最近は、どこもかしこも『AI』一辺倒である。AIを制する者が世界を如くに。だが、こうした中にあってさえ、その逆を突いて成功する場合もある。御用聞きや宅配などはその典型であろう。バブル崩壊やリーマンショックを境に、非効率だとして途絶えていた業態までが、ここにきて復活しているのだ。ウーバーイーツだけではない。リサイクル(古物商)は言うに及ばず人力車まで。あたかも『成功の秘訣は過去&少数派にあり』といったところか。
かつて、ガイアの夜明け(テレ東)では、パメラの開発秘話が取り上げられていた。メモ機能に特化した電子手帳のことだが、これが製品化される過程が実に興味深い。
開発当初、メモ機能だけでは売れないと、誰もが製品化には消極的だった。採決を取った。案の定20人中19人は反対だった。面白いのは、ここからである。普通なら、ここで即刻否決だろう。だが違った。賛成を重視した。なぜなら、20人に1人でも賛成があれば、この日本には500万人の需要がある、と考えたのだ。その後、製品化され、爆発的なヒットに結び付いたのはいうまでもない。
売れ筋は多数派だけとは限らない。うどんやソバでは腰の強さをを競うが、外国人旅行者から「日本人の顎は鋼で出来ているのか」と不思議がられるように、固さも度を越すと、とても噛めない。結果として柔らか嗜好の約3割の顧客を見逃してしまうことになる。身近なところでは“ペット”もそうだ。
〈犬の飼育(ペット)頭数〉
日本には現在、犬684万匹、猫は907万匹が、ペットとして飼われている。このところのブームもあって猫は減らないものの、犬だけは減少傾向にある。諸外国との比較でも、人口当たりの所有率は、まだまだ低い。ことに犬は低い。世界を見渡しても犬より猫が多いのは日本くらいだそうだ。理由は、高齢者にとって犬は負担が大きいだけでなく「亡き後が心配」といったこともあるが、最大のネックは環境であろう。
〈猫の飼育(ペット)頭数〉
都市化に伴い集合住宅への入居率は一段と高まった。しかし、その多くは、犬猫といったペットの持ち込みを禁じている。一般家屋でも、大都市近郊のニュータウンでは、隣近所への迷惑を気にすると、なかなか飼うことさえ出来ない。即ち、飼いたくても飼えない世帯が、300万から350万世帯はあるということでもある。
ではなぜ、こうした需要を掘り起こさないのだろうか。家にペットを持ち込めない世帯を対象にしたペットビジネスが派生しないのだろうか。出張や旅行、病気入院などに対応した一時預かり(ペットホテル)はあるのに、マイホーム型のペットルームだけはないのだ。自身が知らないだけなのか、すでに存在するが事業として成り立たないのか、或いは法的な規制で困難なのかは不明ながら、大きなビジネスチャンスを逃しているように思えてならない。
一時預かりではない。あくまで滞在型である。都合に応じて連れ出し、自宅に入れない時間帯だけ預ける、といったシステムのことだ。もし実現可能なら月1万円の預かり料としても3千億を超える市場があり、2万円なら倍は無論のこと、関連する衣食住から付帯サービスまで加えるなら1兆円規模のビジネスが眠っていることになるが。
〈単身高齢者の推移〉
近年、少子高齢化で独り暮らしの世帯が急増している。限界集落では高齢者世帯を対象に中心市街地への住み替え(集住)を促す。長年、愛犬と暮らしていた高齢者も多いだろう。だが今では制約から飼うことさえ出来ない。こうした世帯も含めれば、その数はさらに増える。
一説では、ペットを飼うことで鬱のみならず認知症にも効果的という。引きこもりになる確率も格段に下がるそうだ。健康寿命を延ばし医療や介護に要する財源を節約する意味でも大いに役立つだろう。孤立の蔓延は心の闇を増幅する。だからこそ「癒し」が必要であり、こうした業態も不可欠かと思うのだが、どなたか挑戦してみては如何だろうか。
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《おまけ》
「お前を飼ってあげたいのは山々じゃが猿(然る)社会はお犬様との同居を認めんのじゃ」
「俺等も“類猿人”の世話で猫の手を借りたいほど忙しいからニャ~」