ずっと見てきた人が
私の隣に座っている。
それだけで正直、パニックを
起こしている頭。
それがバレないように、
仕事でここへ来た大人な女を
演じるよう、自分に言い聞かせていた。
章「大阪はお仕事か、
なんかですか?」
「そうなんですよ…」
出張で来たとか、事実ではない事を
並べてはいるけど、視線を合わすと
にやけてしまう自分を抑えるのに必死にはなるし、グラス持つ手は震えるし、
「彼」が話してることがドキドキで
酸欠気味な私の脳は上手く働かなくなりかけていて、「彼」の話にひきつってるで
あろう、笑顔で返答するのが
精一杯だった。
目の前にあるグラスの色が
変わるたびに
2人の椅子の距離は近くなっている。
それも気づかない程、
飲んでいた。
っていうか、こんなありえない現状に
飲まずにはいられなかった。
そろそろこのBARも閉まる時間が
近づいていて、バーテンダーも片付け
始めていた。
章「もう帰ります?
せっかくここで会うたんやし
部屋飲みでもしませんか♪」
目の前にあるこの笑顔を
見てしまったら
私に断るという選択肢なんて
あるわけがないのだ。
でも、これを「彼」じゃなかったら
こんな選択肢はないわけで、
でも「彼」からしたら
いくら自分が誘ったとしても
初対面の女が
男を部屋に簡単にあげる
軽い女と思っちゃうよね…
あーこんがらがる頭。
答えなんて既に出ているのだ。
どうせ夢みたいな出来事なんだから、
流されてみてもいいんじゃない…
私は自分に言い聞かせた。
「はい♪
少しなら」
章「良かった♪
部屋にある酒、持ってから
そっちお邪魔しますわぁ」
「はい♪」
BARを出た2人はエレベーターで
別れた。
部屋にたどり着いた私に
さっきまで起きていた非現実的な
出来事が襲いかかる。
大好きな「彼」と2人で話せたこと
そして、「彼」がここにくること…
やばいぞ、ツアーバッグはしまわなきゃ。
慌ててクローゼットにしまい込む。
目に入ったベッドに置いといた
章ちゃんBOYもスーツケースに
しまう。
部屋にある「彼」に関わるモノは
全部しまいこんだ。
そして自分に
「出張で来た、仕事の出来る女」の役を
与えることにした。
テレビを付けようと
チャンネルに手を伸ばした時、
部屋のチャイムが鳴った。
扉にある覗き穴を覗き込むと
そこには「彼」が膨らんで重そうな
コンビニ袋を手に持ち、立っていた。
私は深呼吸をして、
その扉を開き、「彼」を招き入れた。
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