- ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界 (ちくま文庫)/阿部 謹也
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ハーメルンの笛吹き男の伝説を知っているだろうか?以下、ウィキペディアより引用。
『1284年、ハーメルンに「鼠捕り」を名乗る色とりどりの布で作った衣装をまとった男がやって来て、報酬と引き換えに街を荒らしまわるネズミの駆除を持ち掛けた。ハーメルンの人々は男にネズミ退治の報酬を約束した。すると男は笛を取り、笛の音でネズミの群れを惹き付けると、ヴェーザー川におびき寄せ、ネズミを残さず溺れ死にさせた。ネズミ退治が成功したにもかかわらず、ハーメルンの人々は約束を破り、笛吹き男への報酬を出し渋った。
怒った笛吹き男はハーメルンの街を後にしたが、6月26日の朝(一説によれば昼間)に再び戻って来た。住民が教会にいる間に、笛吹き男は再び笛を吹き鳴らし、ハーメルンの子供達を街から連れ去った。130人の少年少女が笛吹き男の後に続き、洞窟の中に誘い入れられた。そして、洞窟は内側から封印され、笛吹き男も洞窟に入った子供達も二度と戻って来なかった。』
だがウィキペディアではこの物語のもっとも重要な部分がカットされてしまっている。以下、本書より引用。
『こうした事態を目撃した子守娘はやがて引き返して町に戻り、町中に知らせたのである。子供たちの親は皆家々の戸口からいっせいに走り出てきて、悲しみで胸がはりさけんばかりになりながらわが子を探し求めた。母親たちは悲しみの叫び声をあげて泣き崩れた。』
伝説は時代を超えて語り継がれることによってはじめて伝説となる。したがって、伝説が伝説足りうるためには世代を超える普遍性が必要となる。この物語が語り継がれているのは、子を失う親の気持ちこそが最大の一点だろう。
さて、この伝説はどうやら単なる作り話ではないらしい。事実をもとにしてできている。ゾクッとしないだろうか。ではその事実とは何か。これは私たちが学校で学んできた歴史とは異なる歴史である。だが著者のアプローチは実は、ハーメルン伝説の事実が何であったかよりも、この伝説がなぜどのようにして口承されてきたのかを見ることにより歴史を語ろうとするという、人々の心の底に流れるものを掬い取ろうとするようなアプローチなのだ。
しかしこの本はエンターテイメントとして非常に上手い。なぜ130人の子供たちはいなくなったのか?この謎を冒頭で据え置いて少しずつ明らかにしていく様はまるでミステリーのようである。文章も極めて上手く、学術的な知的刺激を得ることは言うまでもない。名著と名高い作品だが、まさに名著の名がふさわしい。