アルキメデス王は王座の前でメビウスと対峙していた。
王は一流の剣の使い手であり、スピード、キレ等は全盛期に及ばないが、
それを補って余りある人生経験と知識によって、現在も現役として十分に活躍できる程である。
メビウスは王の第一僕である。
この度、メビウスは国に対して反乱を起こした。
青年期の若者特有にみられるような、無知と無鉄砲さの勢いでもって、
自分が世界を変えてやろうとしたのだ。
その手始めに、王と対決することに決めた。
メビウスは王の側近なので、王の近くに居るのは当然なので誰も疑わない。
メビウスは剣を取り戻せない。
自分の剣が此程まで愚かなものとは思わなかった。
自分はこれまで幾度の戦場を潜り抜け、大切なものを沢山失ってきた。
得たものよりも、失ったものの方が多いかもしれない。
それは失ったものに対して罪悪感と哀愁が混在しているかの様で、
それらについて振り払うことが出来ない焦燥がやがて憎しみとなり、
動機、生きるモチベーションへと昇華させる。
自分とは、負の感情を燃え盛らせることでしか、己を体現することが出来ない不器用者なのだと、
悟ったのは5年くらい前になるだろうか。
それでも、
最終的には、
結局は、
空しさだけが残る。と、
僅かに気付いてもいたが、それを信じたくなかった。
だから私は、かつてこの国最強を誇った剣技の前で、精一杯散華してやろう。
それもまた、一つの人生の形では無いか。
それで一つの出来事へと形成されるなら、それもそれで...
メビウスは片腕を鮮やかに斬りつけられている。
不思議なことに、血は全く出ていない。
人間の傷口というのは、切れ味が悪ければ悪いほど大量に出血し、
治癒も大幅に時間が掛かってしまう。
現代の医療器具において、オペ時に人間の肌を切裂く為に使われている「メス」という刃物があるが、
これの材質は「サージカル・ステンレス」というものである。
非常に硬質で純度が高く、熟練された術者が扱えば出血は最小限で済む。
つまりは、抜群の切れ味を持った刃物か、
洗練された剣技の究極か、おそらく後者。
今まで自分がどれだけ、憎んで吐いて恨んできたものでも、
完璧なる者には叶わないのかと、絶望を再び味わう。
そして、その絶望を、自分の力へ変えていく..
「いい加減、止めにしないか」
アルキメデス王がそう告げた。
実力の歴然の差は身体でもう理解していた。
だが、剣士として、男として、一度向かっていった相手へ逃げることは許されない!
メビウスは集中力を高め、剣を分身させる。
スピードを高めた振りによって、剣が3つに増えたような幻覚を発生させる。
その刹那、剣は王の元へ弾かれた。
王は自分以上のスピードで、剣の持ち手に対してダメージを与えたのだ。
持ち手であった右手が、痙攣してしまっている。
同時に、自分は足のアキレス腱を的確に斬られていることをやっと感知した。
もはや、これまでだった。
自分は、何も出来なかった。
だから、何も出来ないまま、無くなってしまおう。
メビウスは王へ質問した。
「どうして、こんなつらい思いを、私だけが?」
王は答える。
「それはお前が、生き残ってきたからだ。」
人間は、
沢山の罪を背負って、
沢山の命を犠牲にして
沢山の過ちを犯して
沢山の後悔をして
沢山の 涙を流す
それでも 夜明けは必ず来る
「どうして、この世界なのですか?」
誰もが平等な位には存在しておらず、
生まれ育った環境も違えば、容姿も違うし、食べるものも違う。
我々は同じ生き物であることに変わりは無いが、同じ中身をもった人間は、
こんなに腐るほど人口が溢れていても、誰一人存在はしない。
だから、個人の世界と他人の世界が全て重なり合うことはほぼ不可能に近い。
だが、僅かに重なったり、重なる所が大事だったりすると、
世界を共有できて、我々の根本が顕れる。
馴れ合いの友情、下らない上下関係、意味不明の恋愛、単調な生活、
自分にしか、出来ないことがあるはずだ。
自分にしか、分からないことがあるはずだ。
あとは、それを極めるのみ。
メビウス。
死ぬのは、まだ、早いぞ。