歴史と友情を刻む
名古屋クラブとの定期戦の5日前。
1枚の写真と激励メッセージが送られてきた。
「1979年、六甲クラブ創立10周年の10月、名古屋クラブ定期戦(名工大グラウンド)。残念ながら20対72で完敗。今年の健闘を祈る!」
六甲クラブ5代目主将・石光一郎氏からだった。
自分たちが生まれる前からこの定期戦は続いているんだー。
2点差とはいえ、1週間前に芦屋クラブに初めて敗れた現役メンバー・スタッフにとって、気持ちを奮い立たせるには十分すぎる1枚だった。
ともに50年以上の歴史を誇るクラブ。毎年互いの本拠地を訪問して定期戦を行っている。今季は六甲クラブがホスト役。関西屈指の天然芝環境を持つJR西日本鷹取グラウンドで行われた。
「千里馬クラブに勝ったけど、芦屋クラブに負けた。きょうの名古屋クラブはその芦屋クラブに(先日の試合で)勝ってます。チャレンジャーとして、ガンガンいきましょう!」
チーム集合時に、安主将はこう切り出しながら、FW/BKのフォーカスポイントを確認した。
「(芦屋戦で完敗だった)こぼれ球、イーブンボールの働きかけは、きょうはこの雨だからもっと多くなる。しっかりリアクションしよう!」
名古屋クラブは内田会長自らハンドルを握り、約3時間半かけて到着。選手・スタッフ総勢26人の万全態勢でやってきた。
芦屋クラブ戦にも快勝、多くの新戦力も入り、勢いを増しているという。
六甲のキックオフで始まった。互いに敵陣に攻め入るが、雨で手元が滑りチャンスを潰す場面が目立った。
芦屋戦の反省から、この日の六甲はブレイクダウン、こぼれ球にも鋭く反応して再三ピンチを脱出する。
試合が動いたのは前半16分、反則をもらった六甲はFBが自らタップキックで前進した後、相手陣形裏へキックを転がし、駆け上がってきたWTB三木が、左隅に押さえ込み先制のトライをあげた。
続く24分には5㍍ラインアウトからモールを組み込み力強くドライブ。最後はHO梅田がタッチダウン。
このあたりは六甲の時間帯だったか。SH下村が巧みに左右にさばいて敵陣でフェイズを重ねて名古屋の反則を誘う。トライかと思われた場面で、名古屋の逆襲にあい、ハーフラインまで持ち返されても切れることなく、再び敵陣に入る。
33分、「今度こそ」とばかりに左に大きく展開してWTB三木がトライ。
前半終了間際には、FWがラッシュして名古屋ゴールラインにラッシュ。密集でもみくちゃになり、喧噪とする雰囲気だったが、状況を素知らぬ顔でよく見ていた下村は、反則のリスタートから右端へパス一閃。WTB鈴木のトライとなり、22ー0でのハーフタイムとなった。
ハーフタイムでFW/BKに分かれて修正点を確認していく。よりよくするため互いに意見を出しあう。
「まだまだこれから。気を緩めちゃダメ。後半も0-0からの気持ちで!」
入れ替え自由の定期戦とあって、交代指示を務めた谷TDは前半からFW、BKとも選手やポジションを入れ替えて試していく。
後半早々、敵陣5㍍付近ラインアウトで六甲はガッチリモールを押し込んでトライ。SO伊藤のコンバージョンも決まって29ー0とした。
名古屋クラブの激しい圧力もあり、この日のFWは先発でケガ人が続出したが、交代でピッチに入った選手が大いに奮闘した。
越田祐と越田勝。兵庫が生んだ「最強のPR兄弟」だ。スクラムはもとより、局地戦や密集プレーで威力を発揮。2人ともサイズはそれほど大きくはないが、体幹と「かいな力」が強く、相手に絡んでボールをそのまま奪い取りピンチを脱出させたり、「デフェンスが好きなんですよ」と話す弟の勝利は、フロントローとは思えない低いタックルを連発した。
FL井上遼はさすのがといった仕事量。あらゆる局面で顔を出し、黙々と仕事をこなす。細かい立ち位置、プレッシャーをかけて、六甲のDFラインをしっかり上げていた。
前半、やや気合いが空回りしていた名古屋もここから反撃。後半はお返しとばかりに、素早い展開から左隅にトライをあげる。
六甲も次々とフレッシュな選手を投入したり、ポジションを替えて攻撃のオプションを試していく。ゴール前まで何度も迫るが、やはり雨で「幻のトライ」になったり、攻め込みすぎてボールがつながらなかったりする場面も目立った。
後半20分過ぎ、会場が盛り上がるプレーがあった。自陣22㍍付近まで蹴り込まれたボールを、戻ってきたFL粟田が落ち着いて拾い上げ、独特の「ため」で名古屋防御を2人かわして逆襲に出る。安藤→山下から下村に渡り、下村は左に回してルークへ。ルークは力強く前進して斬り込んだところを下村から藤井へ。藤井は名古屋防御を突破してゴールに迫る。そこから北畑、最後はFWのスンギに渡り、じつに9回つないでトライに持ち込んだ。
名古屋クラブも最後に2トライをあげ、36ー17でのノーサイドとなった。雨の中でも両軍とも激しくファイトして、最後まで締まった好ゲームだった。
試合後のファンクションで、安主将は「きょうは,イーブンボールの場面で、六甲にラッキーな流れもあってトライが取れたが、名古屋さんに学ぶありましたありました」と語り、名古屋クラブ内田代表も「また全国大会の決勝で戦えるよう、お互い切磋琢磨して頑張りましょう!」と互いの健闘を誓い合った。
全体解散前の集合で、谷TDが感想を述べる。「いいゲームだったと思います。ただ後半入れ替えの選手たちが、悪くなった、きょうは流れを変えたりすることができなかった」。
攻勢が続くチームの中で「俺もやってやる」という気持ちが強すぎると、時に流れが変わったり、停滞する時もある。気持ちはたかぶっても、冷静に自分が何をすべきか、仲間に何を伝えていくのか。それができるようになれば、もっともっとチームは強くなる。
もちろん新たな課題や修正点はまだまだある。ただ、先週敗れたことで、「自分たちの力」、「勝負へのこだわり」を再認識できて、チームは一歩階段を上がった。何よりも「勝利の先の楽しさ」をたくさんの仲間で共有できたことが大きい。
世代、出身校、職種、ラグビーのバックボーン…。十人十色の仲間が集まり、時にはイジり合い、時には励まし合って強くなっていくのが、六甲クラブの特色だ。
もっと楽しく!
もっと強く!
(三宮清純)