とも言えぬ読後感を味わってしまうのだからやっぱりあのディテールの積み重ねは必要なのだろう。カズオ・イシグロの入門書としては薦めないが、これも良い小説。








