ローリング・サンダー・レビュー -17ページ目

ローリング・サンダー・レビュー

映画・音楽・小説・マンガのレビューブログ。

G戦場ヘヴンズドア 1 (IKKI COMICS)/日本橋 ヨヲコ
¥590
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とにかくアツイ!
漫画家になろうとする少年たちのマンガ。
だが、バクマンのような明るさはない。
「人と違う生き方はそれなりにしんどいよ」
と言ったのは『耳をすませば』の主人公の父だが、
漫画家になろうとする生き方はまさに人と違う生き方で、
どれほどにしんどいものかわかっていながら、
少年たちはその生き方を選んでもがいて狂っていく。
そう、青春は暗いのである。

「かわいそうになあ
 気づいちゃったんだよなあ
 誰も生き急げなんて言ってくれないことに」

生き急ぐべきたくさんの若者たちと、
生き急いできたほんのわずかの大人のためのマンガ。

ベントラーベントラー 1 (アフタヌーンKC)/野村 亮馬
¥550
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SF趣味に満ちあふれたマンガ。
いろんな引用がありそうだけど、
SFを読まない僕にはわからないのがもどかしい。

1話完結で、1話ごとに異星人がひとり出てくる。
そいつがあれこれして騒ぎを起こすんだけど、
ウルトラマンみたいに地球を滅ぼすなんてことはなく、
通行人の邪魔になったり、川の水を飲み干しちゃったりとか、
なんとも小市民的な悩みごとばかりが起こる。
この感覚が実にいい。
SFは完全な想像でありウソであるがゆえに、
SFにとって最も必要なのはリアリティだ。
そしてこの作品は日常的という意味できわめてリアル。
SFの面白さを再発見した。
ヨコハマ買い出し紀行 1 新装版 (アフタヌーンKC)/芦奈野 ひとし
¥670
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これでレビューも300回目。
記念にめちゃくちゃ面白い漫画を紹介しよう。

『ヨコハマ買い出し紀行』というタイトルがついているが、
物語の中でヨコハマに買い出しに行くのはわずか数回。
あとはずっと、全員が寝ているようなマンガ。
とにかく何も起こらない。
読んでるとこっちが眠くなってくる。
が、それはつまんないからというわけではなく、
気持ちよくなって眠くなってくるから不思議だ。
なんなのかなあ、これ、何にも起こらねえなあ、
と思って最終巻を読み終えた後の読後感がすごい。
切ないし悲しいし優しいしうれしい。
本当に何なんだ、これ。

夕方、藍色に染まるゾッとするほどきれいな空を見たとき。
あのとき、人が胸に抱く感情を何と表現したらいいんだろう。
僕がこれまで見てきた中で、この『ヨコハマ買い出し紀行』ほど、
あの言葉にならない感情を見事に表現している作品はない。
夕方ファンが夕方ファンにのみ勧める夕方ファンのための大傑作。
タンポポ [DVD]/山崎努,宮本信子,役所広司
¥4,935
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伊丹十三監督作品。面白い。
山崎努、宮本信子、渡辺謙、安岡力也、役所広司、
大滝秀治、橋爪功、津山雅彦、といった錚々たる顔ぶれ。
渡辺謙も役所広司も、この頃まだ駆け出しだったことを考えると、
伊丹十三のもとにいかに人材が集まっていたかを思い知る。

いわば群像劇なのだが、とにかくバランスがものすごく良い。
笑いあり泣きありどころではない。
実験性あり哲学ありエロあり食通根性あり知性あり。
ブラックユーモアあり意味不明系ギャグあり。
いろんなものを詰め込んでいるのにうまくまとまっている。
これはすごい。

この映画のテーマは「食」。
食通で知られる伊丹十三らしいテーマだが、
食べることは生きることにつながって、
「生」というテーマがオーバーダブする。
病気で今にも死にそうな奥さんに旦那が叫ぶ。
「死ぬな!起きろ!そうだ、飯を作れ!」
白目をむいてフラフラになりながら奥さんは炒飯を作る。
炒飯を泣きながら食べて旦那は言う、「うまいよ!」と。
ゾンビのような奥さんはバタンと倒れてご臨終。
この泣き笑いがいっしょくたになった感覚。
生きることは、泣き、笑い、食べることだ。

