ローリング・サンダー・レビュー -16ページ目

ローリング・サンダー・レビュー

映画・音楽・小説・マンガのレビューブログ。

戦後世界経済史―自由と平等の視点から (中公新書)/猪木 武徳
¥987
Amazon.co.jp

日本経済新聞 エコノミストが選ぶ2009年経済図書 1位。
週刊ダイヤモンド 2009年ベスト経済書 2位。

堂目さんや大竹さんなど、最近、阪大経済の先生が活躍していて、
今頃になってわりと良い大学にいたことを痛感したりしている。
この本の著者の猪木さんも元々は阪大の先生。
僕が入ったときにはもういなかったけど。

さて本書。とにかくまず情報量に圧倒される。
一番うしろに「参考文献」のページがあるのだが、
大体500くらいの本と論文(うち7割は外国)が挙げられている。
どのページにも知らないことしか書いていないすごさ。
一応、学部で経済史の講義受けてたんだけどなあ。
世界経済史というタイトルに偽りはなく、欧米・日本だけでなく、
ハンガリー、チェコスロヴァキアなどの東欧諸国から、
ブラジル、メキシコなどのラテン諸国まで全世界を網羅している。
それぞれの歴史を語った上でマクロ経済の見地から批評を加える。
自分がいかに何もわかってないかがよくわかる。

それにしても、かなり難しい内容の本であるにもかかわらず、
意味があまりわからなくてもわりとスラスラ読めてしまう。
文章がきわめて巧いのである。リズムがめちゃ良い。
句読点の打ち方ひとつをとっても完璧。
こういう仕事ができたらかっちょいいなあ。

「経済的な豊かさの源泉は、自然資源を十分保有しているか否かではなく、その国がいかなる人的な資源を育て上げ、いかなる制度を整えたかによる。」
開成調教師 安馬を激走に導く厩舎マネジメント (競馬王新書16)/矢作 芳人
¥945
Amazon.co.jp

去年の関西リーディングトレーナー、矢作芳人の本。
一口馬主をやっているが、やはりこの厩舎に預ってもらいたい。僕はまだお世話になってないけど。ブログを書いてたり、ファンサービスがよろしいんです。そして何より、何をどうやっているのかはわからないが、なぜか走る。しかもよく使う上にケガが少ない。GIを勝ってないのにリーディングをとっているということが、いかにすべての馬が走っているかの証だろう。この厩舎にはこれまで安い馬が多かったが、これから良血の馬がどんどん増えていくだろう。そうなったとき一体どうなるのか。一口馬主をやると、調教師が見えてくる。競馬は奥が深い。
クリント・イーストウッド監督最新作。
主演、モーガン・フリーマン。演じるはネルソン・マンデラ。
この映画を観ない映画好きなんているのか?

ネルソン・マンデラと旧知であったモーガン・フリーマン自ら企画した映画らしい。確かに、製作総指揮モーガン・フリーマンとある。僕はネルソン・マンデラがどんなしゃべり方をしていたのかは知らないが、映画の中にいたのはもはやモーガン・フリーマンではなかった。一歩一歩足を置くように歩き、強いアフリカ訛りの英語でゆったりと話し、顔をしわくちゃにしてにっこりと笑う彼は、完全にネルソン・マンデラだと思えた。映画史に残るレベルの名演。

それにしても、クリント・イーストウッドの視線はますます優しくなっていく。かつての渇いた感触はまったく見当たらない。この映画のひとつのハイライト、白人ばかりのラグビー南アフリカ代表チームが黒人の子供たちにラグビーを教えるシーンで、僕は泣きそうになった。そう、僕らが観ていたいのはわかり合える世界だ。

79歳のクリント・イーストウッドと、72歳のモーガン・フリーマンが作り上げたこの映画は、円熟などという言葉が似つかわしくないほど、優しさと希望に満ちあふれている。老いてなおより素晴らしいものを作ろうとする挑戦心ときわめて高い技術をもつ、ふたりの映画人に感謝。
世界遺産 スペイン編 アントニ・ガウディの作品群I/II [Blu-ray]/出演者不明
¥5,040
Amazon.co.jp

