「あれ、結婚してたんやね…」
俺達グループのメイクをしてくれる
○○の左薬指に光る指輪を見て、
即座に聞いてしまった。
「そうなんですけどね…」
鏡越しで見る○○はいつもより
元気がなく、寂しそうに俺の目にはうつった。
何回か飲み会をご一緒していたから
独身かと思ってたんは、俺の勝手…
そんな○○が来週で俺らのヘアメイクを辞めると関係者から聞かされた。
今まで無理やりに止めてた
俺のある感情が動き出すのがわかった…
○○の仕事最終日、皆が忙しいのとこのご時世で宴会が出来ないことをチャンスにして、俺は○○を飲みに誘った。
2つ返事だったけど、旦那、大丈夫やったんかな…怒らへんのかな…
場所は高級ホテルのオシャレなBAR。
先に来たのは俺。
少し遅れて○○は来た。
カウンターに並ぶ、グラスビールと
カラフルな甘めのカクテル。
「辞めるなんて急やんなぁ?
やっぱり旦那の仕事の関係かなんか…なん?」
たわいも無い話から始める俺。
良い人は俺の特技やから…
「家の事をして欲しいだけなのよ。せっかくここまでキャリア積んだのにな…」
寂しそうな○○の横顔。
「そうだったんやぁ。
そんなに嫌ならもう別れてしまえばええやん…」
カウンターに肘を付き、
○○に熱い視線を送ってみせた。
「そう出来たら…どんなにいいか…」
お酒の影響なのか…
○○が瞳を潤ませ、俺に視線を送ってくる。○○も俺と同じ?狩りに来てるのか?
「なぁ?旦那って今、家におんの?」
「出張で泊まりなの。
でなきゃ、安田くんの誘い、来られないよ」
「そうなんやぁ」
「それやったら…」
「何か言った?」
「別になんも…やで」
ポケットに入ってる
このホテルの809号室のカードキー。
「なぁ、もう少し話せぇへん?
たまにはホテルに泊まるのもええなぁと思って、部屋とってあるねん。どう?」
「でも…」
「もう会われへんかもしれへんねんで?もう少し、○○と話したいねんけどなぁ。
せっかくお世話になってたんやし…」
「そうだね。
私ももう少し安田くんと話したいからお邪魔させてもらおうかな。」
「よし、行こか!」
俺は会計を済ませ、○○とエレベーターに乗った。さ、どう堕とすか、考えなきゃな。
部屋に入ると冷蔵庫から
ビールを2つ出し、1つを○○へ渡す。
目の前にあるダブルベッド。
普通やったらこの先、何が起きるのか、大人やったらわかるだろう…
ま、夜はこれから。
どう脱がし、味わおうかを考えながら…拒絶されないようにじっくり
距離を縮める事を考えるだけで
俺はワクワクしていた。
ビールを1本飲み終わる頃、
○○は俺の肩に頭を乗せ、
小さな声で囁いた…
「このまま時間が止まってしまえたら楽なのにな…」
俺は○○の肩を抱く。
そして、○○を見つめると
酔ってるのか、潤んだ瞳で
俺を見てきた。絡まる熱い視線…
○○もこうなる事、待ってたんかもなぁ…
俺はわざと言葉にせず
甘い夜へ落ちてく誘いを
することにした。
視線をわざと絡めたまま、
顔を近づけ、○○の唇を指でなぞると○○は目をそっと閉じるから
俺はそのまま○○の唇を甘ったるくてねっとりと塞ぎ、大人なキスを繰り返す…
少し漏れる○○の吐息…
なごり惜しそうに唇を離すと
○○をベッドに押し倒し、メガネを外すとサイドテーブルに置いた。
「なんも考えんと…夜を楽しもうや…」
「でも…」
「ん?」
「…こんな事して…安田くんに本気になったら…どうするの?」
「ふふふっ♪その答え…俺に聞く?○○やって、こうしたかったんやろ?」
「それは…」
「そうでなかったら、こんなとこ来ぉへんやん。夜に男と二人でホテルやで?相手が俺やから安心だとか思ってた?」
俺は○○の頬を優しく撫でる。
そして耳元で囁いてみせ、
そして果実を貪り食うように
○○の唇を塞いだ。
「なんも考えず…俺を感じてみれば…ええやん…」
首筋から香る甘い香り…
そこに舌を這わしながら
○○のまとってるものを剥がし始めた。
無造作に落ちていく服達…
何も纏わない○○の姿は美しくて
滑らかで艶やか…で俺は止まらなくなった…
軋むベッド、絡まる指と指、混ざる液体…
汗ばむ肌が重なり、○○の甘い声を感じながら、俺は思いのままに○○を抱く。
○○は俺の背中に弱いけど
少し爪を立てた…
俺の動きに乱れる○○の姿を
視覚で楽しみ、そして甘い声を塞ぐようにキスをする。
何度も求め合うようにねっとり絡ませたキス。夜に堕ちていけばいい…
「もう…だめ…」
「まだ…やで…」
○○の髪を撫で、
2人の隙間をなくすように
抱きしめながら愛し合い、
そして、2人は朽ち果てた…
腕枕をし、俺は○○を微笑むと
○○も微笑み返してくれた。
「なぁ、帰るん?」
「どうしようかな…」
「朝、帰ればええやん。
もう遅いんやし…終電もないやろ?」
「うん、そうだね♪」
○○は俺にくっついて眠りについた。俺はちょっとの間、その寝顔を見ていた。
「頑張れよ」と心の中で囁いて…
朝、起きると○○の姿はなかった。
「昨日はありがとう」
この一文で○○の答えの中に
俺がいないのは理解出来た。
その通り、連絡は1度もなかった。
風の噂で離婚したとは聞いたけど、○○がどうなったのかは知る由もなかった。
数年後、音楽番組出演でのテレビ局でのメイク室で有名アーティストの
ヘアメイクをしている○○を見かけた。
復帰したんや…
楽屋に戻ろうと歩き出すと○○に声をかけられる。
「安田くん!久しぶり!」
左薬指にあの指輪はされていなかった。
「あの時はありがとうね。
おかげで色んな事が吹っ切れられたよ。色々大変だったけど
またヘアメイクに戻れて、今、△△さんのメイクさせてもらってるんだ」
「良かったやん!」
俺らグループの出演もあって
そのゆっくりは話せなかったけど、
元気そうならそれでいいと俺は思った。
「ほんならまたね♪」
2人だけの秘密で大人な時間。
俺はマイクを手にし、撮影現場へと
向かった。
〈end〉