それにしても、意味のないシーンが一切ない。完璧。

「なんていうか・・誰でも自分のはしごを持ってんのよね。
 そのはしごの精一杯上のほうで生きている人もいれば、
 はしごがあることも気づかずに地べたに寝転んでる人もいるのよ。」
東のエデンの劇場版。
ただのテレビアニメの続き。
テレビの続きとしてはまあ面白かった。
しかし、テレビアニメの作画レベルが高かっただけに、
劇場版になっても何も変わってない印象。
しかもこれも前編と後編分かれてるし。
テレビでやってくれー。
ワンピースの映画。
東映のアニメ観るのなんて何年ぶりだ?
職場の同僚と4人で観に行く。いい年こいてみんなでアニメ。

ヒットしているのは、原作者が製作総指揮をしていることで、
「準原作」の意味合いが強いからなんだと思う。
製作総指揮尾田栄一郎と書かれちゃあ、行くっきゃない。
そうやって期待して映画を観に行って、ああ、やっぱり
漫画と映画とは全く別物なんだな、ということを思い知る。

総合的には出来はそんなに悪くない。
が、ちょっとトンデモ要素があったりどうもおかしい。
(なんでルフィ、スーツ着てるの?とか)
この映画の主役はある意味「ヘンな生き物たち」で、
でっかいタコがでてきてギャアアアア、みたいなシーンが多い。
ワンピースって、実は古典的なんです。
でかい化け物が出てきてビックリ、というのは、
サイボーグ007とか手塚漫画でよく出てくる。
でかいクジラを出したり、巨人を出してビックリ、は同じだ。

そういえば、エンディングのアニメで、
なぜかとってつけたように白ひげとかエースとかが出てくる。
本編にはまったく登場してないのに。
東映アニメは昔から変わってないんだなあ、って懐かしかった。
のだめドラマの劇場版。
映画というかドラマの続きみたいな印象だけど、
ドラマ自体もなかなか良い出来だったのでまあ問題なし。
上野樹里と玉木宏は本当に適役だったなあ。
ウエンツとベッキーが外人役をするのも無理はあるが、
映画のベースがいかにも漫画な雰囲気だから許せる。
なだぎ武の外人役は最高のキャスティングだった。
なだぎがバカバカしい雰囲気をつくってしまったことで、
ウエンツとベッキーは全然許容できるものになっている。
映画とは関係ないけど、なだぎのムスカのネタ、面白いなあ。

とまあ物語と演技と脚本はバカバカしくも無難なかんじ。
だが、この映画の主役は音楽だ。
映画がはじまってすぐにテーマ曲が流れる。
大音量で響くベートーヴェン交響曲7番。
やっぱすごいなあ。これだけで満足できてしまう。
チャイコフスキーの何たらいう曲も普通に感動してしまった。
いやー、音楽すげえ。

音楽すごいんだけど、映画はコンサートじゃないしねえ。
ところどころ笑える映画だから、観てて面白いけど。
最終楽章といいつつ、前編だから終わり方に救いがない。
後編だけ観てもいいかもしれない。
KID A/レディオヘッド

¥2,548
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【2000年代、僕が狂った20枚】 第1位

レディオヘッド 『キッドA』(2000)


20世紀の最後の最後に現れた世紀末の大傑作。こんなにも世紀末にふさわしい音楽もないだろう。この作品を「まあまあ」と評価する人間はいない。「めちゃくちゃ好き」か「意味不明」か、どちらかだ。

『キッドA』は狂っている。それも、計算的に狂っているのだ。理性的に、機械的に、美しく、破滅的に。狂うということは何も考えないことに限りなく近い。機械が打ち鳴らすビートに僕たちの心と体はロボットのように勝手に動き出す。まるですべてを忘れるかのように。まるで気でも狂ったかのように。気が狂いそうなヤツは狂ってる音楽を聴かねばならない。そうしなければ、本当に気が狂ってしまうから。だから気が狂いそうなヤツにとって音楽は娯楽でもないし趣味でもない。そんなもんじゃないんだ。

