例えば
僕が君に対して酷いことをしてしまったのなら
例えば
僕が君の笑顔を崩してしまうような瞬間があったなら
例えば
僕が君の生活に入り込む隙間が無かったのなら
失ったものの重さと かげかえの無さに
今更 何をすることも
許されないような気がして
喜びと 悲しみは
紙一重だと知っていたはずなのに
例えば
私が君の前に現れる日がまた来るのなら
例えば
流れる時と自然の美しさに 素直に感動できたなら
例えば
あの時 私が死んでいたなら
私と君だけにしかない
二人だけのものが存在していたから
その素晴らしい瞬間を 誇りに思いたい
今更 何をすることも
許されないような気がして
今はただ 人生の空しさと
君の影を追い続けている
今更 笑うことも
意味が無いような気がして
今はただ 風の音と記憶だけが
私の唯一の絆だから
誰も到達することの出来ない心理の世界へ、
周りには誰もいなくなっていく。
結局、人というものは独りで何かを成し遂げなければならない瞬間は幾つかある。
人は、その環境によって自分の表現するものが限定されてきてしまう。
それが自己の欲求と相反することであったとしても、生活の為に苦しみを余儀なくされる。
すると、もはや未来に希望は持てず、過去の思い出を栄光として、
それに縋り付いて、生きていくのが関の山。
私は、日常のギャップに憧れている。
在り来たりな日常はつまらなくて、感動出来ないから、
生存目的をしばし忘却し、ナンセンスな生活を繰り返し続けることにモラトリアムの快感を享受する。
勿論、それではいずれ滅びてしまう。
問題は時間の早いか遅いかである。
人からどう思われるかは、重要な面と重要でない面が共存する。
やはり、私は自分の憧れに成りたいから、
人の心理の狭間を狙って、生きていたい。
今までも、多分そうやってた。
だから、苦しい気持ちばかり抱えてる。
他の人達からすると、そんな風には見えないだろうけどね。
本当に。
椅子に座っている。
普段と何ら変わりない格好で。
狭い密室に一人、座っている。
部屋の中は全く薄暗く、刑務所の牢屋の様相である。
僅かな窓から日差しがこぼれているのだが、今日は天候が悪いらしく、光があまり入らない。
私はいつからここに座っていたのか、思い出す作業を行ってみるが、
どうにも、記憶が曖昧になっているようで、寝起きのような感覚である。
夢の中、といった方がニュアンス的に適合するのかもしれない。
私はもしかしたら、物心ついた時からずっと、この密室で座っていたのかもしれないと思った。
それは、私がこの密室から脱出できないという物理的な理由でもって、
理由を自己正当化し、本当は密室から外の世界に出ることが怖くて仕方がないのを、
誤魔化しているだけなのかもしれなかった。
私は、密室から出る努力をしたことがあったのだろうか。
椅子に座っている。
私は腰を上げた。自然に立つことが出来る。
狭い密室の中、私はこの部屋からどうすれば出られるのか。
辺りは薄暗いので、何が置いて在るのかぼやけてよく見えないが、
前方には、インターホンのような装置が壁に付けてあるのを確認することが出来た。
突然、インターホンのスピーカから、ワルツのリズムが流れてきた。
ワルツのリズムに乗って、ピアノとバイオリンのアンサンブルが協奏する。
やがて、こんな歌が流れてきた。
あやまることを
よしなさいな
拾ったものは食べてはいけません
見下すことを
よしなさいな
明日は我が身の法則に乗っ取って
雁字搦めは多いけれど
貴方が思っているよりも
この世界はおいしいの
お便りお持ちしているペリカン
お菓子の国へようこそ
なんともメルヘンチックな曲である。
私はインターホンに向けて、語り出した。
その人の気持ちは
その人の境遇にならないと理解できない
だから、その人の気持ちは一生理解できない
それでも、理解しようと頑張ったり、寄り添ったりすることは出来る。
それぐらいの心理的スペースを与えてくださいな。
さもなければ、河童はずっと川の中でしか生きられないのです。
魚は、陸に上がってこれたので、進化して人間になったのですから。
インターホンが突然、鳴り響いた。
私は「はい」と応えると、
「宅急便です」
私への贈り物って、一体何だろう。
そしたら、次の瞬間、私は桜の散る公園のベンチに座っていた。
私への宅急便は、
「虚無への渇望」を癒してくれた瞬間だった。