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ローリング・サンダー・レビュー

映画・音楽・小説・マンガのレビューブログ。

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)/早川書房
¥987
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カズオ・イシグロの10年くらい前の長編。
テーマは例によって「記憶のゆらぎ」。

主人公が探偵という設定のためなぜかミステリに分類されていたりするが、いわゆるミステリ的な要素はほとんどないしエンターテイメント小説ではまったくない。すべては数日前から数十年前まで遡る記憶についての語りであり、それは記憶であるがゆえに事実ですらない。いや、事実ではあるかもしれないが、真実ではない。人は見たくないものは見ないし、時に何の意味もないことを自分勝手に解釈して自分の事実にしてしまう。カズオ・イシグロの小説を読んでいると読者は自然と自分の記憶を思い起こし、そして自分の記憶が果たして事実であったかをふと自分に問いかけてしまう。そしてその問いに対する自分の答えの曖昧さを突きつけられ、唖然としてしまうのだ。

著者の他の作品のようにおそろしく細かい描写は、読んでいて本当にそこまでみみっちい話をする必要あるのかと思わんでもないが、最後まで読んでみるといつもふうっと何とも言えぬ読後感を味わってしまうのだからやっぱりあのディテールの積み重ねは必要なのだろう。カズオ・イシグロの入門書としては薦めないが、これも良い小説。
鍵泥棒のメソッド [Blu-ray]/メディアファクトリー
¥4,935
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「アフタースクール」の内田けんじ監督最新作。堺雅人は前作から引き続き出演だが、今回は香川照之と広末涼子が参加していて、前作に比べると華やかになった様子。やはり俳優が映画監督を選んでいるんじゃないだろうか。映画はいつもの内田けんじ監督作品どおり、表と裏とが並列で進行する緻密な脚本のうえで、演技派俳優たちがお笑い劇をやる。定期的に必ず笑えるシーンを入れてくるので次なにやるのかなという期待感で退屈しないし、軽いからしんどくなく気楽に見ることが出来る。この緻密さと笑いと軽さとが同居しているのはこの監督独特の作風で、誰が見ても面白いのでもっともっと売れて欲しい。どんでん返しっぷりは過去2作より大人しめで、もうちょい欲しいなという気がしたが、それでも非凡な作品。これは誰にでも勧められる。
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)/早川書房
¥756
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なんだかすごく評判なので、エンタメ小説もSF小説も読まない自分には畑違いのジャンルの小説だが読んでみた。本を買ってはじめて知ったのだが、著者はすでにこの世にない。享年34。自らの死期を悟って書いたであろうこの小説には、これを書かずにはいられぬという一種の凄味が感じられる。

あとがきでも「パトレイバー2」の未来で「地獄の黙示録」をやってるようだと書かれていたが、僕もちょうどほぼ同じ感想を抱いていた(僕は「攻殻機動隊」の未来で「地獄の黙示録」をやってるなあというイメージだったが)。アニメファンが読めばまず押井守が頭に浮かぶんじゃないだろうか。ただ、それは単に設定が押井守的だからなのではなく、例えば情景描写も会話も物語も、どこかアニメ的だからなのかもしれない。カフカについて会話するシーンなんて押井守のアニメにあってもおかしくなさそうだ。そしてこのアニメっぽさはやはり、文学好きにはどこか物足りなさを感じてしまうことにつながっている気がする。深さ。いや、というよりも、肌にまとわりつく感覚、か。

それにしても。30前後でこの小説を書けたのはすごい。僕は物書きでもなんでもないが、嫉妬するなあ。
日本最強馬 秘められた血統/PHP研究所
¥1,575
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いよいよ来週、オルフェーヴルが凱旋門賞に挑む。このことの意味を日本競馬史と血統の側面から分析したのが本書である。

オルフェーヴルは単に強いという理由でミーハー的に人気があるのではなく、競馬ファンにとってはたまらない存在だからこそ人気がある。それはオルフェーヴル自身の爆発しそうな気性の悪さと力強さにもあるんだけど、やはり「血統」がたまらない。

まず、父ステイゴールド。何べんGⅠに挑戦しても2着ばかりを繰り返していた彼を、競馬ファンはシルバーコレクターと呼んで親しんだ。とにかく勝てない。しかもGⅠなら2着に来るのに、GⅡやGⅢになると今度は2着にも入らない。まったくわけのわからん馬で、そのひどく人間くさいレースっぷりが競馬ファンを虜にしたのだ。最後の最後、海外でGⅠを勝ったとき(香港ヴァーズ)、僕の後輩は泣いたという。

そしてここからが真骨頂。
母の父、メジロマックイーン。メジロアサマ、メジロティターン、メジロマックイーンの親子3代天皇賞制覇は競馬ファンなら誰もが知っている。マックイーンは日本競馬史に残るステイヤーで、先行して直線で相手を突き放すそのスタミナと力強さが抜群で、これもものすごく人気のある馬だった。オルフェーヴルの力強さは間違いなくマックイーンから受け継いだものだろう。しかもマックイーンには日本が築き上げてきた血統の歴史が凝縮されている。曾祖父はパーソロン、母父はリマンド、母母父はヒンドスタン、さらに母系をたどると月友、プリメロにまで遡る。いずれもかつての名種牡馬である。オールドファンにはたまらない血統である。

