悔し涙の向こう側
夕暮の熊谷ラグビー場Bグラウンドに、ノーサイドを告げる榊レフェリーの笛が鳴り響いた。
7ー26。実に14年ぶりとなる1回戦敗退が決まり、枯れ芝の上で六甲戦士はガックリと膝をついた。
「ようやく待ちに待った全国大会。(コロナ禍で練習グラウンドが確保できず)宝塚河川敷や早朝の合同練習を積み重ねてきた成果を見せましょう!」
SO中村健人は主将として初めて迎える全国の舞台でゲキをとばした。
初戦の相手は昨年に続きハーキュリーズ。全部員が慶大ラグビー部OBでスキルも経験値も高いエリートチーム。今季はSOに元サントリーの竹本竜太郎が加わり、さらにベンチからは慶大はもとより、多くのトップチームでヘッドコーチを務めた、林雅人さんがベンチから的確な指示を送る必勝態勢で臨んできた。
ハーキュリーズのキックオフで始まった。スピードあふれるハーキュリーズの攻撃を猛タックルで盛り返す六甲。「(この日の)前の2試合と全然スピードと迫力が違うなあ」と大会関係者がもらしたように、序盤から手に汗握る攻防が続く。
ハーキュリーズSO竹山の効果的なキックで六甲は自陣での戦いが続く。前半12分。ハーキュリーズは連続攻撃で六甲の防御裏にキックパス。WTB豊島が拾い上げ左中間にトライ。ゴールは外れたが、ハーキュリーズが5点を先制した。
自陣での戦いが続いた六甲。早めにスコアしたいと敵陣を目指すが、勝負所でのブレイクダウンでターンオーバー、距離を狙いすぎたタッチキックミスなどが目立ち、リズムに乗りきれない。
数少ないチャンスの中、LO糊谷がゲインラインを突破してトライを狙ったがならなかった。
少し心配されたスクラムやセットプレーも安定。FWも木曽や糊谷、ズキが弾頭となって突破をはかるが、ハーキュリーズの「ケイオー仕込み」の低いタックルに拒まれる。
前半終了間際、ハーキュリーズが再びラッシュ攻撃。ゴール前際で六甲SH瀧村のプレーが「故意のパスカット」とみなされ、シンビン、認定トライとなって0ー12でのハーフタイムとなった。
迎えた後半、PGでもいいからスコアしたい六甲に対し、ハーキュリーズは凡事徹底とばかりにマイボールキープを続ける。
前半多かった反則もキッチリ修正して有利にゲームを進めていく。六甲もフェイズを重ねて攻撃を仕掛けるが、長いパススキルと広い防御網を持つハーキュリーズは、WTBが両サイドギリギリまで立つので、効果的にゲインラインを越えることが出来ない。
後半最初の得点もハーキュリーズだった。後半10分、SH江嵜に右中間にトライを決められ0ー19。六甲はさらに苦しくなった。
27分、ようやく六甲にチャンスが巡ってきた。WTB三木勇が40㍍を走り抜け右中間にトライ。SO中村のゴールも決まって7ー19とする。
しかしハーキュリーズは少しも慌てることなくSO竹本のキックで六甲陣に入り有利に試合を展開していく。六甲も三木亮の凄まじいタックルで流れを変えようとするが後が続かない。時間が経つにつれて焦りも募り、自陣からの攻撃にも精度を欠いていく。何度か抜ける場面もありトライに結びつくかと思われたが、追われながらの防御の時間がフォローの脚を遅らせていた。
2021年シーズンの六甲ファイティングブルのチャレンジは道半ばで終わりを告げた。
「完全に相手ペースでした。まだまだ課題を感じた試合でした」(FL鶴﨑)
「ずっと試合に出させてもらって、『勝ちたい』という思いが支えてくれる皆を『勝たせたい』という気持ちになった。今思えばもっと自分もやりようがあったのかなと」(LO糊谷)
「全国大会のプレッシャーに潰されたと感じました。前日のホテルでも皆カチカチだったかな?メンタルのコントロールが出来てなかったように感じます」(SH/FL谷)
「チーム全体としての経験の差、選手それぞれの経験と理解力の差が大きかったと思いました」(CTB三木亮)
「完敗でした。僕たちの目標だった日本一をハーキュリーズさんには必ずなってほしい」と、中村主将は男らしくエールを送った。
昨年から続くコロナ禍の中でなかなか思うような活動が出来なかった。だがそれはどこのチームも同じだ。負けをしっかり受け止めて次にどう生かしていくか。自分たちの弱さに気付きそこからどう立ち上がるか。情熱の赤いジャージに全ての六甲戦士達は悔しさを染みこませ、リベンジを誓った。
50年以上続く六甲クラブの歴史は多くの勝ち負けを繰り返してきた。仕事や家庭を持ちながら真剣にラグビーを楽しみ、勝利を追求するクラブラグビー。自分たちより強いチームがいれば、それが明日への活力にもなる。
うつむくことなく、六甲ファイティングブルはまた走り始める。
人生はチャレンジだ。
(三宮清純)