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【2000年代、僕が狂った20枚】 第3位
ミスター・チルドレン 『Q』(2000)
暗黒の高校時代、それこそ狂ったように聴いていたのが『深海』と『BOLERO』と『DISCOVERY』と、そしてこの『Q』だった。2000年以降のミスチル作品の最高傑作は一般的にはおそらく『It's a wonderful world』になるのだろう。だがそんなことは知らん。音楽を聴くことはあくまで個人的な体験だ。僕が一番苦しかったときに、ミスター・チルドレンは『Q』で一緒に苦しんでくれたのだ。
『Q』は矛盾に満ちたアルバムだ。ぐちゃぐちゃだと言っていい。アルバム全体に一貫性がなく、同じような曲がひとつもない。バラバラだとも言えるし、多様性があるとも言える。アルバムを通して聴いても、テーマのようなものは一切感じられない。『Q』は9枚目のアルバムだから『Q』というタイトルになった。つまりは『無題』ということだ。こんなにテーマのないアルバムに、タイトルをつけることはできなかったのだろう。
この秀逸なジャケットは矛盾だらけでバラバラなアルバムの内容を示している。『深海』から這い上がってきたのにまだ潜水服を脱ぎきれていない。潜水服を着ていて飲めないはずのコーヒーを飲もうとしている。背景はコラージュでできたバラバラの光景。
『深海』から戻ってきたミスター・チルドレンは苦悩していた。まさに潜水病(the bends)にかかっていたのだ。「われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか」というゴーギャンの絵のタイトルのように。「僕こそが中心です」と思ったり、「その向こうへ行こう」としたり、「安らげる場所」を求めてみたり、けれど昨日探し当てた場所にジャンプしてみると「NOT FOUND」なのだ。
「ああ世界は素晴らしい」と言ってるわりにはイライラしているし、「そもそもキリスト教に僕は何の信仰もない」のに「ハレルヤ」と言ってしまうし、すべては夢からできているのに誰かの夢を打ち落としてしまうし、虹はモノクロに輝くし動物園には誰もいないし、凛と構えた姿勢には古傷があるし、とにかくすべての曲に表と裏がある。そう、まさに「矛盾しあった幾つものことが正しさを主張している」のだ。
このアルバムの多様性は、あちこちに答えを探した結果に他ならない。ポップあり、ロックあり、ハードロックあり、お得意のバラードあり、フォークあり、ブルースあり、歌謡曲あり、もうめちゃくちゃ。これだけの幅を見せたこと自体が驚異的だ。1.「CENTER OF UNIVERSE」は「DISCOVERY」で試みたradioheadの引用をよりミスチル風にアレンジすると同時に、元々Aメロだったものをサビにもっていき、途中でテンポを「一気に加速」するという実験的な曲。超名曲3.「NOT FOUND」では優しいメロディに荒々しいヴォーカルをのせるという大矛盾の離れ技をやってのける。7.「十二月のセントラルパークブルース」は明らかにボブ・ディランの引用で、「Tombstone Blues」と「Subterranean Homesick Blues」の間のような曲だということが最近やっとわかった。だからこの曲の主人公は「ホームシック」にかかってるわけだ。歌詞にはダコタハウス(ジョン・レノン暗殺の地)が出てくるし、リフはストーンズっぽいし、ビートルズとストーンズとディランがここで邂逅する。それにしても桜井和寿のヴォーカルが凄まじい。ボブ・ディランの歌い方をコピーして自分のものにしてしまっている。思えばミスチルはインディーズ時代にディランをコピーしている。8.「友とコーヒーと嘘と胃袋」は吉田拓郎っぽいらしいけど、途中のセリフも含めてかなり笑える曲で、しかし何かゾッとさせるものがある。10.「Everything is made from a dream」も何とも楽天的なタイトルかと思いきや実はえげつない曲で、このアルバムで最大の毒をもっている。とヘンな曲ばかりを紹介してきたが、「つよがり」「ロードムービー」「口笛」などの普通に良い曲が合間に挟まって、それが単なるきれいごとではないと思わせる。「Hallelujah」はのちの「タガタメ」や「and I love you」につながるスタジアムバンドらしい大曲だが、これで終わらずに、美しい小品「安らげる場所」で終わるのもニクい。
と、色々書くとこのアルバムはどんどん細分化されて、どんどん矛盾していく。本当に同じバンドが作ったアルバムなのかと思えるほどに、このアルバムのそれぞれの曲は分裂してゆく。色々なミスター・チルドレンがいて、そのどれもが正しさを主張している。何だって飲み込んで何だって消化(昇華)してすべてをポップに変えてしまう、ポップザウルスという巨大な魔物としての自己を意識したのはおそらくこの頃だろう。腹の中に飼っている魔物が暴れだしたのがこの『Q』だったのか、それともあえて暴れさせたのか、それはわからない。だが、腹の中のコントロールできない魔物とたたかっていた高校生の頃の僕にとって、この『Q』はまさに自分自身だった。どす黒い感情とそうではない何かが交錯して矛盾する、暗くしかし栄光に満ちた青春の1枚。








