椅子に座っている。
普段と何ら変わりない格好で。
狭い密室に一人、座っている。
部屋の中は全く薄暗く、刑務所の牢屋の様相である。
僅かな窓から日差しがこぼれているのだが、今日は天候が悪いらしく、光があまり入らない。
私はいつからここに座っていたのか、思い出す作業を行ってみるが、
どうにも、記憶が曖昧になっているようで、寝起きのような感覚である。
夢の中、といった方がニュアンス的に適合するのかもしれない。
私はもしかしたら、物心ついた時からずっと、この密室で座っていたのかもしれないと思った。
それは、私がこの密室から脱出できないという物理的な理由でもって、
理由を自己正当化し、本当は密室から外の世界に出ることが怖くて仕方がないのを、
誤魔化しているだけなのかもしれなかった。
私は、密室から出る努力をしたことがあったのだろうか。
椅子に座っている。
私は腰を上げた。自然に立つことが出来る。
狭い密室の中、私はこの部屋からどうすれば出られるのか。
辺りは薄暗いので、何が置いて在るのかぼやけてよく見えないが、
前方には、インターホンのような装置が壁に付けてあるのを確認することが出来た。
突然、インターホンのスピーカから、ワルツのリズムが流れてきた。
ワルツのリズムに乗って、ピアノとバイオリンのアンサンブルが協奏する。
やがて、こんな歌が流れてきた。
あやまることを
よしなさいな
拾ったものは食べてはいけません
見下すことを
よしなさいな
明日は我が身の法則に乗っ取って
雁字搦めは多いけれど
貴方が思っているよりも
この世界はおいしいの
お便りお持ちしているペリカン
お菓子の国へようこそ
なんともメルヘンチックな曲である。
私はインターホンに向けて、語り出した。
その人の気持ちは
その人の境遇にならないと理解できない
だから、その人の気持ちは一生理解できない
それでも、理解しようと頑張ったり、寄り添ったりすることは出来る。
それぐらいの心理的スペースを与えてくださいな。
さもなければ、河童はずっと川の中でしか生きられないのです。
魚は、陸に上がってこれたので、進化して人間になったのですから。
インターホンが突然、鳴り響いた。
私は「はい」と応えると、
「宅急便です」
私への贈り物って、一体何だろう。
そしたら、次の瞬間、私は桜の散る公園のベンチに座っていた。
私への宅急便は、
「虚無への渇望」を癒してくれた瞬間だった。