TBSでやってる世界遺産をよく見ていた。
そして僕が見た中で最高に良かったのがこの回、
『アントニ・ガウディの作品群I/II』である。
あまりに良すぎてバルセロナまで行ってしまった。

ガウディの建物は丸みを帯びている。角がないのである。
天井は丸いアーチを帯び、窓は丸形で壁はひずんでいる。
なぜこうなるか。自然には角がないからである。
ガウディの建物になぜこれほど惹かれるのか。
それは建物以上のものを私たちが見いだしているからだ。
すなわち、作家の自然崇拝の精神を。

Blu-rayはやっぱりきれいですねえ。
サグラダ・ファミリアが美しい。
そういえば、世界遺産の「構成」をやってるのは、
『おくりびと』の脚本をした小山薫堂である。
ここにも、作家性というのがあったのかもしれない。
フラガール(スマイルBEST) [DVD]/松雪泰子,豊川悦司,蒼井優
¥2,380
Amazon.co.jp

さっきテレビで観た。
ヨーロッパに向かう飛行機の中で、
ラストシーンだけは観ていたんだけど、
全編通して観るのは今回がはじめて。
お別れシーンが多すぎてうっとおしいが、出来は良い。
Shall We Dance には芸の細かさで及ばないけどね-。
蒼井優がすごい存在感。
哀しみを背負って笑え。
競馬学の冒険/山本 一生
¥1,680
Amazon.co.jp


競馬史研究家、山本一生の本。
『書斎の競馬学』『競馬学への招待』という
2冊の素晴らしい本と比べるとこちらは劣る。
あくまで軽いエッセイだが記述が精緻すぎるきらいがあり、
「招待」ではなく「冒険」であって素人にはやや重い。

それにしても、山本一生という競馬と知性の交錯点が知られていないのは惜しい。

イル・ポスティーノ [DVD]/フィリップ・ノワレ,マッシモ・トロイージ,マリア・グラッツィア・クチノッタ
¥1,500
Amazon.co.jp

イタリア映画。1994年製作。
映画通の知り合いに勧めてもらったのだが、
いかにも通好みのこぢんまりした良い映画。
ハリウッド以外の映画はなかなか観ることができないが、
逆に言えば観ることができるものは大抵レベルが高い。
主演のマッシモ・トロイージは心臓病をおして役をこなし、
この映画の撮影終了の12時間後に亡くなったのだという。
死ぬ覚悟での演技にはやはり一種の凄まじさがこもる。
世界の美しさをはじめて知るラストシーンは、
一俳優の人生最後のシーンにこれ以上なくふさわしい。
バリューセレクション MOTHER 1+2/任天堂
¥2,800
Amazon.co.jp

『おとなも こどもも おねーさんも。』

おとなにとっては天才的なコピーライター、こどもにとっては釣りと埋蔵金好きのおっさんである、糸井重里がつくったゲーム。僕はスーファミを持っていなかったのでこの年になってはじめてプレイした。2しかやってないけど。これ、まさに『おとな』のためのゲームです。こどもがやってもおもろいが、おとなでなければわからんおもしろ要素が多すぎる。とにかく台詞がすごすぎる。例を以下にあげよう。

「きみ、レストランのべつのテーブルのきゃくにやたらはなしかけることは… こんやくしゃのへやにはいって、ものもいわずにタンスのひきだしをしらべて…ちいさなメダルをさがすようないじょうなこういだよ。ま…じじょうがあるならしかたないけど、ね。」

 →ドラクエ5をやってる人にしかわからない。
  それにしても、この台詞のセンスのよさといったら!