さらに言えば、オルフェーヴルはノーザンテーストの3×4のクロスを持っている。ノーザンテーストは社台ファームの躍進のキーとなった大種牡馬で、これもオールドファンにはノーザンテーストが出てきたときの衝撃とともに思い入れのある血統だ。

オルフェーヴルがディープと決定的に違うのは、この血統の「日本くささ」である。父母いずれもが外国産馬であったディープと違って、オルフェーヴルは父母いずれも内国産馬という純粋な日本産馬だ。

というように、オルフェーヴルが凱旋門賞に挑戦するということは、日本競馬界が築き上げてきた歴史の挑戦である。90年の歴史を有する凱旋門賞は、いまだにヨーロッパ調教馬以外が勝ったことがない。日本産の日本調教馬のオルフェーヴルの挑戦はかつて日本が破れ続けてきた海外の競馬の文化と歴史への挑戦なのである。
人間の建設 (新潮文庫)/新潮社
¥420
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新潮文庫夏の100冊の中に珍しくこんな本が入ってたので読んでみたらけっこう面白かった。インテリじいさんふたりの対談は主に日本人論とその周辺をうろうろとしていて、テーマとしてはかなり古いような気もしたがある意味では永遠のテーマであり僕が10年前からかなり興味がある内容でもあるのでよかったし、まあ歳をとるとこういう話がしたくなるんだろうなあということは最近年上の人としゃべってて思ったり。人間、歳をとるとだんだん特定の方向にゆがんできて妖怪化するが、特に岡潔など写真を見ただけでもその妖怪感がすさまじく、そういう意味でもかなりおもろい老師たちの雑談。なお、人間の建設というタイトルは意味不明。
セクレタリアト/奇跡のサラブレッド [Blu-ray]/ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
¥2,500
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ベルモントステークスを31馬身で勝った名馬セクレタリアトをフィーチャーした映画。ダート2400メートルを2分24秒の世界レコードで突っ走ったこのベルモントステークスは競馬史上もっとも驚異的なレースと言っていい。セクレタリアト以後40年間、2分24秒で走った馬はおろか2分25秒台で走った馬もいないのだから、もうこのタイムは超えられないだろう。

というわけで何よりも事実が凄いのであって、映画としては特に面白いわけではない。2分24秒のyoutubeの映像のほうが、この2時間の映画よりはるかに面白い。
おおかみこどもの雨と雪 BD(本編1枚+特典ディスク1枚) [Blu-ray]/バップ
¥7,140
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「時をかける少女」と「サマーウォーズ」がテレビのゴールデンでやったりしてアニメファン以外にも大人気の細田守監督最新作。いや、でかい映画館でやってることに驚き、さらに満員なことに驚き、テアトル梅田で並んでいたときのことを思うと隔世の感がある。ポピュラーになるってことは大変うれしいものです。

さて、おおかみこども。ポピュラーになっていることと関係しているのだろうけど、とにかくジブリ化が著しい。少女革命ウテナの頃のとげとげしさはどこへやら。老成、なのか。しかしこれはポピュラー作品好きの僕にとってはうれしい変化だ。

「時をかける少女」と「サマーウォーズ」もそうだったが、この映画はある意味ではよりファンタジー。リアリティが欠けてしまうギリギリのラインの綱渡り。落ちかけてしまいそうになるシーンもかなりあって、危ない危ないとヒヤヒヤしながら観てたけど、途中からあまり気にならなくなって、結果としてはうまいこといったなあと思ってしまうバランス感覚の良さ。

この映画にはキズはある。それでも、そのキズが気にならないほど幸福な瞬間がある。最近のクリント・イーストウッド監督作品のような。

アニメファンとして面白いのは、ガンダムの富野が珍しく大絶賛していること。「本作の前では、もはや過去の映画などは、ただ時代にあわせた手法をなぞっているだけのものに見えてしまうだろう」「このような作品に出会えたことは、同じ作り手として幸せである」らしい。確かに御大将が好きそうな、健康的なアニメ。
砂の女 (新潮文庫)/新潮社
¥546
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意外に読んだ事がなかった安部公房。
かっちょいいですね。50年前にこれかあ。
前衛小説っぽい扱いなんだろうけど、
もはやこれが王道になってしまっている凄さ。
前衛的であり、同時に普遍的であるという矛盾の達成。
生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る (幻冬舎新書)/幻冬舎
¥840
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生命がなぜ生まれたのかというのは哲学的な問いで、この本は正確に言えば「生命はどのようにして生まれたのか」を述べている。ところどころわかりやすくアホっぽく書いているもののオタッキーな化学ネタ満載の新書で、科学者としての丁寧な姿勢がうかがえる。ただ、僕が知りたいことに多く触れてはくれなかった。たぶん多くの人がそう思うんじゃないだろうか。
アイシールド21 1 (ジャンプ・コミックス)/集英社
¥410
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やっぱジャンプ漫画だろう、という原点回帰の精神がなんとなくもこもことこみ上げてきて、とりあえず読んだ事のない長期連載作品をと思って選んだのがこのアメフト漫画。やっぱジャンプ漫画は次を読みたくなる工夫についての意識がハリウッド並に高い、というのは言いすぎにしても、それだけしか取り柄がないヤツが根性で仲間とがんばる話に間違いはない。普通に面白い、という水準を超えない感はあるが。それにしても、絵うまいなあ。