電子音ばかりが取り沙汰され、今乗りに乗っているWARPレーベル系の音楽、特にエイフェックス・ツインからの影響ばかりが指摘されるが、このアルバムの特徴を電子音に見るのはあまりに表面的だ。『キッドA』をつくったとき、トム・ヨークはチャールズ・ミンガスにのめり込んでいた。「THE NATIONAL ANTHEM」なんて、ミンガスそのまま。いくつものホーンが有機的に絡みつくミンガス・ジャズの特徴は、いくつものギターを有機的に絡ませる初期レディオヘッドの特徴に似ている。音楽のジャンルは違えど、そもそもからレディオヘッドとミンガスが目指すところは同じだったんだろう。音はきわめて多いが、無駄な音など一切ない。すべての音が複雑に関係し合い、その関係性がさらなる狂いを生む。ミンガスの音楽の特徴も僕からすれば「計算された緻密な狂い」と「多音が複雑に絡みつくことで生まれるグルーヴ」。同じだ。

このアルバムでのトム・ヨークのヴォーカルは電子音に紛れ込んだり、あるいは電子音そのものになってしまったりするがゆえに、例えば感情を排した機械的な歌声であるという言われ方をする。その指摘は誤りではないが、「隠す」ことは同時に「見せる」ことである。感情を隠せば隠すほど、隠しているがゆえに見えてしまう、もっと言えば聴き手が想像してしまう感情がある。この「隠す/見せる」という観点からは、『キッドA』は隠そう隠そうとしているが隠し切れずに見えてしまっている、いや、隠し切らずに見せてしまっている。「HOW TO DISAPPEAR COMPLETELY」を感情を排した歌だとはとても言えないし、ラストの曲「MOTION PICTURE SOUNDTRACK」ではそれまで隠し続けた感情が溢れ出す。隠されたものは想像し、見せられたものは想像の上をゆく。

「少年A」という恐ろしいタイトルがなぜつけられたのかは知らないが、このアルバムは「少年A」のために作られたようなアルバムだとも思える。「少年A」とは、気が狂いそうな少年たちであり、レディオヘッド自身であり、田村カフカであり、僕自身だった。人間はいつでも死ねるのに、なぜ死なないのか。人間はいつか自分が死ぬとわかっているのに、なぜ狂わないのか。こういう音楽があるから、人間は死なないし狂わないんだと本気で思う。2000年代、僕がもっとも狂ったように聴いたのはこのアルバムだ。どうしようもない悲しみの中でもがいて狂ってまた悲しむ、すべての気が狂いそうな少年たちのための20世紀最後の大傑作。
リングス・アラウンド・ザ・ワールド/スーパー・ファーリー・アニマルズ

¥2,520
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【2000年代、僕が狂った20枚】 第2位

Super Furry Animals 『RINGS AROUND THE WORLD』(2001)


スーパー・ファーリー・アニマルズ(SFA)は凄すぎる。

1st『Fuzzy Logic』(1996)
2nd『Radiator』(1997)
3rd『Guerrilla』(1999)
4th『Mwng』(2000)
5th『Rings Around The World 』(2001)
6th『Phantom Power 』(2003)

1枚目から6枚目まで、僕の評価はすべて★5つである。
とにかく1曲1曲のレベルが高すぎるのだ。
その傑作中の傑作、SFAの最高傑作がこの『リングス』。
「世界を一周する輪っか」というハッピーなタイトルは、
このアルバムの音楽をぴたりとうまく表現している。
「世界を一周する輪っか」という願望を思いつくのは、
世界がバラバラだってことに気づいているヤツで、
それに気づいていながら嘆くのではなく優しく歌う。
だから音楽は、願望というよりはむしろ祈りとして響く。
バラバラの世界に絶望しても、そこで音を鳴らす。
「IT'S NOT THE END OF THE WORLD?」という曲ではこう歌われる。

  やっと眠りにつこうとするとき、君は不安にかられ始める
  急いでもいないのに、タクシーに乗せられるときみたいに
  けど僕らの髪が真っ白になっても、空には星が輝いてるだろう
  少なくとも、世界はまだ終わってないだろう?

このアルバムは、あまりにも優しい。
そうなんだ。やっと眠れるってときに、不安が僕を襲うんだ。
優しいってのは、他人の痛みが分かるということだ。
他人の痛みが分かるということは、自分も痛いということだ。
僕はこのアルバムを聴くたびに胸がいっぱいになる。

このアルバムが発売されてから2ヵ月後、911が起きた。
それでもSFAは優しく歌う。
「世界はまだ終わってないだろう?」と。