「ふめつ…とはなにか?そんざいのたえられないかるさ。うーむうーむ。」

 →ミラン・クンデラ。小説です。

「ブルーブルー。かぎりなくとうめいにちかくないブルーブルー。」

 →限りなく透明に近いブルー。村上龍の小説より。

「『マザー2』ってもうはつばいになったのかな。
 ずいぶんおくれてたけど…。」

 →メタ。実際、発売が随分遅れた。
 
「しっぱいはせいこうのマザー2である。」

 →さらりと洒落てしまうかっこよさ。
 
「せいだせば、こおるまもなしみずぐるま。」

 →看板を読むとこんなことが書いてある。
  精出せば、凍る間もなし水車。

「くたびれたサブマリン。きいろいのはたまたまである。」

 →サブマリンを調べるとこんな説明が出てくる。
  もちろん、ビートルズのイエロー・サブマリンを洒落ている。

「なんか むつかしいことを
 かんがえよう。
 これからの ぼくは。」

 →宇宙人みたいなやつ、どせいさんの台詞。
  マザー2のなかで一番気に入った台詞。
  この台詞の良さを説明することはできんだろう。


というわけで、おとなの僕は年末年始これで遊びました。
ものすごい体験だった。
映画はここまできてしまったか。

3D映画なんてもっと安っぽい立体感を想像していたが、臨場感と奥行きの立体感は僕の想像をはるかに上回った。どうせ手前と奥の2段階のちゃちい立体感だと思っていたら、とんでもない、多段階どころか本物の奥行きだった。崖の上から下を見るときの底の深さときたら。やはりキューブリックの遺伝子を継ぐジェームズ・キャメロン、3Dという難しい仕事を丁寧に完璧にこなしてくれた。

3Dは実際のところ賛否両論らしいけど、僕は映画館では必ず前の方に座るから臨場感がもう半端ではなく、完全に映画の中の世界に入ってしまっていた。前の方に座るか、大きい映画館で見るほうがいいかも。が、3Dは映画館でしか体験できない。絶対、映画館で観たほうがいい。

それにしてもこの映画、映画ファンよりアニメファン向きだと言える。ストーリーは完全に「もののけ姫」。ジェームズ・キャメロンは100%、もののけ姫を観ている。が、そこはやはりアメリカ映画で、超単純化してしまった。ストーリーではもののけ姫には到底及ばない。そしてところどころ垣間見える押井守リスペクト。アバターの仕組みはマトリックスっぽいと言われているが、マトリックスはそもそも攻殻機動隊のパクリで、押井守を映画会社に売りにいったこともあるキャメロンはやはり直接的に押井守作品を消化していると見るべきだろう。アバターの中には人が操るロボットが出てくるが、これは完全に士郎正宗作品にしばしばでてくるパワードスーツ(攻殻機動隊で言う強化外骨格)。要するにこの作品は、ジェームズ・キャメロンという完璧主義者が、宮崎駿と押井守の影響を受けて、ハリウッドの巨額の資本を投入して作った映画だと言ってしまおう。アニメファンとしてはかなりうれしかった。

この映画は、異星人の気持ち悪い造形のせいで、興行的にはかなり損をしていると思う。パッと見、安っぽくて気持ち悪い造形だからわざわざ金払って映画観ようという気にならない面もあるかもしれない。だがあの造形はギリギリのバランスで作られたものだ。もっっときれいに作ろうと思えばいくらでもきれいに作れたが、きれいに作っては意味がなかったのだ。そしてそれは残念ながら、映画を見てみないとわからない。

映像も素晴らしいが、脚本も単純ではあるが積み上げ方が巧い。ひとつひとつ丁寧に積み上げていって、いつの間にか観客を引き込んでいる。3Dの臨場感も相まって、僕はもう、完全に入っちゃった。特にアニメファンにはこの映画のすごさがわかるだろう。久々に、映画が進化していると実感した。映画の概念すら変えてしまいそうな傑作。
グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)/スコット フィッツジェラルド
¥861
Amazon.co.jp

素晴らしい。
村上春樹がもっとも愛した作品を、
村上春樹が訳したライフワーク。
渾身の翻訳である。

大人になって、僕らはあきらめた。
現実との折り合いをうまくつけること。
それはあきらめに他ならないというのに、
僕らはそれに気づかないふりをしている。
純粋な心はどこへ。
あのころの思いはどこへ。
今の僕らはがらんどうの抜け殻みたいな存在で、
すっぽり空いた空洞を埋めようとして哀しくなる。
グレート・ギャツビーはつまりそういう話だ。
そんな話なのに救われるのはなぜだろう。
こんな話なのになぜ美しいと感じてしまうんだろう。
それがわからないから、文学は素晴らしいのだ。